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    ShiaYugiri

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    ShiaYugiri

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    橘かげまると科場諸朋のIFストーリーSSです。

    ⚠️注意⚠️
    ・兄弟匂わせあります。
    ・仲良くしてないです。
    ・2人以外のキャラクターも登場しますがあまり解像度は高くありません。
    ・2人の1人称視点で進行します。

    #ストグラ
    stogra
    #ストグラ救急隊
    stograAmbulanceCorps
    #ストグラ鳥
    #ユニベロス

    この街らしい最悪な出会い「…る、…まる、…かげまる」
    聞き覚えのある声に瞼を持ち上げる。広がる視界にぼんやりとした色が映り、徐々にその輪郭が明確になっていく。
    「かげまる、大丈夫か」
    「うぇええん…いきょくちょぉ…」
    不安げな顔をした隊長と、半泣きのももみが俺の顔を覗いていた。
    二人と見覚えのある天井があるということは、ここは病院の個室なのだろう。そうだ、早く業務に戻らないと。
    ―体が重い。なぜか体を起こすことができない。ふと首を回して腕を見てみると、患者衣の袖と手の甲につけられた点滴の管が見えた。
    「え?」
    くぐもった自分の声が耳に届く。その声に二人はほっとしたような心配したような表情になる。どうやら人工呼吸器もつけられているようだった。
    待て、俺はなんでベッドに横たわっているんだ?俺は出勤して、いくつか救助活動をした後起こった客船の応援に行って…あれ?それからどうしたっけ?
    「あの、俺…」
    「かげまる、多分お前は記憶がないかもしれないけどな」
    隊長が人工呼吸器を外す。そしてサングラスの中で眉を寄せる。
    「お前は客船に蘇生の応援に行った後、心無きのフリをした犯罪者に撃たれた」
    「…は?」
    隊長が言うには、客船で犯罪者が心無きのフリをしていたため、警察も気づかずに救急隊に救助OKを出してしまったようだ。その犯罪者は警察を蘇生する丸腰の救急隊をすべてダウンさせ、異常事態に気付いた警察が、戻った署から引き返して来るまで事態は収束しなかったようだ。
    「たいちょーと出勤してきたらすごい数のダウン通知が出て、すぐに向かったんだけど警察の人と救急隊みんな倒れてて、助けたらいきょくちょーだけ重症でずっと目覚めなかったの」
    「そうか…そんなことがあったんですね」
    ふと窓の外に目をやると、病院の横の道でタラちゃんが警察と小競り合いをしている。大きな事件が起こっても、この街は相変わらずだ。
    隊長はため息をついて部屋の扉の外をちらと見やった後、腕を組みこちらに向き直ってなぜか遠くに通るような声で話す。
    「お前は上官として隊員を守る判断をしたのだろうが、むやみに危険なことはするな。お前の命も大事だ」
    「そうですね…ん?どういうことですか?」
    「これ、いきょくちょーの身体から出てきた銃弾」
    ももみは握っていた右手をこちらに見せ、ゆっくりと開く。しかしその動作に反して、勢い良く大量の弾丸がこぼれ落ち、床に軽い金属の音が折り重なる。その音に反応したのか、扉の外からドスンと音がする。ももみはあわてて落ちた弾丸を拾い上げていく。
    「お前がまさか隊員全員をかばって撃たれるなんてよ」
    ライセンスはあるものの銃を携帯していないし、今回は収束したと連絡があって応援にいったためにアーマーも着ていなかった。犯罪者が一枚上手だったが故に起こってしまったことだ。結果としては仕方ないとは思うものの、他の隊員を危機にさらしている以上それを口にすることはできない。
    「すみません。もう少し安全確認ができていれば。迂闊でした」
    寝ながら隊長やももみに頭を下げる。また扉の外からゴソゴソと音がする。さすがに気になってきた。扉の外に目をやり叫ぶ。
    「入ってもいいぞ」
    その声に一拍置いてギイと扉が開き、ぞろぞろと頭を下げた軍団が病室に入ってくる。ほとんどが客船に対応していた救急隊だった。あとの数人は無線で連絡を取り合っていた警察だろうか。
    「医局長、」マグナムが声を上げる。
    「「すみませんでした」」「「ありがとうございました」」
    謝罪と感謝の言葉が重なり音圧となって耳に刺さる。少し心が痛くなってきた。
    「いやあ…ちょっとほら…みんな顔上げて、警察の方も」
    上がった顔にはももみのように半泣きの顔や仏頂面など、あとは仮面で表情が読めないなど様々だった。そうだった、今日は珍しくぎんやましろが居らず、カテジや治、よつはもいなかった。新人が多く、上官として気を引き締めつつも、輪に混ざりきれず微妙な距離感を保っていたところだった。
    警察の方―黄金の風の伊藤くん。彼はファイルをめくりながら声を上げる。
    「今回の客船、やったのはMOZUです」
    「MOZU…」
    MOZUと聞いて反射的にヴァンダーマーの顔が脳裏をよぎる。MOZUとはあの男以外は関わりがなく、構成員も知らない。単なるギャングの一つ、そのような認識しかない。でも、その組織がまさか救急隊に喧嘩を売るとは―
    いや、そもそもてつおが以前狙われていたり、ももみの心を誑かしたりしているから、そんなこともあるのかもしれない。
    「気をつけてください、人のことは言えないですけど」
    心なしか覇気がないその声に、生唾を飲み込みながら頷く。
    一段落したと見た隊長はみんなに向かい、病室の外に出るよう促した。
    「さて、かげまるはまだ治療中だから」
    どっと疲れた。まだ体が回復しきっていないのもあるのだろうが、精神疲労もある。隊長やももみがいてくれて本当に良かった。
    俺はその疲れに飲み込まれていくように、まどろみの世界に再び意識を落とした。

    目を開けると、なぜか船の上だった。客船だ。
    『大丈夫か』
    『かげまるさん、ありがとうございます』
    『ああ今助けるからな』
    とりあえず目の前で客船の内部に向かって倒れている警察官を抱え上げようとする。向かい側からヘスティアやがみともくんが他の患者の対応をしている声が聞こえる。
    倒れている警察官が声を振り絞る。
    『あっ?!やばい…っ!』
    『えっ?』
    その瞬間、炸裂音がしたかと思うと右耳の真横を何かがかすめる。はっとして振り返る。視界に翡翠色の髪の毛がちらついたかと思うと、壁の陰に消える。
    『なっ!えっ?』
    自分の声がひっくり返るのが分かる。一瞬最悪な状況が思い浮かぶが、部下たちの悲鳴にかき消される。
    『キャア?!』『ヘスティアさん!』
    弾丸がかすめたヘスティアに駆け寄るがみともくんを振り返ると、その背後にも怪しい影があった。嫌な汗がどっと噴き出る。
    ―まずい。守らなければ。
    とっさに体が動いて、華奢なヘスティアと小柄ながみともくんの2人を抱きかかえ、2人にダメージがいかないように背を向ける。心臓に響く鈍い音が何回か鳴ったと思うと、背中に熱い何かを感じる。とたんに目の前がくらっと来たが、それよりも早く足が動いていた。怪しい影が反対側へ行ったら、そこで救助にあたっているマグナムが危ない。2人を離し、走る。俺を見て何かを叫ぶがみともくんとヘスティアを置いて、全速力で駆ける。間に合え。
    マグナムはいつも通りの雰囲気で救助にあたっていた。ほっとすると同時に怪しい影がちらついたのを見て、冷たい汗が流れる。
    『マグナム!避けろ!!!』
    『え?』
    マグナムが振り返った瞬間、銃声。足を踏み込み、できる限りの力で跳躍してマグナムの前に出た。刹那、腹部に鈍痛が走る。
    『うっ?!』
    そのまま俺は崩れ落ちた。どうやら銃弾は腹部を貫通し、ダウンする量の出血になったようだ。
    『医局長?!』
    マグナムの驚いた声が聞こえる。しかし、直後の何発かの発砲音によって部下たちの悲鳴があがり、そして静寂が襲った。
    ヴァンダーマーの声と、聞いたことがない声が頭の上を通る。
    『モロトモ、そっちはどうだ』
    『ああ、全部やった』
    『よし、撤退だ』
    警察官にしては何か重いものを抱えている声をしていたから、犯罪者なのかもしれない。そしてその声の方に目をやると、翡翠色の髪を横に流した顔のいい男と目があったが、何も言わずに去っていってしまった。
    そうだ、部下たちは。反対側に無理やり首を回すと、倒れ込むマグナムと、血だまりに伏せるヘスティアとがみともくんが見えた。急に体温が冷えるのを感じる。
    ―俺は、また助けられなかった…?
    絶望が目の前を覆うのと同時に、闇も視界を覆っていった。

    目が覚めて、飛び起きる。呼吸が荒い。しかし、体を起こすことぐらいはできるようになっていた。時計を見ると深夜の「15時」だった。
    5分くらいぼうっとしていると、段々と頭の整理がついてきた。
    さっきの光景は実際に自分が見た記憶だった。あの状況の後に、隊長やももみによって病院に運ばれたのだろう。ヘスティアやがみともくん、マグナムは先ほど病室に来てくれていたから、治療はされただろうが、自分よりは軽傷だったのだろう。
    それにしてもあの翡翠色の髪の男は見たことがなかった。最近来た住人だろうか。それがヴァンダーマーの部下で、MOZUの構成員か。俺は人の美醜には疎いが、顔つきが非常に整っていたことだけはわかる。だからこそ、一目見たら絶対に忘れないはずだ。
    ふぅ、とため息をつくと、ぐぅ、ともお腹が鳴る。まだ腹は痛いが、何か取らなければだめだと医者の自分が警鐘を鳴らす。
    そういえばと思い、はっとして自分のカバンを見る。めしょみが顔をのぞかせた。安堵のため息を漏らすと、奥に知らない食べ物がたくさん入っているのを確認する。きっと眠っている間にみんなに詰め込まれたのだろう。
    詰め込まれた食べ物の中には病院食があった。といっても、腹部を切開したためか、ペースト状の物が何種類か詰め合わせになっているものだった。おそらく隊長か誰かが入れたのだろう。病院食をプレートに載せて口に運ぶ。塩っ気が少なく腹持ちも微妙だったが、栄養はあった。しばらく何も胃に入れてなかったからか、どろどろの病院食が胃に優しい。
    「あいつ…」
    食事をして落ち着いてきたからか、犯罪者に対してふつふつと怒りがわいてきた。よくも俺の部下を、患者を。ああ、悲しいかな、あいつの名前が分かれば警戒できるのに、知らないなんて。
    「そうだ、指名手配…」
    眉根を寄せつつタブレットを取り出し、指名手配を確認する。見慣れない名前ばかりでやはり自分は犯罪者とは縁遠い生活をしているということを考えた直後、罪状に見覚えがある者の名前を発見する。
    「プレイヤー殺人、NPC殺人、公務執行妨害、銃刀法違反…」
    日本人的な名前だが読み方に一瞬迷った後。
    「…科場…諸朋…」
    指名手配書に書かれた名前が様々な記憶とつながる。
    先ほど見た記憶の「モロトモ」という人物。隊長が以前口にしていた「しなばもろともさん」という人物。つまり、あの翡翠色の髪の男が「科場諸朋」であるのだろう。
    「………なるほど……そうか…」
    ―徐々に夜が明け、朝日が窓から差し込む。橘の顔は朝日に照らされ逆光となり、その表情は伺い知れず。冬の病室に白い吐息が流れた。

    「さて、今回は成功だったな」
    渋く低い声ながらも嬉々とした声色のジジイがみんなに声をかける。
    「まだ金持ちが中にいる状態で警察が救急隊を呼んだのはイレギュラーだったが、諸朋と一緒に全キルしたことで逃げ切ることができた」
    ふっと緩んだ空気がながれる。気持ちが悪い。
    「だよ、金はまかせる」
    「はい、ボス。ええと、今回は……」
    だよが参加人数を計算しながら電卓を叩いている。いつもの様子だ。すると、ジジイの電話が鳴る。ミスったのかスピーカーにしていたようで、話の内容がその場の全員に公開されてしまった。
    「はい」『こちら命田だが』「どうした」
    すると救急隊の怒りの声が爆発した。
    『どうしたもこうしたもない、部下がお前たちに撃たれたんだ』
    「ああそれか。抗議の電話か?私もそこにいた」
    『じゃあなおさらだ!なぜ救急隊をわざわざ撃つ?』
    「あれは君たちの責任だろう?まだ収束してないのに警察を起こされる可能性があるから撃たれるのは当然のことだ。じゃあ」
    『おい!~~~!』
    救急隊がなにか言いかけたところでジジイは電話を切った。その場に静寂が訪れる。
    ジジイがこちらを振り返る。
    「諸朋」
    まずい、ジジイって呼んでたのばれたか…?
    「なんだ」
    「お前指名手配なってるぞ。変装はあるか?」
    「え?」
    指名手配書を見ると確かに名前が載っていた。客船の2階から落ちた時に作ってしまった血痕が見つかったのだろう。
    「ああ…あるぞ」
    「そうか、逃げ切れよ」
    いつもなら突っかかってくるジジイにしては珍しくあっさりとしており、少し拍子抜けする。すると、ニコニコした顔でキミトスから肩をポンとたたかれる。
    「まあ竹ティとか頻繁に指名手配なってるから、大丈夫大丈夫」
    何を勘違いしてるのだろうか。
    ジジイは一声「解散!」と行った後そそくさと事務所を出ていく。新たにどこかに電話をかけ、「ルーファス……」とこぼしていた。ルーファスとなにか急用があったようだ。
    金を洗いに行く人、薬や銃火器のクラフトに行く人など、各々の用事で事務所を出ていく構成員たち。それを尻目に、キッチンの換気扇に向かい、タバコを吸う。
    「指名手配、ねぇ……」
    灰皿にタバコを押し付けて火を消した後、クロゼットに行き、変装姿の「親愛なる鹿 DearDeer」に着替え、名札を書き換える。金庫から自分の分のブラックマネーを受け取り、ジャグラーで洗浄場所に向かう。
    洗浄場所にはカイキがいた。カイキは自分が科場であることに気付いていないようだった。
    「あっどうも。あなたは?」
    「科場だが」
    「えッ……」
    カイキはこちらを二度見したが、再び洗濯機に目線を落とす。
    「ああ、指名手配でしたね」
    「そうだ、変装だ」
    しばらく沈黙が続くが、その雰囲気に耐えられなかったのか、カイキは口を開いた。
    「なんか……諸朋さんに親愛とか程遠くて……」
    「なんだ、文句あるか」
    「いやっ、ないですけど、変装ですし」
    理解が及ばないのかカイキは目を白黒させる。その間に洗浄が終わったのか、カイキは「それじゃ」と声をかけてその場を離れた。
    ゴウンゴウン、という洗濯機が回る音の中に二足歩行の鹿が一頭。客観視すると大分滑稽である。
    金を洗浄し、2200万ほどの金を受けとる。こんなんじゃ全然金が足りない。洗浄場所から出て大きくため息をつき、運転席に乗り込むと、無言でジャグラーをレギオンのガレージまで走らせる。最近知り合った謎の同業者は今日も屋台を出していない上、奇肉屋の車両もない。自分は指名手配だからホットドッグは売れない。レギオン横が随分静まり返っていた。
    しかし、駐車場には人がちらほらと居た。中には救急隊の車両が停まっているのも見える。
    「あれ~?はじめまして~!」
    天真爛漫な声にミントグリーンの髪を揺らす女が声をかける。葉風邪だ。
    「ああどうも。はじめまして。」
    「私葉風邪ナイって言うの!あなたは?」
    「親愛なる鹿DearDeerです。葉風邪さんと言うんですね。よろしくお願いいたします。」
    「よろしくね~!」
    ふわふわとした足取りの先には、パティがいた。
    「トナカイ?」
    「鹿だ」
    誰かと間違えているのだろうか。パティははて?と首を傾げ、指名手配書を確認し、「なるほど~!」といった顔つきになる。全部顔に出てるぞ。
    車を出せる位置に行くまで小さい声で会話をする。
    「もろもろ、レギオンなんか来たらすぐ捕まっちゃうよ」
    「車取りに来たんだよ、ジャグラーだとステッカー貼ってるからバレるし」
    「バレない車あるの~?」
    「それぐらいあるにきまってるだろ」
    片手間にガレージからランポを出して乗り込む。
    「はえ~花でも摘むの?」
    「花?いや別に」
    花…薬には興味はないが、そういえば重量のあるランポだ。クラフト素材を積んでいるし、今日はおとなしくクラフトでもするか。
    そんなことをぼんやり考えていると、ガレージに猛スピードで入ってきた車に、自分の真横にいたパティが跳ね飛ばされる。
    「わぁーーーー!??」「あ~ごめんごめん」
    アヌギフの車だった。ハイドアウトガレージがあるのにレギオンに仕舞にくるなんて珍しい。パティがそのままダウンする。
    「アマギフ…お前ぇなぁ…!」
    「ごめんごめん、あっ、し…鹿さんおはよう」
    「はい、おはようございます」
    アヌギフは以前の猫カフェの一件から鹿が俺の変装であることを察している。なぜ車を変えに来てこんな格好をしているのか、指名手配書を見なくても状況的に理解したのだろう。
    「どうしたの~!大丈夫??」
    パティのダウンの通知がいったのか、葉風邪が走ってくる。
    「この女性が跳ね飛ばされましてね」
    「ええ?!じゃあ病院連れてくね~!」
    「では私も後ろからついていきます」
    そう言ってランポに乗り込んだ時にはもう、パティを拾い上げた葉風邪が乗る救急車両はサイレンを鳴らし、レギオンを出ていく。速度が遅いランポでもそこそこ追いつくことができたのは、なぜかレギオンから病院の間の道路でなんども救急車両を壁にぶつけて減速していたからだ。
    「大丈夫かあれ…」

    病院の処置室に運ばれていくパティを横目に病院のロビーに足を踏み入れる。すると奥から来た、長い白衣を着た男が話しかけてくる。
    「ちょっとマスクを外してもらえないかな、病院の安全のために」
    そう言えば、ジジイが病院襲撃をしたとかなんとか、風のうわさで聞いていた。それからかは知らないが、病院はピリピリしているのだろう。
    だが、指名手配されているのにマスクを外すわけには……ああ、マスクをつける以外の変装も作っておけばよかったか。
    「どうしてもだめですか」
    「皮膚にくっついてるとかじゃなければ」
    「じゃあこれは皮膚です」
    「『じゃあ』って言ってる時点で皮膚じゃないんだよ」
    小気味良いテンポで話が進む。心なしか自分のリズムに似通っていて話しやすい。
    「仕方ないですね」
    この病院で家族が治療させてもらっている以上、郷に入っては郷に従え、なのだろう。マスクを外しても名札を見せなければいい。そう思って、俺はマスクを外した。その瞬間、その医者の目が大きく見開かれるのがわかった。
    「…科場…諸朋。」

    「え?」
    科場は俺が名前を知っていたことに驚いたようだ。
    まさか、傷が完治して今日ようやく着替えて出てきたら、自分に銃を向けた張本人が病院にくるなんて思ってもみなかった。
    「…どこかで、会いました?」
    「…………いや、見かけただけだよ」
    科場は俺のことを全く覚えていないようだ。それもそうか、犯罪者にとって奪う命は軽いだろう。ズボンのポケットに手を入れ、入っている携帯を握りしめる。
    「そうですか。普段ホットドッグ屋をやっている科場諸朋です」
    「ホットドッグ…レダー君の?」
    「ああ、あそことは違う店ですけど協会は一緒です」
    「そうか。俺は……この病院のNo.2、橘かげまる、医局長だ」
    「ああ、よろしくお願いします」
    今の俺は警戒心の塊そのものに見えるんだろうな。自分はともかく部下をも撃った犯罪者にいつものような自己紹介はできなかった。その時、処置室のある方から松葉杖をついた羽山パティと葉風邪が出てくる。
    「あれ~?久しぶり!」
    「もろもろじゃーん!迎え来てくれたの~?」
    「ああ、治ったなら帰ろう」
    「鹿は~?」
    「鹿?さあ、どっか行ったんじゃないか」
    気が付いたら、科場からは「親愛なる鹿 DearDeer」の名札は取り下げられていた。そのままパティと科場は病院を去っていく。「お大事に~!」と明るい声で見送った葉風邪が病院内に戻ってくる。
    「…なあ葉風邪」
    「ん?なに~?」
    「あの科場諸朋…くんとは、仲がいいのか?」
    「仲がいいというか、ホットドッグの同業者という感じかな!」
    「あれ、医局長、もしかして、妬いてるんですか?」
    背後からのましろのニヤニヤとした声に振り返る。今日は少し遅めに出勤したようだ。今ぎんがしばらく航空機の仕入れに行っていたところだったからちょうどよかった。
    「そういうわけじゃない。ああそうだ、ましろ、ちょっと」
    「ん?なんですか」
    宿直室へ歩きながら無線を入れる。
    『すまん葉風邪、ましろと話あるから。ましろと橘はちょっと外す』
    『了解!』『了解』
    葉風邪とぎんの声を確認し、宿直室に入るとましろが声をかけてくる。チョケのような雰囲気ではないと感じたのだろう。
    「なんですか医局長」
    「実はな、さっき科場という奴が病院に来たんだ」
    「へえ、そうなんですか」
    ましろは一切の興味がない声で答えた。
    「その科場は、先日の客船で救急隊を撃った奴だ」
    「…え?本当なんですかそれは」
    「ああ。警察に連絡しようと思う、いいか?」
    本当は、すぐにでも連絡はしようと思っていた。しかし、科場はあのヴァンダーマーがボスであるMOZUだ。逆恨みで病院をまた襲われたらたまったものではない。独断で決めるには考えることが多かった。
    「いいと思いますけど…」
    「MOZUに報復されないかな…」
    「大丈夫ですよ、そのための警察立ち寄り所でしょう」
    まだ警察とは特に詳細な話はしていなかったが、そういえばそうだった。病院を守るための盾を作ったんだった。
    ましろに背中を押されて覚悟が決まり、うん、と頷くと、俺は携帯のStateを開いた。

    レギオンにパティを送り、再び鹿を被ってランポをリサイクルセンターに向かって走らせる。運転しながら先ほどの医者について考えていた。
    あの医者はどこかで見たことがあるが、一体どこで見たのだろう。思い出せないならきっと些細なことなのかもしれない。
    それとは別に不思議な感じがした。これはジジイの前で言った特性の話なのか、それとも…。何か、なつかしさのような良くわからない感情が少しの痛みとなって胸にちくりと刺さる。
    「…っ」
    顔をしかめながらハンドルを握る力を強める。ジャグラーと違ってスピードが出ない分コントロールがしやすいのだが、なぜか心がざわざわする。
    ようやく事務所付近まで来た時に後方からサイレンの音が近づいてくる。ルームミラーを見れば、パトカーが薄っすらと見えた。ヘリはなし。ハンドルを回し、小道に逸れる。事務所付近にパトカーがいることを無線で伝え、そのまま見られていないことを確認し事務所のガレージに手早く仕舞い、事務所に入る。帰り支度をしていたためかどうやらたまたま事務所に居た陣平が「わあ」と情けない声を出したので笑ってやった。
    「諸朋か。指名手配か?珍しいなお前」
    「ああ、あんまりないな」
    そんな簡潔な会話を済ませてキッチンに向かう。
    警察を撒いたとはいえ、まだ周辺警戒はされているだろうから、しばらくここから出られなくなった。仕方ないので鹿を外しVIOLET SPIRITをひと吸いする。
    …きっとあの医者だ。あの医者が通報したのだろう。病院内の安全のためにマスクを外せ、なんて徹底する公務員は犯罪者を見かけたら通報するだろうし。
    ため息が混じる煙を吐く。全くあの医者については非常に面倒な問題だが、だからといって報復などを考えたりはしなかった。それで金になるわけでもないし。まあ、通報されたとして捕まらなければいい話だろ。
    『お姉ちゃんいるー?』
    『なあに?』
    『車直してほしいんだけど』
    キミトスと不二子の声が無線から聞こえる。やはりキミトスの「お姉ちゃん」には何度聞いても慣れない。思わず身じろぎしてしまう。
    「兄弟、か」
    虚空に呟いた言葉が消えていく。
    自分にもし血のつながった兄弟がいたなら。そんなことを少し考える。
    もし、兄弟がいたら。今の俺の状況を見てどう思うのか。
    ―助けて、くれるのだろうか。
    そんな弱い自分が脳裏を横切り、それを払拭するように首を横に振る。
    それと共に、なぜかあの医者の顔が思い浮かんだ。
    「なんだ…?」
    なぜ、兄弟の話であの医者が思い浮かぶのか。意味が分からな過ぎてすぐにそれも振り払った。
    しばらくして警察が落ち着いたことを確認し、事務所を出る。携帯を開けば数分前にパティが自撮りと共に「大穴守る~!」と馬鹿正直な投稿をしていた。IRiSがユニオンをやっているらしい。
    他のギャングが大型をやっている中、MOZUの大型の予定がないならATMを引っこ抜こうかとも思ったが、今日はおとなしくクラフトに勤しむことにしようと、遠くの爆発音を聞きながら違反スピードも出ないランポをのんびり走らせた。

    数日後に宿直室で起床した俺は気になって指名手配書を確認した。科場諸朋の掲載は無かった。捕まったのだろうか、それとも逃げ切ったのだろうか。気になりはするが、自分は救急隊であって警察でもないしそこまで踏み入ることではない。
    科場諸朋について知った時はさすがに衝撃だったが、警察に通報してこの件は終わったはずなのにいまだに気を引いているのは何なのだろう。
    『橘かげまる、出勤だ、おはよう』
    無線で挨拶をすると口々に「おはよう」という挨拶が返ってくる。ロビーのいつもの場所まで来ると、ましろはご飯中で、ぎんはぼーっとしていた。その他にはメキーラやナイチンがいる。
    「他の隊員は外出か?」
    「あ、はい~、通知来ないので」
    「チルタイムか」
    「そうですね~」
    のんびりとした口調の女性隊員たちが「そういえば、」と口をそろえる。
    「医局長は、兄弟とかいるんですか~?」
    「兄弟?兄弟は…」
    いつもなら「一人っ子だ」と返すはずが、なぜか強烈な違和感を抱く。これはなんだろう。頭がじわじわと痛み、ズキズキとし始める。
    「医局長?」「大丈夫ですか?」
    その声にハッとすると、痛みがまるで幻覚だったようにスッと去る。メキーラとナイチンが不安げな顔でこちらを覗いていた。
    「ああ、いや、なんかちょっと考え事をしてて」
    タイミングがいいのか悪いのか、ダウン通知が入ってくる。
    「これ、俺行ってくる」
    「はーい、お願いします」
    患者を助けるためにも、自分の謎のモヤモヤを晴らすためにも、急いでライデンに乗り込んだ。
    現場に到着すると、ろぜ柳ぴん子さんだった。
    「大丈夫か?」
    「うう…またやったですわぁ」
    「またか、もう、水はちゃんと飲むようにな、それじゃあ病院連れて行くぞ」
    「はあい、すみません…」
    ぴん子の姿を見て、ふと病院の広告を思い出した。
    「そうだ、あなたは―」

    数日後。ホットドッグのストックを作りながらふと携帯を見て情報収集を始めると、数秒後に電話がかかってくる。番号だけで、宛名はない。
    「はいもしもし」
    『科場くんか?橘だ。救急隊の。』
    「え、ああ、先日はパティがどうも。でもどうしてこの番号を」
    『葉風邪に聞いた』
    「………」
    『君に少し聞きたいことがあってね』
    「聞きたいこと?」
    『君には、兄弟はいるのか?』
    「…え?…家族はいるけど、何ですか急に」
    『………そうか、いや、それならいいんだ。ああ、今度ホットドッグ買いにいく。じゃあ』
    「ああ、どうも」
    そう言うと、電話は切れた。それからというものの、俺にあの医者からの連絡が入ることはなかった。
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