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    hiko_kougyoku

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    hiko_kougyoku

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    乃武金
    「龍の刺青を持つ男」③
    ※乃武金と言い張る。
    ※捏造多々あり。かなり自由に書きました。
    ※ いつもと違う雰囲気。
    ※名前付きのモブ有。
    ※流血描写あり。

    龍の刺青を持つ男③  4

     生の終焉がどうなるかなど誰にも分からない。例え自分自身でも、だ。それにしても、かつて名を馳せた龍の刺青の男の最期にしてはやけにあっさりとした終わりだった。胸に空いた穴を埋めるかのように、この三日間そんなことばかりを考えていた乃武綱は、頭の下で腕を組んで仰向けに寝転がっていた。
     七番隊舎はほとんどの隊士が鍛錬や見回りで出払っており、人が活発に動き回るはずの昼間にも関わらず人の気配がない。無人の静けさは乃武綱の部屋に不気味な空気を運び込み、視線の先にある天井の仄暗さと相まって背筋をぞっとさせた。
     だからといって、職務で気を紛らわせるという気分でもない。机に山積みになった書類を一瞥したがすぐに目を逸らし、いっそこのまま不貞寝でもしてしまうかなどと考えていたと時だった。すぐ傍に誰かが立つ気配がした。
    「おい、いい加減報告書を出せ」
     目の前に差し込まれた神経質そうな顔に、乃武綱は閉じかけた目を緩慢に開く。こみ上げるあくびを噛み殺しながら「やる気が出ねえ」とたるみきった声を返せば、金勒はやれやれといった表情を作り言葉を重ねる。
    「そう言ってここ数日ぐうたらして、仕事もろくにしないと聞いている。この間の勢いはどうした。龍の刺青の男を探していた時の……」
    「死んだんだと、そいつ」
     わずかに目を見開いた金勒の、息を呑む音が聞こえる。
    「山本が言ってた。龍の刺青の男っていうのはあいつの友人の貴族で、護廷十三隊ができる少し前に何者かに殺されちまったと……」
    「それでお前は、消沈のあまり大人しくしていると」
    「そ。だからしばらく報告書は出せねえ」
    「言われた俺が『はいそうですか』と引くと思うか?」
     見ると、金勒の眉間には浅いながらも呆れを示す皺が寄っている。「催促されてもなあ、無理矢理書いたところでまともな報告書にはならねえぜ、俺の場合。そうだ、お前が体を見せてくれたらやる気の一つくらいは出るかもなあ」と半分冗談で言ってみせれば、今度は馬鹿なことをと呟く声が顔の上に降ってきて、乃武綱はにたりと口角を上げた。
    「ま、そういうわけだ。悪いな」
     そう締めくくってから、ごろんと背を向け居眠りの体勢に入る。瞼の裏の薄闇を見つめながら痺れを切らした金勒が部屋から去るのをじっと待っていた乃武綱だが、いくら待てども背後の気配が遠ざかる様子はなかった。おやと不思議に思っていると、何かを逡巡するじっとりとした空気が服越しに伝わってくる。やがて聞こえて来た布の擦れる微かな音に、強制的に意識を呼び起こされた乃武綱は勢いよく起き上がった。
     振り返れば、金勒は部屋の隅に立っていた。まっすぐ視界に飛び込んできた、白地に《三》の文字。護廷十三隊の隊長の証である羽織が肩から落ちてくしゃりと歪み、足元へと落ちてゆくのを見届けたところで我に返った乃武綱は、「おい、本気か」と思わす声を上げてしまった。
    「俺の体で報告書ができるんだ、安いもんだ」
     言うやいなや、今度は死覇装から腕を抜く。するりと上半身だけ脱いだ金勒の体が、太陽にうっすらとかかった雲越しの、弱々しい光しか届かない薄暗い室内にぼうと浮かぶ。いくつもの切り傷が目立つものの、人よりも白い背中に刺青があればきっと映えるだろう。思いながら網膜に焼き付けるように凝視していると、こちらに向き直った金勒と目が合った。
    「どうだ、これで満足か?」
     自棄ともとれる声に、乃武綱は口元に笑みを刻む。
    「ああ、やっぱり俺、お前の体好きだ……もっと近くで見せてくれよ」
    「断る。お前はこの間みたいに何をしでかすか分からんからな」
     あの時は、乃武綱にとっては運悪く花叢桜達の横やりが入ってしまったせいで不覚を取り、醜態をさらしてしまった。金勒と比べれば、体格差と膂力のどちらを取ってもこちらの方が勝っている。あの臆病者の邪魔さえなければ……。
     思いながら、乃武綱は部屋の外に目をやる。今日は花叢の姿がないことに今更ながら気付いたからだ。廊下にでも控えているのかという考えがよぎったが、障子戸の傍どころか庭にさえ人はいない。乃武綱と金勒が二人きりになろうものなら血相を変えて止めに入るあの小僧が、上官を一人にさせるとは思わない。
    「そういえばお前、今日は一人か? 花叢桜達はどうした?」
     出し抜けに放った質問に、腕を組んでこちらを見ていた金勒はああ、と思い出したような声で応える。
    「流魂街まで遣いに出している」
    「あいつにお遣いなんてできるのか?」
    「それくらいできなければ困る。幸い、お前のように寄り道も道草もせず帰ってくる。そういう点では花叢の方が扱いやすい」
     その口ぶりは自分の部下の実直さを評価するというよりも、同胞のだらしなさをあげつらう色合いのほうが濃い。どちらにせよ、引き合いに出された乃武綱はたまったもんじゃない。舌の上に広がる不快感が口腔内に染み込むのに歯止めをかけるように、乃武綱は唇を動かす。
    「前々から思ってたんだが、お前ほどの男がなんであんなのを傍に置いてるんだよ。刀なんか握ったことねえって感じだし、こっちがちょっと凄んだだけでびくつくし。あんなんでやっているのか?」
    「さあな。やっていけなければ消えるのみ。それは花叢だけに限ったことじゃないだろう」
    「お前がわざわざ流魂街から連れて来たっていうのに、冷たい言い方だな」
     何気ないぼやきのつもりだったが、眼鏡の向こうの目が鋭くなったのを視界に入れると、乃武綱は自分が口を滑らせたのが分かった。「花叢を流魂街から連れて来たという話、誰から聞いた」と低く問われ、あの三番隊士の怖気づいた顔を浮かべた乃武綱は「あ、いや、その」と口ごもりながら誤魔化しの言葉を探すことしかできなかった。
     背中を伝った冷汗は「おおかた山本あたりだな。全く、余計なことを……」と放たれた声でぴたりと止まった。乃武綱が気付かれないように安堵の息を吐いたところで、金勒がぽつぽつと話をはじめる声を聞いた。
    「あいつの……花叢の父親は古い知り合いでな。頼まれたから預かっただけだ」
    「へえ、お前が?」
     今一つ納得のいかない声を上げると、再び睨まれる。
    「なんだその顔は。俺も人の心くらい持っている。喜びもすれば怒りや悲しみだって感じる。目の前で涙ながらに息子を頼むと言われれば心が動くこともある」
    「本当にそれだけか?」
    「どういう意味だ」
    「お前が金勒様なんて呼ばせてる隊士、あいつだけだろ? もっと深い意味があんのかと思って」
     不審を露わにした顔は、すぐに怪訝なものに変わった。「あるわけないだろ。ふざけたことを考える余裕があったらさっさと仕事をしろ」と言うのが聞こえたところで、庭の方から物音がし、二人は外へと目をやった。
     現れたのは千日だった。肩に隊士を担いだ千日は、金勒を見るなり「お、こんなところにいたか」と声を上げ、にっと笑う。言い方からして金勒を探していたらしい。不思議に思ったのは金勒も同じらしく、どういうことだという顔を作ってみせると、千日は言葉を重ねる。
    「これ、お前のところの隊士だろ。街で道に迷ってたから拾って来た」
     言いながらどさりと下ろされたのは、たった今話題に上がったばかりの花叢桜達その人だった。不慣れな体勢で移動したからか、しばらく焦点の合わない目で中空を眺めていた桜達は、肌をさらした金勒に気付いた瞬間、顔を青くして叫んだ。
    「金勒様、そのお姿は……!」
     身を乗り出した桜達を、金勒は目だけで制す。
    「そう慌てるな、何もない」
    「しかし……不用心過ぎます!」
     慌てふためく桜達をよそに涼しい顔で死覇装を拾い上げた金勒は「お前は俺がこのろくでなしに不覚を取ると思っているのか?」と諭すように告げながら、ゆっくりと袖を通す。
    「……おい、ろくでなしって俺のことか?」
     聞き捨てならねえと言わんばかりに上げた乃武綱の言葉は、あっさりと無視された。反対に、なおも不服を訴えようと口を開いた桜達は金勒に睨まれ、枯れ枝の身を縮こませることとなる。
    「まあまあ、その辺にしとけって。隊長思いの良い隊士じゃねえか」
     険悪になった空気に居心地の悪さを感じはじめたころ、千日の気楽を装った声が差し込まれた。人の良い笑みを浮かべた千日が「な?」と短く同意を求めるも、金勒は表情一つ崩さず黙殺する。その横ではそろそろと部屋に上がり込み、床に落ちたままの隊長羽織を手に取る桜達の姿があった。震える手で差し出された羽織を肩に掛けた金勒は、最後に一度、武綱を一瞥する。
    「とにかく……執行。さっさと報告書を提出しろよ」
    「へいへーい」と気のない返事をした時には、金勒と桜達はすでに部屋を出て行っていた。面白くない気分に浸っているとふと頬に視線を感じ、そちらを見る。乃武綱の内心とは裏腹に面白いものを見たという顔をした千日が、にたりと怪しげに笑んでいたのだ。
     千日は縁側にどっかりと腰を下ろすと、頭だけこちらに向きながら言う。
    「で、王途川の次は厳原をひん剥いたのか? お前も物好きだな」
    「おいおい、俺がまるで好き好んで雨緒紀を脱がせたみてえなこと言うなよ。あいつの体にゃ興味ねえ」
    「その言い方だと厳原の方には興味があるみてえじゃねえか」
    「そこは否定しねえ」
     開き直ったように胡坐をかき直した乃武綱に、千日は「お前は変なところで素直だな!」と笑い声を上げた。それを誉め言葉として正面から受け取れないのはすっきりしない心情のせいでも、元来のひねくれのせいでもあるのだろう。礼を言う気にもなれず、けっ、と短く吐き捨てた乃武綱は千日から視線を引きはがし、部屋の壁を見つめる。
    「言ってろ。俺は龍の刺青の男のことで気落ちしてるんだ。悪いがそっとしておいてくれ」
    「龍の刺青の男……王途川もそんなこと言ってたな。その男は確か……」
    「護廷十三隊ができる前に殺された、だろ?」
     元柳斎に言われてから脳内で何度も反芻した言葉が一つの塊となって胃の底へと落ち、代わりに虚しさが競り上がる。俺としたことが、たかが一人死んだって聞いただけでなんてざまだ。笑いたきゃ笑えと自棄になって前に目を戻せば、いつの間にか草履を脱いでいた千日は、体ごとこちらに向き直り乃武綱を凝視していた。逆光でも鈍く輝く二つの瞳。金色の奥に何かを隠しているような不審さが揺れるのが見えたような気がし、乃武綱は自分の顔から表情が消えるのを感じた。
    「なんだよ。言いてえことがあるなら言え」
     尋ねると、千日は座ったまま距離を詰め、顔を近づける。「珍しく気落ちしている執行にいいことを教えてやるよ」と静かに囁いた。
    「俺は貴族だから、お前が死んだと思っているかの上級貴族の情報はある程度耳に入ってきている、聞いた話によると、その貴族が背中に龍の刺青を彫ったのは……殺されるひと月ほど前のこと。屋敷の使用人が話していたそうだ」
    「ひと月……?」引っかかった言葉を繰り返すと、千日は深く頷いてみせる。
    「そうさ。おかしいと思わねえか? 龍の刺青の男の噂はそれよりも大分前から立っているのに、肝心の刺青が彫られたのは死の直前……ならば噂はなんだったのか。いや、噂は〝誰〟のことを示していたのか……」
    「まさか、龍の刺青の男は他にもいる……?」
     乃武綱は閃いた想像を口にする。千日はもう一度頷いた。
    「俺はその線もあると思ってる。で、殺された貴族の方がいわば偽物だと」
     龍の刺青の男はまだ生きている。思いがけず降って来た希望的観測に心臓が一つ、大きく鳴るのを聞いた乃武綱は、直後浮かび上がった新たな疑念に首をひねる。
    「……けどよ、山本はそんなこと一言も言ってなかったぞ」
    「山本も伊達に護廷十三隊の総隊長をやっちゃいねえ。知っている情報を一から十まで全て教えてくれるわけじゃないさ。当たり障りのない返答で物事の本質を覆い隠し、聞かれないことを自ら語ることをしない……時にはそうやって情報を操作しながら世を渡り、ここまで来た男さ。一筋縄じゃいかんだろうな」
     確かに、龍の刺青の男が死んだというのは嘘ではない。実際に貴族の男が殺されているのだから。そして龍の刺青の男に該当する人物がもう一人いるというのも、元柳斎が故意に伝えていない情報というだけであって、嘘を吐いたわけでも偽りを述べたわけでもない。先日の元柳斎とのやりとりを思い返せば、殺されたという話のあまりの衝撃に、乃武綱はそれ以上追及することはしなかった。元柳斎ほどの男ならば先ほど千日が語った程度の情報であれば把握していると思われる。
     ならば、今から本人に聞いてみるか? いや、のらりくらりとかわされるか、最悪口を閉ざされて終わりだろう。それにしても、まさか同じ隊長格である自分までも欺くとは……元柳斎のしたたかさを改めて実感した乃武綱は、ひくり、と自分の頬が痙攣したように引き吊るのが分かった。
    「……食えねえジジイだ」
     軽く鼻で笑うと、金色の目がにっと細められる。
    「そう言ってるけどよ、お前、愉しそうだぜ」
    「まあな。あの山本が素直でお綺麗なんて、はなから思っちゃいねえからな」
    「それはこっちも同意だ。俺たちの上に立つんだから、一癖も二癖もなきゃな」
     互いに顔を見合わせた二人は、揃ってくつくつと喉で笑う。しかしひとしきり笑ったところで千日が何かを思い出したように笑うのをやめたので、乃武綱もぴたりと動きを止める。どうした、と尋ねようとしたところで「そういえば」という小さな声が聞こえたので、聴覚に意識を集中させる。
    「怪しいと言えばあの隊士……花叢だっけな? あいつもだ」
    「あの軟弱男がなんだよ」
    「さっきは厳原の手前、道に迷ってたから拾って来たって言ったが……実際はそうじゃねえ。実はな、西流魂街をうろついてたんだ。どこにいたと思う?」
    「いかがわしい店にでも入ってたか?」
     思わず冗談を返すと「お前じゃねえんだぞ」と遠慮のない言葉が飛んでくる。
    「いいか、聞いて驚くなよ?」
    「勿体ぶらずに早く言えって」
    なおも続く問いに耐えかねたこちらを見た千日は、軽く息を吸うと一気に言い切る。
    「……殺された上級貴族の家だ」
    「なんだと?」
     乃武綱の唸り声に、部屋の空気が張り詰めた。貴族と桜達、全く接点のない二つが並んだことに混乱と疑念が渦を巻き、思考が形を見失ってゆく。縋り付くように千日を見る。真摯さを宿した目には、ただただ狼狽える自分の情けない顔が映っている。
    「殺されたこともあって、貴族の家は今も買い手がつかず空き家となっている。長く時間が経っているせいもあって人が住める状態ではなく、時折獣が雨をしのぐために訪れる程度。そんな廃屋のような家の前で、手を合わせているのを見つけたんだ」
    「何のために……殺された貴族は花叢の親父だったとか……」
    「いいや、違う。あの貴族の姓は百々(どど)。花叢は無関係だ」
     きっぱりと否定され、乃武綱はさらに頭を働かせる。手を合わせていたということは、弔いの心があったからだろう。だが関係のない人間が何故。もしや、貴族を手に掛けたのは桜達だったか……当てずっぽうのような、ありもしない考えさえも浮かぶようになってしまい、しまいには考えることを放棄した乃武綱は「となると何故……」と力なく呟くことしかできなくなっていた。千日は「さあな」と天井を仰ぐ。
    「理由を聞いてもおどおどして黙り込んじまうし、挙句この俺から逃げようとしやがったから、とっ捕まえて無理矢理連れて来ちまった。だから詳しくは知らん」
     そう締めくくった千日は、すくと立ち上がり縁側へと出ると、草履に足を入れる。
    「ま、人間、誰しも隠したいことの一つや二つくらいあるもんだ。あいつがどんな事情を持ってても構わねえ。俺たちに危害を加えなければな」
     同じ組織に属していながら、他人への過度の干渉は行わないという無味乾燥とした性質が透けて見える言葉に、頷こうとした時だった。返答は求めていないというように、千日は瞬歩で庭から姿を消した。
     あいつもあいつで、結構自由気ままだよな。残った乃武綱は、しばらく呆然と千日が座っていた場所に目を据えていたが、ややってのろのろと動き出すと机の前に腰を下ろす。何日ぶりになるのだろうか、置かれたままだった硯に息を吹きかけて薄く溜まった埃を飛ばすと、積み上がったごみの下から水差しを引っ張り出し、慣れない手つきで墨を擦りはじめた。

    《続く》
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    hiko_kougyoku

    DONE若やまささ+千日、逆骨
    「世のため人のため飯のため」④
    ※やまささと言い張る。
    ※捏造あり。かなり自由に書きました。
    ※名前付きのモブあり。
    世のため人のため飯のため④  4

     逆骨の霊圧を辿ろうと意識を集中させるも、それらしき気配を捕まえることは叶わなかった。そういう時に考えられるのは、何らかの理由で相手が戦闘不能になった場合――そこには死亡も含まれる――だが、老齢とはいえ、隊長格である逆骨が一般人相手に敗北するなどまずあり得ない。となると、残るは本人が意識的に霊圧を抑えている可能性か……。何故わざわざ自分を見つけにくくするようなことを、と懐疑半分、不満半分のぼやきを内心で吐きながら、長次郎は屋敷をあてもなく進む。
     なるべく使用人の目に触れないよう、人が少なそうな箇所を選んで探索するも、いかんせん数が多いのか、何度か使用人たちと鉢合わせるはめになってしまった。そのたびに長次郎は心臓を縮ませながらも人の良い笑みを浮かべ、「清顕殿を探しております」とその場しのぎの口上でやり過ごしているうちに元いた部屋から離れてゆき、広大な庭が目の前に現れた。どうやら表である門の方ではなく、敷地の裏手へと出たようだ。
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