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    裏稼業Mr.兄弟と🟩と💊🟩の話。
    まともなやつはいない。

    #腐マリ
    rottenMarijuana
    #r-18g

    星の瞬き夕飯だと、ドクタールイージはパスタ二皿を持って寝室へ向かう。
    「はい、どうぞ」
    「ありがとう、ドクター」
    ベッドの上で起き上がり、背中に白衣をかけてもらっているルイージは丁寧に両手で受け取った。
    「食べられそう?」
    「うん。実は空腹で目が覚めちゃっててさ」
    「食欲があるのはいい事だよ」
    恥ずかしそうに頬をかくルイージにドクタールイージは優しく微笑んだ。
    「それで、話の続きなんだけど…………」
    そうしてドクタールイージはエルから聞かされた話を語る。この土地の派閥戦争を。この土地の成り立ちを。自分達を狙う黒幕の事を。
    「DBM…………聞いたことがないな」
    「ボクもだよ」
    ルイージの呟きにドクタールイージは賛同。
    「ボクが思うに、DBMは常に存在する組織じゃないんだ。必要な時に必要なだけ人材を集めて行動するというか…………普段は個人で思い思いに過ごしてて、ボスの招集がかかったら一斉に集まるってイメージかな?」
    「だから政府を恐れず僕らを狙った?」
    「『普段は存在しないもの』だからね」
    「そのボスとエルさんは面識があるって?」
    「そうらしいけど、あんまり良い仲じゃ無さそうだったよ。会いに行くのにめちゃくちゃイヤ〜な顔してた」
    「そ、そんなに怖い人なの…………?」
    「それはこれから話してもらえるんじゃないかな」
    「なるほど」
    ううん、とルイージは唸る。
    「何だかとんでもないものに狙われちゃったんだなぁ、僕」
    首を捻りつつ、ルイージはパスタを一口頬張る。それを咀嚼し飲み込む姿をドクタールイージはじっと見つめていた。
    「(とんでもないもの、か)」
    つい数時間前に悲惨な殺戮現場を目の当たりにしたというのに、休息を取らないといけない程ショックを受けたというのに、もうけろりとした表情で食事をしている彼もまた『とんでもないもの』だという自覚はないのだろうか。
    「(『選ばれる』とは、こういう事なんだろうね)」
    心の中で重い溜息を吐き、ドクタールイージも食事を再開する。
    「…………なんでエルさんとシグマさんは僕らに顔がそっくりなんだろ…………」
    が、ルイージの発言に再び手が止まってしまった。
    「っどうしたの?」
    動揺がバレないようにドクタールイージは慌てて表情を取り繕ってルイージに声をかけた。
    「今までに色んな事が起こりすぎて流しちゃってたけど、そもそもなんでエルさんとシグマさんは顔が僕らにそっくりなのかな?ドクターは僕の従兄弟だから似るのはわかるけど、あの二人は僕が知る限りは血縁じゃない。なのにあんなにも僕と兄さんにそっくりだなんて、ちょっと不気味だよ」
    くるくると巻き取るパスタを見つめ、それからドクタールイージへ視線を移す。その瞳は純朴に満ち足りていた。
    「ドクター、何か知らない?」
    「…………いや、何も…………」
    「そっかぁ…………」
    その瞳から逃れるように嘘を付けばルイージはそれ以上追求せず、パスタを頬張ってくれた。
    何故縁もゆかりも無い赤の他人と顔が似ているのか、その理由をドクタールイージは痛い程知っていた。
    あの二人はきっと『あの計画の実験体』だ。
    十年前に何者かによって壊滅したと言われている実験施設の生き残り…………否、あの計画の唯一の生き残りで、施設を壊滅させた犯人ではないかとドクタールイージは推測している。
    それだけでも恐ろしいのに、きっととっくにこちらに気が付いている筈の本人達が何も言ってこないのが、げにも恐ろしい。
    「……………………」
    もしあの二人が本当に自分の推測通りの人物だとしたら、自分はマニュアルに沿って『対応』に出なければならない。
    それが一番恐ろしかった。
    「(…………兄さん…………)」
    貴方なら、どうするの。 
    返ってこない答えが欲しかった。
    「おい」
    「!」
    「!」
    そうドクタールイージが想いにふけていると背後の扉から声。二人同時に視線を向ければ、いつもの黒いツナギ姿のエルが立っていた。
    「さっさと食べてこっちこい。話がある。毛布汚したら殺すぞ」
    「…………はい」
    「わかりました…………」
    一方的に捲し上げ、エルは去っていく。恐らくリビングに戻ったのだろう。ルイージとドクタールイージはソース汚れを作らないように慎重かつ最速で食べ終わると、急いで寝室を出た。

    ●●●●

    そうして聞かされた話に、ドクタールイージは愕然とした。
    「狙いは、ボ、ボク…………ッ!?」
    上擦った声が出る。わなわなと震える瞳と唇。
    「な、なんでボクが!?ボク、何もしてないし、何も持ってない!!」
    「ンなこと知るかよ」
    思わずソファーから立ち上がって叫ぶドクタールイージにエルは平坦に返した。
    「変態の考えてる事なんぞ知らねーし知りたくもねーよ。確かなのは、あのマッド野郎はお前のケツを早く掘りたくて掘りたくて涎垂らして待ってるって事だけだ」
    「な…………ぁあ…………」
    あまりに直線的な言い方にドクタールイージは言葉を無くし、力無くソファーへ座り直した。
    それを横目に、ルイージはエルへ問う。
    「それを僕らに話した理由は?」
    「そら勿論、取引よ」
    と、エルはあの時のように自身のスマホを取り出してルイージへ投げてよこした。
    「一人につき十億…………指定した場所に兄貴自ら持って来て現金を渡せ。そしたら変態野郎にお前らを引き渡さないでやるし、守ってもやるよ。勿論、警察には内緒でな」
    「一人十億だって!?」
    いまだ感情が落ち着かないのか、ドクタールイージはまた叫ぶ。
    「そんな、どうかしてる!!」
    「ああ、俺もそう思うぜ。どう考えても桁が一つ足んねぇよなぁ」
    「ひゃくおくまんえん、英雄野郎、はらえない額じゃない。アタマオカシイ」
    「金ってのはどーーーしてこうも居場所が偏るんだか。なぁ?」
    「なぁ〜?」
    エルとシグマが声を合わせて悪巫山戯をする中、ドクタールイージは生きた心地がしなかった。狙われている事もそうだが、あの世界的英雄が良いように扱われる事も嫌だ。しかし、反論しようにも手立てが自分にはない。屈辱に手の平を握り込んだ時だった。
    「…………それより、良い案があるよ」
    「ン?」
    「あ?」
    「っ…………!!」
    ボソリと呟いたのはルイージ。あの時とは違いスマホを突っ返さずに握り込んでいるが、かける様子はない。代わりにエルとシグマをじっと見つめていた。その瞳を覗き見たドクタールイージは戦慄。
    ルイージの瞳の奥が光り輝いている。
    小さいが確かに存在し、煌々と輝く緑の星の光が。
    まずい、と思った。止めないと、と思った。しかしその光をあてられてはドクタールイージは何も出来なかった。エルとシグマですら光にあてられて何も言わない。言えない。
    誰しもがそういう『さだめ』だったからだ。
    「君達にとって、もっと良い案がね」

    ●●●●

    午後十八時、ショータイム十八番地。
    夜の帳が下りる頃、徘徊する薬物中毒者を押し退けて車は走る。そうして着いた先の一本道では既に引き渡し相手が到着していた。エルは車を止め待機し、シグマが降りる。それに合わせて向こうも車から降りてきた。
    「かねは?」
    【そっちこそ、品物は?】
    質問を質問で返されたがシグマは文句を言わず、後部座席のドアを開ける。すればそこには縄で両手をぎっちりと縛られ、頭には麻袋を被らされた白衣の男が寝そべっていた。シグマはそれを片腕で引きずり下ろすとそのままずりずりと引っ張り、二つの車の中心へ運ぶ。抵抗しないあたり睡眠薬でも飲まされているのだろうか。
    それを確認したDBMの輩は車からアタッシュケースを取り出して進む。そしてシグマの前へやってくるとアタッシュケースの蓋を開けた。
    そこにはぎっしりと詰まった札束。
    シグマは札束を一つ手に取り、ぱらぱらと捲る。指触り、厚さ、色、香りからして本物であると判断。
    交渉成立。
    互いに要求した品物を手にとって、車へと引き返していく。
    が、その途中で一人の男が声を上げた。
    【お前の女、今日はやけに大人しいな?】
    それに対し、シグマは事もなく返す。
    「ふつかめだからしんどいの」
    その回答がツボに入ったのか、男はゲハゲハと下品な笑い声を上げて運転席に乗り込んでいく。その後に自立出来ないドクタールイージを二人がかりで後部座席へ押し込んで、車は発進。
    そうして去っていく彼らの車をじっと見つめるシグマの両の瞳は、まるで警告灯のように紅く輝いていた。

    ●●●●

    所変わってここはDBMの本拠地。つまりはドクターブラックマリオの自室。優雅なクラシック音楽が流れる部屋の中で、ドクターブラックマリオはいつもの革張りの椅子にゆったりと腰掛け、今か今かとその時を待っていた。
    体も心も何も知らない無垢な魂は一体どんな味がするのか。
    目を瞑り、想像するだけで下腹部が疼く。
    それ程までに待望していた瞬間だったので、ノックも無しにずかずかと入り込んできた下衆な輩共の無礼も許す気になれた。
    【ボス、持ってきましたぜ】
    「御苦労」
    垢まみれの汚い男二人に挟まれて連れてこられたのは白衣の男、ドクタールイージ。膝を折って脱力し俯いて座り込むその姿は過保護心と被虐心の両方を駆り立ててくれる。ドクターブラックマリオは椅子から立ち上がり、歩み寄りながら手を振る。すればその意思を汲んだ男がドクタールイージが被る麻袋を引っ剥がした。反動でドクタールイージの頭が上を向く。
    短い茶髪に跳ねる前髪、頭の天辺の双葉が顔を出し、丸い鼻と流線型の髭が…………。
    突如、緩く微笑んでいたドクターブラックマリオの表情が盛大に強張った。
    そして足を止めて次に見せたのは、無能な手下二人に対する憤怒と憎悪の顔だった。
    「この役立たず共が…………!!」
    【はぁ?】
    【ええ?】
    ボスからのいきなりの罵倒に手下の二人は反応出来ない。
    「…………くひッ」
    唯一反応したのは意識の無い筈のドクタールイージであった。ぐんと口角を上げて笑ったその顔は、悪党のそれ。

    ドクタールイージは両手を勢い良く振る。すれば細工してあった手縄はいとも簡単に解け、手の平は左右の男一人ずつの眼前に突き出される。
    袖口に仕込んでおいたギミックが発動。超小型拳銃が手の平へ飛び出し、ドクタールイージはそのまま発砲。何一つとして状況を理解できていなかった手下の二人は顎下から見事に撃ち抜かれ、崩れ落ちた。

    そしてドクタールイージの二丁拳銃と、ドクターブラックマリオが懐から抜いた拳銃が向き合ったのはほぼ同時だった。

    発砲。

    躱すことを優先していたドクターブラックマリオの銃弾は狙いから大きく外れて大理石を穿ち、撃ち抜く事を優先していたドクタールイージの銃弾の一つはドクターブラックマリオの片耳を抉り取った。

    「ぐあッッ!!」
    傾けていた体重の流れのままにドクターブラックマリオは床に倒れ込む。その反動で握っていた拳銃を手放してしまったが、灼熱の痛みを訴えてくる右耳を無視出来ない。苦痛に顔を歪めつつ、鮮血を噴き出す耳を止血しつつ、見上げる先には。
    「…………どうしたよ先生………ひでぇ怪我だなァ…………耳が二つに割れちまってるぜ…………?」
    弾切れとなった暗殺用超小型拳銃をポイと捨て、事切れた手下のホルスターに収まる拳銃をするりと抜き取る。そして手慣れた手付きで安全装置を外すと、睨み付けてくるドクターブラックマリオの眉間に銃口をぴたりと合わせた。
    「医者を呼んでやろうか?」
    と、ドクタールイージ…………の衣服に身を包んだエルがにんまりと嗤って仁王立ちしていた。

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