12/24:クリスマス 王都から少し離れた地の村の子供達にプレゼントを配り終えた2人は、空になった袋と先程まで頭につけていたサンタの帽子やトナカイの角をそれぞれ手に持ち、グランサイファーが停泊している平原までの道を歩いていた。
心から喜んでいた子供達と、その様子を見守っていた親達の穏やかな表情。絵に描いたような幸せな時間をランスロットが思い出していると、ジークフリートはぽつりと尋ねた。
「お前は今まで、どんな聖夜を過ごして来たんだ?」
ジークフリートが他人の過去について聞くのは珍しかった。聞かれたら教えてくれる人柄ではあるが、自分からは昔の話を切り出さないように、他人の過去にも寛容だったからだ。
興味を持たれている方なのかと考えしまったランスロットは、その浅はかな喜びを悟られないようにして小さい頃の思い出を語る。
サンタに、自分じゃなくてプレゼントはヴェインに渡して欲しいと手紙で伝えたら、ヴェインが同じ願いを書いていた為、お揃いの木剣を貰ったこと。その時期が近付くと、親が決まった日に聖夜に纏わる物語が描かれた絵本を必ず読んでくれたこと。大勢の友達と大きな雪だるまを作ったこと。
ジークフリートは、ランスロットの話を聞いている時はずっと、村の子供達にプレゼントを渡す時と同じ顔をしていた。優しく穏やかで、何かを噛み締めているような表情だった。
「(俺は、この人を守る為にはどうすれば良いのだろうか)」
敬愛する師が王殺しの罪を着せられた時、話を聞くことも信じることも出来なかったことへの罪悪感は、いつも、ふとした瞬間に胸に過ぎる。楽しそうなジークフリートの姿を見ると特にそう感じていた。話が一区切りついたところで、今度はランスロットが尋ねる。
「俺もジークフリートさんの話を聞いてもよろしいですか?」
ジークフリートが少し複雑そうな顔で自身の顎に手を当てると、ランスロットは付け足すように提案した。
「今の貴方の話を、聞かせてください」
グランの騎空団の団員になってからの、ランスロットが知らない話を聞きたいと言うと、ジークフリートはそれなら沢山あると、様々な話を語り聞かせてくれた。
艇の近くまで来ると、ジークフリートはランスロットの一歩後ろで立ち止まった。
「正直、思い出話をするのは苦手な方だったが……お前のおかげだな」
ありがとう。ジークフリートが溢した言葉にを聞いて、ランスロットの胸は満たされたような心地に包まれる。
「これから……沢山増やしていきましょう!」
光のような温かな笑顔を向けられると、ジークフリートもつられるように笑みが浮かぶ。
気が付くと、ふわりと雪が舞い降りていた。
「温かい場所へ行きましょう」
声を掛けた流れで、そのまま誘うように手を差し伸べてしまったランスロットは焦りながら、これはその、と言いながらなかったことにしようとする。
ジークフリートは反射的にくくっと小さく笑うと自ら手を差し出した。
「連れて行ってくれるか?」
呆然とした後、頬を薄く染めたランスロットは、はいと返事をしてその手を取った。
これからもずっと、彼の平穏が続くよう祈り続けようと誓ったランスロットはジークフリートの手を引き、光で満たされた、楽しそうな声のする場所へと連れて行った。