来週なんて来週だけど。
ふいにそう杉元に訊かれた。が、来週と聞くと、ついその週の労働についての方を、抱えている案件の進捗の方を思い浮かべてしまう。スーツを着ている時に訊かれれば尚更だ。それでうっかり顔を曇らせてしまったのだが、杉元はきっとなんでそんな嫌そうにするんだよと思っただろうと思う。顔を見て、違うんだ、という気持ちでついた溜め息を聞いて杉元が今度は萎縮して、何でもない、と云い止してしまい、俺も何を訊こうとされていたのか訊くに訊けなくなってしまった。短い沈黙が流れ、お疲れ、と言い合って解散をした。来週、末のことだろうか。来週は第四週だ。
歩きながら足元を見下ろして、落ちていた小石を白線を越えないよう遠くまで蹴ることが出来たなら、次はちゃんと受け答えが出来る、と願を掛けて蹴り、歩いて追い付いた小石が白線の上にあるのを見て、線上を内側に含むか含まないかまでは決めていなかったと目を閉じた。
あっ、なあ、尾形っ。
二日後、杉元が帰宅途中に追い掛けてきて、少し離れたところからそう声を掛けられて立ち止まって振り返る。マスクの上にマフラーを巻いていて苦しかったのか、はあ、はあ、と肩で息をしていて、俺を探し探しここまで走ってきたのだろう。マスクを外し呼吸を整えようと大きく息をする。
あのさぁ、来週なんだけどっ。
杉元お前さあ、なんでそういう云い方をするんだ?
自分でも思ってないくらいの声の大きさでそう訊いてしまい、引き返せなくなった。
なんでそういう言い方って、だって来週末はクリスマスだから。
だから?
だから来週一緒に過ごせないか。
それなら来週なんて云い方をせずにクリスマスをって云えばいいだろ。
え、あ、うん、クリスマス一緒に、
はぁ、と杉元が喋っている途中で溜め息をついて、また黙らせてしまう。
クリスマスか、一緒に過ごしてやってもいい、来週末だろ。というか、そういう特別な日じゃなきゃ駄目なのか。そもそも週末じゃなきゃ駄目なのか。平日は、普通の日は、例えば今夜は、今日、今からじゃ駄目なのか。明日死んだら、どうしてくれる。
捲し立てるように言ってしまい嫌になる。さすがに伝わっただろう。
俺は死ぬ気ねえけど、お前も俺が死なせねえけど、今から毎日でも良いの?
そう訊かれて今度は口を噤んでしまう。
良いんだな?
詰め寄ってきた杉元の顔を悪足掻きのようにひと睨みして目を閉じる。マスクを丁寧に剥ぎ取られて、後はもう御想像のとおりだ。