交換条件「いいだろう。ただし条件がある」
「条件?」
「まさか君はこの高度な技術をタダでもらい受けようなんて思ってはいないだろう?」
「それに関しては先ほど謝礼の話を」
「俺が欲しいのは、金で買えないもの──」
開闢門が振り返る。大きく発光するモニターを背に、表情は見えない。
「君自身だ」
「どういう……意味かな」
「そのままだよ。大学時代のあの日のことを忘れたとは言わせない」
寂雷の脳にかつての記憶が蘇る。開闢門から告白されたあの日、確かに自分は首を縦には振らなかった。自分の隣にはいつも獄がいた。時を経て今も──。しかしそれとこれとは話が別だ。
「だが私は……!」
「生憎金は困ってないんだ。断るならそれもいいだろう。だがこの技術は、世界中探せどそう簡単には見つからない。君も本当は分かっているのだろう?」
「……ッ」
「それに、ここに来た時点で君にもう拒否権はないよ」
「え……?」
開闢門が歩み寄り、ソファに腰かけていた寂雷の肩をとんっと軽く押す。
通常なら反動を受け止められるのに、寂雷の体が力なくズル、と崩れ落ちる。
「えっ……?」
長い髪を散らばらせ、ソファに横たわった彼を見下ろす無機質な視線。
「効いてきたようで安心したよ」
「っ、まさか……!」
「そのまさか、さ。君が易々オーケーするなんて思ってないからね。選択肢をあらかじめ一つに絞ってあげたのさ」
「くっ……この……!」
体全体が鉛のように重い。手足は末端に至るまで痺れており、感覚はあるのに指一本動かすことが叶わない。新手の調合薬か、それとも弛緩剤の類か。
「抵抗しても無駄だよ」
耳元で囁き、座面にもたれかかった寂雷の首をするりと撫でる。うなじと耳朶を擽られ、思わずンッ、と声を抑える。
「そういえば今夜君の騎士(ナイト)は遠方へ出張しているそうじゃないか」
「卑怯な……!」
「そう怖い顔をするな。折角だから君も楽しんだらいい」
開闢門はいとも簡単に寂雷を担ぎ上げると、抵抗する寂雷をよそに部屋の最奥にあるベッドルームへと運んで行った。
to be continued…?