誘う(凌澄)「……叔父上、手を繋ぎませんか?」
どこかぎこちない台詞と共に肩を寄せ、おずおずと手の甲に触れてきた金凌の指先をちらりと一瞥し、江澄は鼻先で笑った。
「何を白々しいことを」
「白々しいとか言わないでよ!」
声高に叫んだ金凌の横顔はすっかり朱に染まっており、言葉の裏に見え隠れする真意など、既に分かりきっている。
江澄は微笑を浮かべ、金凌の腕を肘で軽く小突いてやった。
「手を繋ぐだけで済む話か?」
「それは……」
もの言いたげな表情で視線を泳がせている甥の横顔を眺めながら、江澄は溜め息をひとつ落とす。
「こっちを見ろ、阿凌」
低い声で名を呼べば、金凌がびくりと肩を震わせた。江澄はもう一度小さく名を呼び、おもむろに金凌の顎を鷲掴む。すっかり視線を捕らえられてしまった金凌は薄く唇を開き、呆然と瞬きを繰り返していた。
江澄はにやりと口端を上げると、甥の耳元へ大胆に唇を寄せ、揶揄う様な声音で一言囁く。
「そんな誘い文句で、俺を落とせると思うなよ」
(完)