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    Shisu

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    POIPOI 16

    Shisu

    REHABILI13年後に花の街で一人暮らししているオルトと見守るロロの話。オルト編、ロロ編に分かれます。
    ふたりは腐にならないですが、書いている人の趣味でロロ編はマレロロ仕様になります。
    ※今回はロロとオルトが話すだけです。
    ※過去捏造など、あらゆる捏造あり
    ※肢体不自由表現あり

    2023/01/13_12:17
    (仮)réaction chimiqueロロ編 1.


     花の街には海がない。
     ロロ・フランムはかつて海というものの質感を、かさついた羊皮紙に沁みたインクの文字が綴る世界でのみ知っていた。たくさんの水が湛えられて、その[[rb:涯 > はて]]の向こうには妖精の国があるということ。行商人からもたらされる塩漬けされた鱈や缶詰の鰯などの加工品でしか知らない魚たちが悠々と泳ぐ、その水の底にも国があるということ。
     背筋に定規でも差し込んでいるかのように正した姿勢で本を読んでいた小さなロロは目を閉じる。孤児院の静かな読書室の窓から夕焼けを介して楓の葉が落とす影は魚影となって部屋の中を廻りゆき、開かれた本の文字はふつりふつりと羊皮紙から浮き上がって、細かな泡の粒になるとレースのように光る帯を作りながら遥かな海面へと昇っていった。小さなロロが坐していた楢材の角椅子は、海底で息絶えて白骨化した巨大な鯨の背骨となっていて、切り株のような丸い断面にいつの間にか腰掛けていた。ロロはイマジネーション力の優れた子どもだった。ロロが目を開くと、読書室は暖かな陽光の届かぬ暗く冷たい海の底に沈んでいた。海の底にあるという煌びやかな国には辿り着けなかったようだ。イマジネーションにはロロの精神状態が色濃く反映されていた。たったひとりの家族を失って日の浅い幼子の心の底には、まだ光は差していなかった。
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