スイミーの恋人 ① 煌々と燃え上がるアパートを前にして、蛍は手に持っていたビニール袋をすとんと落とした。
木造二階建ての単身者用賃貸アパートだ。かなり年数が経っていてセキュリティも何もなく、見た目もオンボロだった。ただ家賃が安くて、蛍の通う高校に近かったから選んだだけだった。そのアパートが燃えている。消防車が二台、消火に当たってくれているがもう見るからに手遅れだ。救急車両のサイレンと野次馬のざわめきをどこか遠くに聞きながら、少女は落としたビニール袋をそっと拾い上げて、ふらふらと踵を返した。
かといって行く当てもなく、辿り着いた公園のベンチに一人腰掛ける。真夏の夜だった。玉のような汗が滲んでは肌を滑り落ちていく。肩に担いだリュックが重い。今日はたまたま夏休みの登校日で、今着ている制服といくつかの教科書は無事だったが、他はすべて燃えてしまっただろう。
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