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    おいちゃ

    @oitea_tya

    おいちゃ(追茶)です。表には上げにくいものを載せていく予定です

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    おいちゃ

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    マシュマロにて頂いたリクエストより「リネリネ」のお話です!

    #リネリネ

    暗闇と光 ──暗転の舞台、スポットライトがこの身に降り注ぐ。たったそれだけで、観客の目は自然と僕へと注目してしまう。これは人間が持つ暗闇を恐れる本能を利用した演出。人は暗闇の中では生きていけない。……そういえば、人間を暗闇の中で長期間生活させた時どういった変化をもたらすのか、といった実験がどこかであったような気がする。その結果を掻い摘んで話すと、陽の光を浴びないことで徐々に体内時計が狂い、数時間寝たつもりが数十時間寝ていたとか。リズムの変化は体調に直結するもので、食事の量が減ったことで筋肉量は落ち、おおらかだった人が短気になってしまったりと。要するに、暗闇は人を狂わせてしまったのだ。
     おっと、いけないいけない!話が逸れてしまったね。

    「ようこそ!リネとリネットのマジックショーへ!」

     そうして高らかにショーの開演を告げると、暗闇から多くの拍手の波が巻き起こる。その波を一身に受けていると、舞台袖をトトト……っと何かが移動する音が聞こえた。それはとても小さな音で、リネには聞こえていても目の前の観客には聞こえていない。

    「え?今ステージにいるのは私だけ、もう一人がいないじゃないかって?これは痛いところを突かれちゃいましたね……。実は──」

     何も持っていない手で一度パチン、と指を鳴らす。すると先程まで何もなかった指先にカードが一枚現れ、数人の驚きの声が上がる。どうやら彼らは僕たちのショーを見るのは初めてのようだ。特に奥から三番目の席にいるご婦人。彼女はマジックそのものが未経験なようで、スポットライトが点った瞬間からずっと僕の一挙手一投足に釘付けになっている。

    「このカードの柄を見てください。私のショーを知る方ならお察しでしょうが、ここに描かれているのは私の妹でありアシスタントでもあるリネット。……そうです。本来ステージにいて欲しい彼女がなんと、カードになってしまったのです!ああぁ、なんて事だ……リネット、返事をしてくれ!」

     カードを上に掲げ嘆いてみせると、会場全体にどよめきが走る。信じる者に疑う者。反応は十人十色だが、掲げられたカードに注意を向けていることには違いはなかった。後ろの客席には予めルーペが用意されており、先程のご婦人含め遠くからもリネが持つカードのリネットを観察出来るようにしている。

    「相変わらず返答はなし……もしかしたらカードの中は居心地が良いのかもしれませんね。働かなくても良い世界……あれ、そう考えるとちょっと魅力的に感じて来ましたね!」

     客席から笑い声。そろそろ頃合か。

    「しかしずっとこのまま皆さんをお待たせするわけにはいきません。──さぁ皆さん、ご注目!」

     帽子を頭から外して向きを反転させ、被り物から入れ物へと変化させる。そしてカードを持った手を帽子の上へとセット。

    「リネット、開演の時間だよ!」

     リネットが描かれたカードを帽子へと落とし入れ、代わりに帽子から黒と緑のマントをずるりと引きずり出す。そのマントは帽子を飲み込むほど大きいが、慣れた動作で体全体を使うようにしてその場で広げてしまう。リネの背丈ほどもある黒幕をもう一度バサッと羽ばたかせる。その瞬間広がるだけだったそのマントはリボンの形へと姿を変え、マントが覆っていた空間には一人の人間がリネの帽子を被ってそこに立っていた。
     ──会場を揺らさんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

    「さて遅れましたがご挨拶を!私はパフォーマーのリネ。そしてカードからその身を取り戻した彼女──こちらがアシスタントのリネットでございます!本日皆さんのお時間をいただけること、心より光栄に思います!」

     手前から奥、端から端、どこを見ても観客は喜んでくれている。リネットの手を取り自己紹介をすれば、驚きのマジックを見せてくれた僕たち二人に更なる賞賛の嵐が降りかかった。

    「……リネ」
    「ん?」

     恭しく下げていた頭を持ち上げると、リネットが被っていた帽子をリネの頭へと流れるような所作で乗せてくれた。この帽子はマジックショーにおいて大事なアイテム。観客に怪しまれないよう、そしてこの帽子がリネのファッションでもあると認識させるような動作は彼女にしか出来ないだろう。被せられた帽子の位置は完璧で手直しするまでもない。

    「ありがとう、リネット」

     もう少しこの手を握っていたいけど残念ながら今は仕事中。ギュッと一度握ってから手を離すと、妹もそれに答えるように尻尾をそっとリネの足に当ててくる。そして静かなアシスタントはトントンっと軽い足音を立てて袖へと消えて行った。

     ──今は観客の誰もが見ることの出来ない彼女の姿。それでも僕にとっては、彼女にこそスポットライトが当たっているようにどこにいるのか分かる。……そう、僕もまた、光も求めて止まない人間。「リネット」という光のために、そしてリネットが望む「リネ」のため、二人で暗闇の中を生きていくんだ。二人でいる限り、僕たちに狂気が訪れることは無い。

    ■■■

    「お疲れ様、リネット」
    「お疲れ、リネ」
    「今日のショーも盛況だったね!特に、新しく作ったカードの変化マジックも無事成功して何よりだったよ」
    「任務と比べればどうってことないわ」
    「ははっ相変わらずだね。はい」
    「ありがと。……うん、いい香り。ふーふー」
    「さて本題に入ろうか。──撮れた?」
    「……はい。奥から三番目の席にいた婦人が開演前に見ていた手鏡」
    「この写真か。……あぁ、この鏡に掘られた刻印だね」
    「この婦人はマジックそのものを初めて見るほど外出をしない人」
    「だから必然的に、これは夫がこの鏡を手掛けた『商会』と関わりがあることを示す絶対的な証拠となる」
    「……やっと捕まえた」
    「そうだね。ご夫婦にショーへの招待状を贈った甲斐があったというものだよ」
    「これで次に進める」
    「あぁ。もう行ける?」
    「うん、丁度飲み終わったところ」
    「じゃあ行こうか。……『仕事』の時間だ」
    「リネ。……手を」
    「勿論さ。我が親愛なる、リネット」
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