12/14:来年の計画または目標 ランスロットが黒竜騎士団の団員になってから初めて迎えた冬のこと。もうすぐ年が明けるこの時期は、与えられた長期休暇を利用して多くの者が故郷に帰っていたが、一部の団員達と同様に、ランスロットは帰省せずに王都に残る事を選んでいた。
鍛錬をして過ごす日々の中、時折、ランスロットは管理者に頼み込んで城内の図書室へ足を運んでいた。歴代の戦で使用した陣形についての資料や他国の兵法書等、騎士になる前は触れることすら出来なかった知識を積極的に取り込もうとしていた。
その日も図書室に篭り、前回読み終えることが出来なかった本に向き合っていると突然声をかけられる。
「何だ、お前だったか」
「あ……ジークフリート団長!」
集中するあまり、その気配に気付くことが出来ずランスロットは声は出さなかったものの少々過剰に驚いてしまった。
「もうすぐ閉館の時間だ、ランスロット」
慌てて窓の方に目を向けると、高い位置にあった太陽はすっかり下がり、辺りをうっすらと赤く染めていた。
「すみません、つい夢中に……」
「ふっ……随分と没頭していたな」
ランスロットが読んでいた本は様々な国の礼儀作法をまとめたものだった。
「……すまないが、鍵を任せてもいいか?」
「え、あ、はい!」
ジークフリートは図書室の鍵を手渡すと、ほどほどにな、と付け足した。言葉の真意を理解した瞬間、震えるほどの喜びが込み上げる。
「ありがとうございます!ジークフリートさん!」
きょとんとする相手の反応で、ランスロットは自分の失言を自覚する。気が緩んでいたのか、団長と呼ばなければいけない相手に、いつも団員同士でジークフリートの話をする際の呼び方をしてしまった。入団試験での反省を活かし、礼儀礼節について一から学ぼうと思っていたのに、これでは意味がない。
「礼節に欠ける言い方を……大変失礼致しました……」
自分の言動を恥じ、深々と頭を下げるランスロットに対し、ジークフリートは普段より幾分穏やかな声色で応えた。
「その呼び方に礼節がないとは、俺は思わないがな」
図書室から出ていく後ろ姿を、ランスロットは放心したように見つめていた。
普段、どんな相手にもえこひいきをしない、尊敬してやまない人からの言葉。自惚れでしかないことはわかっていても、彼から貰ったそのひと言が自分宛の特別な贈り物のように思え、心の奥が熱くなる。
年が明ける頃、少なくとも今よりは必ず成長してみせようと、ランスロットは受け取った鍵を握る手に力を入れた。