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    mizuho_hidaka

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    転生芸能ドラマパロ2。
    千冬視点のココイヌ。

    #ココイヌ
    cocoInu

    転生芸能ドラマパロ・2「お疲れ様でした。予定より少し早いくらいですね」
    花垣の声に、皆が一斉に緊張を解く。
    衣装のボタンを外し大きく伸びをしながら松野千冬は笑顔を見せた。
    「ここ最近、撮影終わるの早いよな」
    「ほとんど一発OKだもんな。ドラマの時より色々スムーズになってる」
    「大寿君もイヌピー君も、映画初出演とは思えないくらいNG出さないからなあ。俺の方が圧倒的にNG回数多いし」
    「千冬でNG多いんなら、俺はどうなるんだよ」
    「タケミっちは仕方ないだろ。主役でほとんど出ずっぱりなんだから」
    「優しいなー、相棒。マイキー君とかドラケン君とか、ここぞとばかりにイジってくるからなあ。今日のNGも見られてなきゃいいけど」
    「今週はずっと別撮りだろ? いないんじゃね?」
    周囲を確認するように目線を動かす花垣に、つられて松野も共演者を探した。
    デザイナー兼出演者である三ツ谷隆は、今回の映画の中心人物とも言える柴大寿と端に移動しながら笑顔で話している。大寿はその大柄な体格を生かして、日本より主に海外に拠点を置くモデルだ。後ろを子供のようについて歩くのは、一期のドラマから出演しているやはり兄と同じくモデルの柴八戒。モデル一家の柴三兄姉弟は、プライベートでも三ツ谷と親しいと評判だった。
    先程の和平成立のシーンでは一触即発の雰囲気を完璧に演じきっていたが、カメラが止まった途端次のオフの予定の話をするあたり、家族ぐるみの付き合いという噂は本当らしい。
    三ツ谷が八戒と休憩時間まで共にいることはドラマの撮影の頃から見慣れていたが、柚葉と大寿は今回の映画からの出演の為、松野にとってこの三人の組み合わせは新鮮だった。
    八戒とは同い年ということもあって花垣と共に最近よくつるむようになったが、いずれ大寿達とも親しくなりたいと松野は改めて思った。海外で活躍する大寿や三ツ谷の話は、是非ともゆっくり聞いてみたい。
    残りの二人は、と更に視線を巡らせる。
    ドラマの撮影では一期最終話のみの共演で、それ以外では写真撮影や対談でしかほとんど会うことのなかった九井と乾は、松野の知る限り常に二人で一緒にいた。
    聞いたところによると、二人は作中の設定と同じく幼馴染で双方共に芸能一族という共通点から、やはり親の代からの付き合いらしい。
    予想に違わず二人はセットのソファに並んで腰掛けていた。
    それ自体はリハーサルでも本番後でも、撮影中は比較的よく見られる光景だ。
    だが。
    「……いつにも増して、距離近いっつーか、雰囲気が違う?」
    「千冬もそう思うか、やっぱ」
    「誰でも思うだろ、あれは」
    吐息のかかりそうな距離で九井が乾の顔を覗き込んでいる。これはいつもと変わらない。
    映画の撮影が始まったばかりの頃は「目の保養になる」「癒される」と頬を染めていた女性スタッフ達が「今日はちょっとあっちの椅子に移動してやってくれる?」「あ、向こうバタバタしてるから、いちゃつくなら今日はしばらくセットの中にいてねー」と顔色も変えず端的に告げる程度には日常茶飯事である。
    「青宗」
    あまり聞くことがない響きに、松野は花垣と思わず顔を見合わせた。
    当てがきでの演技に慣れていない乾の為に、現場ではなるべく「イヌピー」呼びを心掛けていると事あるごとに九井が言っていたのを覚えていたからだ。
    「青宗」
    もう一度、先程よりやや通る大きさで声が響く。
    九井は乾の白い額に手を伸ばし、前髪を整えている。
    そのままゆっくりと額、頬、首へと指先を滑らせていった。
    乾は特に表情も変えず、されるがままだ。
    九井の顔が更に乾へと近付いていく。
    全てを受け入れるかのように、金に縁取られた瞼が伏せられる。
    松野が固唾を呑んで見守る中、九井は口───ではなく額を触れ合わせた。
    「……熱はないけど、顔色あんまり良くないな。目に力ないし。送ってく。それとも控室で横になってからの方が良いか?」
    「大袈裟だ。そこまでじゃない」
    「え、イヌピー君、体調悪かったんですか?」
    隣の花垣が思わずといった様子で二人の会話に入っていく。その目は全く気付かなかった、といった申し訳なさに満ち溢れていた。主演かつ企画の全てを負っている身としての責任感だけではなく、純粋に乾の身体そのものを心配している眼差しだった。生き馬の目を抜くような芸能界で、ともすれば綺麗事と嘲笑されそうな甘いことを大真面目に言ってのけた上で実現させてしまう花垣は、きっとこういった裏表のない善良な面が男女問わず好かれる理由なのだろう。
    「俺も全然分かりませんでした。さすがココ君ですね」
    松野の言葉に、九井が少し得意げに笑った。
    「昔から季節の変わり目は疲れが溜まりやすいんだよ、青宗は。仕事に支障が出るほどじゃねぇんだけど」
    「ちょっとわかります。俺も仕事セーブしてもらう時期とかあるんで」
    頷きながら、向かいのソファへ花垣と共に腰掛ける。演技中は座ることができなかったので、衣装のまま座ると少し不思議な気分になった。
    正面で寄り添う二人は、美形を見慣れている松野でもつい魅入ってしまうことのあるくらいの雰囲気を持っている。
    九井とは情報番組等でたまに顔を合わせたこともあるが、モデルの乾とは今回が初顔合わせだった。役とあまり変わらない無口な姿は、その美貌も相まって近寄り難い。火傷痕の特殊メイクがまた凄味を出しているのだが、不思議と火傷痕のメイクがあった方が話しかけやすかった。
    しかし、そうは言ってもやはり表情が読みづらいことに変わりはなく、今も正面から見つめていても体調の悪さは一切感じ取ることができなかった。
    「それ以上『イヌピー』の顔を鑑賞するなら十万要求するぜ、壱番隊副隊長さん?」
    舌を出して笑いながら、九井が乾の肩を抱き寄せる。
    不躾に眺めてしまっていたことに気付き、松野は素直に頭を下げた。
    「調子良くないところを全然出さないプロ意識、本当に凄いなーと思ってつい見ちゃいました。いや、凄い顔綺麗だなとも毎回思ってますけど。十代目黒龍なんて顔もスタイルも良くて身長まで高いハイレベル集団、どうやって演者見つけてくるのかって台本読んだとき思いましたもん、俺」
    「褒めても何も出ないぞ」
    「本心ですって」
    花垣の頭の中では既に最初から最後まで物語が完成しているらしく、かなり先まで脚本が形になっているというのは松野自身、本人から直接聞いていた。
    キャラも出来上がっているようで、演技自体は演者にほとんど任せてくれているものの、相談した際には常に澱みのない答えが返ってくる。
    本当に同い年なのか時折不思議になる、そんな花垣が次の展開のキーマンとして連れてきたのが目の前の二人、そして柴大寿らだった。
    「俺、続きが気になり過ぎて、タケミっちに頼み込んで実はかなり前に台本見せて貰ってたんですよね。正直な話、誰が演じるのか想像できなかったんですけど、顔見た瞬間に『あ、ココ君とイヌピー君だ』って素直に思いました」
    顔合わせの会議室に二人揃って入ってきた瞬間のことを、松野は昨日のことのように思い出せる。
    指定された椅子へと隣の男をエスコートする九井は見たことがないほど柔らかな表情で、緊張している相手───乾青宗を気遣っていることがありありと窺えた。
    『ココ』と『イヌピー』がそこにいる、と思った。
    何より「二人が一緒にいて良かった」とも感じた。
    まだ一切公表されていない「関東事変編」や「三天戦争編」まで花垣から構想を聞かされていたにしても、何故そんな安堵を覚えたのかは松野自身もわからない。
    それでも、「二人が共に在ることそれ自体が最良だ」という自分の直感は信じても良いような気がした。
    同時に、他の全ての仕事を蹴ってでもこのプロジェクトを優先し、絶対に成功させてみせると固く決意した瞬間だった。
    「明日も撮影はありますし、今夜はゆっくり休んでください。イヌピー君とは『ピンピンしてる時に』やりたいんで」
    まだ先のクライマックスの場面の台詞を引き合いに出して笑いかける。
    演技の話もプライベートの話もまだまだ話し足りないし、これを機にもっと親しくなりたいが、それは体調が良くなってからの方が良いだろう。
    乾は穏やかに微笑んでいるが、九井がそろそろ痺れを切らしそうだった。
    幼馴染である乾にだけは過保護と言っても良いくらいの献身的な姿は、何事も効率的にこなす人だという印象を良い意味で裏切られ、松野自身に近いところがあると親しみを覚えた。
    その話をするとまた長くなって、今度こそ九井が苛立って演技ではない青筋を浮かべさせてしまうかもしれない。
    「引き留めてスミマセン。気を付けて帰ってくださいね」
    一礼し、立ち上がりかける。
    が、突然「あ!」と声を上げた花垣に腕を引かれてソファに逆戻りする羽目になってしまった。
    「すみません、ココ君、イヌピー君。一瞬だけそのままで! 四人で写真撮らせてください! 携帯で良いんで! いやカメラさんが近くにいるならカメラさんでも助かるんですけど!」
    花垣の声に何人かのスタッフが慌てて駆け寄ってくる。
    宣材ではないのなら無理に今撮る必要はないと思うのだが、帰ろうとしていた二人に頭を下げてでも撮らなければならない理由が花垣の中ではあるのだろう。
    「タケミっちがこう言うからにはきっと何かあるんだと思います。お願いします」
    彼を信じてこそ相棒である「松野千冬」だ。花垣に倣って松野も頭を下げる。
    「ちゃんとした写真じゃなくて良いのか?」
    不思議そうな乾の響きに顔を上げる。
    花垣がわざわざ撮りたいのなら重要なものなのではないかと考えたのだろう。
    「演技はむしろ必要ないんです。ちゃんとした写真じゃない方が良いというか」
    「……ま、座長がそこまで言うなら仕方ねぇな。その代わり後でその写真くれよ。考えてみればこの四人で、しかもこの衣装での写真って結構貴重だしな」
    九井が苦笑しながら乾の肩を引き寄せる。
    携帯を持っていたら自分も撮っていたのに、と思うくらい二人とも優しい表情だった。
    思わず見惚れてしまっていると、花垣に軽く背中を叩かれる。
    「四人で撮ってもらうことに意味があるんだよ、相棒」
    促された松野はソファの後ろに花垣と共に回り込み、ピースサインを作る。
    「初代・二代目東卍壱番隊、隊長・副隊長」というフレーズが一瞬だけ松野の頭に浮かび、すぐ消えた。

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    somakusanao

    DONEココのすきなおにぎりを考えていたら、いつのまにか書いてました。
    ドラケンとイヌピーの話。
    おにぎりは作らないことになったので、タイトル詐欺です。
    そうだ、おにぎりをつくろう「ドラケン、おにぎりの具はなにが好きだ?」
    「うーん。鮭かな」
    「鮭か……。作るの面倒くせぇな」
    「待て待て。オマエがオレに作るのか?」 

     言葉が圧倒的に足りていない同僚をソファーに座らせて説明を求めてみたところ、「ココが忙しそうだから、おにぎりでも作ってやろうと思って」と言う。それはいい。全然いい。九井はきっと喜ぶだろう。

    「なんでオレに聞くんだよ……」

     乾は九井にサプライズをして喜ばせたいんだろう。それは安易に想像できる。
     だがしかし、イヌピー同担拒否過激派九井が面倒くさい。きっと今もこの会話をどこかで聞いているはずだ。最初の頃は盗聴器盗撮器の類を躍起になって探していた龍宮寺だったが、ある時期に諦めた。ようするに九井は乾の声が聞こえて、乾の姿が見られればいいのだ。盗聴器と盗撮器の場所を固定にしてもらった。盗聴盗撮される側が指定するっていうのもなんだかなと思いながらも、あらかじめ場所を知ったことで龍宮寺の心の安定は保たれる。ちなみに乾は中学時代から九井につねに居場所を知られている生活をしているので、慣れ切っている。
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