「でも、キミが帰ってきてくれて本当に良かった。今度は眠らずにいてほしいな。キミに見せたいもの、伝えたいこと、連れていく場所がたくさん増えたんだよ。喋れるようになったら、またゆっくり話そう。ねえゼロ、外はもうヘリクリサムの花が咲き始める頃だよ。いい加減目を覚ましたらどうだい」
モニターに映る波形は上がることも下がることもなくずっと凪が続いている。反応なし。ほとんど燃え滓のようなジャンクに無理矢理繋いだ音声入力用インターフェースは、やはり相性が悪かったらしく機材側でエラーを吐いていた。無反応の原因が造作もなく見つかりがっくりと肩を落とす。聞こえる聞こえない以前にゼロまで声が届いていない。
ゼロが見つかってから早二年が過ぎようとしている。けれどまだ戻って来てはいない。あるものと言えばここにある残骸のようないくつかの部品と一部のメモリだけで、それはゼロの部品ではあるけれども、本人ではない。エルフとしての気配はなく、ゼロの識別情報を発するレプリも存在しない。これで生きているなどとよく言えたものだと自嘲気味に笑う。それでもシエルはゼロが生きていると信じて疑わない。
なんでもいいから話しかけてみて。もしかしたらエルフの無自覚に発する信号が副次的に作用するかもしれないから。シエルがそう言ったので、こうして日がな話しかけては勝手に気を滅入らせている。昔話は何度しただろう。助けてもらったこと、教えてもらったこと、休暇日に出かけた時のこと、同じ任務に出向いた時のこと。初めて会った日のこと、ゼロが眠りに就いた日のこと。一日ずつ覚えている限りを事細かに全部話したとしても、もう同じ内容を三回は繰り返した。このままただ修理を続けてもゼロが目を覚ます可能性はほぼないことは、結局言っていない。
何の収穫もないまま、長い一日が今日も終わっていく。