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    まもり

    @mamorignsn

    原神NL・BL小説置き場。

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    まもり

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    初めて書いた、記念すべき小説作品です。
    恋の始まりがテーマの万蛍。

    #万蛍

    この気持ちは…「万葉!」

    璃月港近くのとある森。
    大きく手を振りながら駆け寄ると、汗を拭いながら彼がこちらを向いてくれた。

    楓原万葉。

    どこか浮世離れした空気感のある、大人びた少年。
    知り合ってひと月が経過し、気が付くとこうして会いに来るようになっていた。

    (穏やかで、一緒にいると何だか落ち着くんだよね)

    「おはよう、蛍」
    「おはよう!……あ、えっと、お邪魔した?」

    彼の足元を見ると、縄や木材、斧が置かれていた。よく分からないが作業中なのだろう。

    「構わぬ。丁度休憩しようと思っていたでござる」
    「良かった。なら、ご一緒しちゃおうかな」

    持参したバスケットを見せて笑いかけると万葉が控えめな笑みを返してくれた。

    (万葉のこういう表情、好きだなぁ)

    切り株に腰掛ける万葉の横に座りながら気分が高揚する。
    落ち着いた物腰で、下手な大人よりも包容力があるのではと思う。
    忙しない日々の中に、一息つける清涼感を運んでくれる風。そんな存在だ。

    「ねぇ、お弁当持って来てる?」
    「?いや、そんな大層な物は。握り飯だけだ」

    タケヅツ(という名前らしい)から水分補給し、キョトンとした顔で見てくる万葉。

    「ニギリメシ?」
    「ああ、知らぬか。稲妻の、料理……と言うほどでもないが」

    疑問符を浮かべて聞き返すと、万葉がそう言いながらくるんだ葉っぱを解いて中身を見せてくれた。

    「沢庵もある。美味いぞ」

    真っ白い三角。
    横には半月型の……何か。

    「たく、あ……?か、変わった食べ物だね。というか、葉っぱで持ち運んでるの?」
    「笹だ。こう見えて防腐効果があるのだぞ」

    思わぬ知識を得つつも困惑してしまう。
    不意に万葉がササごとニギリメシを差し出してくる。

    「食べてみるか?」
    「え!?う、うん」

    悪戯っぽい笑みに「こんな顔もするんだ」とドギマギしながら手に取る。
    一瞬の間の後、思い切ってかぶりつくと。

    「すっっっっぱ!!」

    予想外の味に超大音量で叫んでしまった。
    驚きのあまり目を見開いていたその時。

    「……っあは、あははは!」

    酸っぱさを上回る驚きだった。
    万葉がお腹を抱えて笑っていたのだ。

    (は、初めて見た)

    まるで少年ではないか。

    (いや、少年だった。……じゃなくて!)

    「なに、なんなの、この酸っぱさ!?」

    思わず喚くと、目尻に溜まった涙を拭いながら万葉が謝ってきた。

    「すまぬ、その反応が見たくて梅干し入りだと伝えずに渡したでござる」
    「ウメボシ?」
    「握り飯と言えば梅干し。それほどに一般的な具材だ。美味かったであろう?」
    「いや、美味しいとか分かんなかったし!」
    「お主の口には合わぬやもな。ほら、飲め」

    水を渡され、酸っぱさを流し切りたい一心でごくごくと飲む。
    ……飲んでから、気付いた。

    (これ、か、万葉が、の、の、飲んでたっ……!)

    「どうした?」
    「え!?や、な、なんでも、ない。ありがと!」

    勢い良くタケヅツを返すと万葉が小首を傾げながら受け取ってくれた。
    何事もなかったかのようにニギリメシを食べる彼を見て困惑する。

    (精神年齢おかしくない?……いや、私が幼過ぎるのかな?待てよ、よくよく考えたらニギリメシはニギリメシで万葉の手作り……)

    自分でも顔が火照っていくのが分かる。

    ふと、万葉が指についた一粒を舐め取った。
    何だか色っぽさを感じて慌てて目を逸らす。

    (……じゃなくて、今日は!)

    「も、もうお腹いっぱいだったりする?」

    モジモジしながら言うと、また万葉が小首を傾げてきた。

    「いや?流石に握り飯だけでは。だが、力仕事をする予定で来た故、腹八分目にしておくつもりでござる」
    「え!!」

    ショック過ぎて項垂れる。
    今度は万葉が困惑していた。

    「何か傷付けることを言ったであろうか?」
    「ううん……ただ、その……」

    今にも萎れそうになりながらバスケットを差し出す。

    「ムーンパイと、モンド風ハッシュドポテト……仲良く、してくれてる、お礼に……一緒に食べようと思って……」
    「……え?」

    少しの沈黙の後、小さく万葉が笑った。

    「感謝する。遠慮なくいただくでござるよ」

    流れる、水のような。

    その笑顔の美しさに見惚れている間に万葉がハッシュドポテトをぱくりと食べた。

    「美味い。成る程、モンドはこういう味付けなのだな」
    「よ、良かったの?はら、はちぶんめ……」

    おずおずと聞くと、ムーンパイに手を伸ばしながら万葉が微笑んだ。

    「構わぬ。舟を造っているだけで特段急いではおらぬからな」
    「ふね……?」

    どくん。
    心臓が嫌な音を立てた。

    「これも美味い」、そう言って満足げに食べる万葉を見て俯く。

    「蛍?」

    黙り込んだ私に気付いたのだろう、手を止めて万葉が覗き込んできた。

    「どうした?具合が悪いのか?」
    「……どこかに、行っちゃうの?」
    「え?」

    無意識に出た言葉に自分で驚く。

    (なに、言ってるんだろ?)

    彼は元々流浪の人で。
    偶々、稲妻へ行く過程で知り合っただけで。
    彼は、私とは別の明確な目的があって旅をしているのだ。

    (最初から、仲間じゃ、ない)

    現に、私がこうして会いに来ることでしか繋がれなくて。

    (明日、ふらっと消えちゃってても……何もおかしくないんだ)

    彼が私に旅立つことを言う義務はない。
    たとえ告げてくれたとしても、それを引き留める権利はない。

    (簡単に、終わってしまう関係なんだ)

    私のこの特別な力がなければ、深く関わることすらなかったかもしれない。

    グルグル考えて。考えていると。

    「──何処へも行かぬよ」

    優しくて澄み切った、朝の日差しのような声がした。
    ハッと顔を上げると、万葉が穏やかな微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

    「あ……」
    「神の目について調べ切れておらぬし、それに……まだまだお主と話がしたいからな」

    予想外の言葉に思わず聞き返す。

    「な、なんで?」
    「何故って……友人だからであろう」

    友人。
    ポカンとしてぽつりと呟いた。

    「私たち、友達だったの?」
    「お主……なかなかに手厳しいな」

    万葉が珍しく苦笑いを見せた。
    頬杖をつき、こちらへチラと視線を流してくる。

    「拙者の勘違いだったでござるか?……拙者がいなくなるなどと早とちりしたお主を見て微笑ましくなっていたと言うに」

    (え?ちょっと待って)

    いつも通りの涼しさは失っていないものの、若干……若干だが、不機嫌、そうな。

    (な、なんだろ?う、嬉しい……)

    心臓がうるさい。
    だって反則だ、こんな一面を見せてくるなんて。

    「な、ならどうして舟なんか」

    心中を悟られぬよう苦し紛れに言葉を発する。
    万葉がくすりと笑って答えてくれた。

    「釣りだ」
    「……へ?」
    「のんびり、ぷかぷかと水面に浮きながら釣りができたらと思ってな。どうだ、完成したら蛍もやってみるか」

    お返しとばかりに、いつかの盗っ人を脅した時に見せた含みのある笑みを万葉が向けてきた。

    「………………………やり、ます」

    あまりにも万葉らしい理由に、脱力すると共に物凄く恥ずかしくなった。

    「時に、蛍」
    「え?」

    凛とした声に目を見開く。

    「手料理だが、文句なしに美味かった。純粋に嬉しかったでござる。……しかし、だ」

    そっと、手と手が重なる。

    「仲良くすることに礼などいらぬ。感謝と言うなら拙者の方こそだ。遠い異国の地で、こんなにも共にいて楽しい友人ができるとは思ってもみなかったからな」
    「万、葉」
    「大声で笑ったのは久方ぶりだ。……お主の眩しいまでの明るさに拙者は救われているでござるよ」

    (……あ)

    少しだけ寂しげな万葉の微笑みに気付かされた。
    私が想像している以上に過酷な、彼の生きる道。

    遠い昔の、楓原家の栄光。
    亡くした友。
    捨て去った国。

    (万葉と故郷を繋ぐのは……刀、のみ)

    「家が潰れて寧ろ安心した」だとか何でもないことのように語っていたが、その実。

    (修羅の、道なんだ)

    よく見ると、重ねられた万葉の手は沢山の傷があった。

    (この細い身体で……いっぱい、戦ってきたんだ)

    じわりと、静かだが強い気持ちが心の奥底に広がった気がした。

    「──万葉」

    真剣な眼差しで万葉を見つめる。

    「私、まだ全然……万葉のこと分かってないと思うけど」

    両手で、白く繊細な彼の手をギュッと握った。

    「絶対、絶対万葉が大変な時には駆けつけるから。力になるから」

    万葉の瞳が揺れる。

    「だから……これからも、大切な友達でいてほしい」

    ふわりと笑った瞬間、風が吹いた。

    (そう、私……万葉の助けになりたい。彼の纏う、穏やかな空気を守りたい)

    共に過ごした時間はまだまだ少ないけれど、そんなのこれからどんどん重ねていけばいい。

    「とも……だち」

    万葉が、聞こえるギリギリの声量で呟いた。

    「うん。友達」

    にかっと笑ってみせたと同時に、緋色の瞳に射抜かれた。

    (──え?)

    万葉が右手で頬に触れてきて、整った顔が近付いてきて、そして。

    「〜〜〜っわあああ!?」

    思いっきり突き飛ばしてしまった。
    切り株の後ろまでスッ飛んで足だけ見えている。

    「きゃあ!?ご、ごめん、大丈夫!?」

    慌てて駆け寄ると、何やら右手を見つめてボケッとしている万葉がいた。

    「か、万葉?」
    「え、あ」

    パチクリと瞬きを一回して起き上がる万葉。尚も手を見ている。

    「ど、どうしたの?」
    「……いや、何でも………ござらぬ」

    歯切れが悪い。万葉らしくない。

    「も、もしかして、頭に深刻なダメージが……か、万葉」

    アワアワと万葉に触れた瞬間、物凄い勢いで後ろを向かれた。
    あまりの速さに目が点になってしまう。

    (こ、後頭部を診てほしいって、こと?……んなわけないじゃん!え、拒否されたよね?)

    軽くショックを受けている私を背に。




    (なんだ、この気持ちは……)

    頬を染めて珍しく心を乱している万葉がいたことなど、知る由もなかった。
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