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    mizuho_hidaka

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    #ココイヌ百物語」に参加させて頂きました。2つ目。
    使用お題ワード「(悪)夢」「長い髪」。
    マブ軸の話。

    #ココイヌ
    cocoInu

    ゆめ忘るるなかれ「……ピー、イヌピー、大丈夫か」
    肩を揺すられ、乾は目を開けた。
    冷房の効いている寝室で寝ていたはずなのに、首も額も汗でべたついている。
    不快感より先に、心配そうにこちらを覗き込んでいる九井と目が合った安堵で乾は息を吐いた。
    そのまま手を伸ばし、幼い子供のように抱きつく。
    「良かった……ココだ……」
    目の前にいるのは、関卍や乾赤音ではなく乾青宗を選んでくれた幼馴染。
    そしてこのマンションは、D&Dからは少し離れているけれどセキュリティのしっかりした冷暖房完備の九井の部屋。
    大丈夫。此処は自分と九井の二人しかいない。
    「……怖い夢でも見たか?」
    小さく頷く。
    茶化されるかと思ったが、優しく抱き締め返された。
    「悪夢って人に話したら正夢にならないって言うぜ。すぐには寝付けないだろうし、話してみろよ」
    言いながら九井が隣に入ってくる。キングサイズのベッドは大の男二人がくっつかなくても眠ることができる広さだったが、乾は甘えるように九井の肩にもたれ掛かり、ゆっくりと口を開いた。
    「一週間前からかな。人影がこっちを見ている夢を見たんだ。それから毎日同じ夢ばっかり見る。最初は人間ってことしかわからなかったんだけど、日に日に近付いてきて、三日くらい前からは赤い服を着た髪の長い奴だってことも何となく感じるようになった。顔はぼんやりしてるっていうか、見えなかった。オレの部屋、クーラーの調子悪いし。それで変な夢見るのかなって思って、昨日は仕事も溜まってたからついでに店の二階に泊まったんだ」
    「最近、疲れてる顔してたから夏バテかなと思ったんだけど。もしかして夢見が悪くて寝不足だったりした?」
    ベッドサイドに置いてあったペットボトルの水を手渡される。礼を言って受け取りながら、乾は言い訳っぽいなと自分でも思いながらぼそぼそと答えた。
    「ただ人影が近付いてくるってだけの夢だし、霊感だの何だのある方じゃねぇし、そもそも信じてねぇし」
    「それでも言えよ。ていうか、クーラーが壊れかけてるってだけでも充分問題だろ。熱中症にでもなったらどうするんだよ」
    「ん……」
    茹だるような暑さが連日続く熱帯夜。九井の涼しい部屋が恋しくなかったと言えば嘘になる。
    けれど、関卍をやめて有名大学に通うようになった九井に一方的に頼るようなことはしたくなかった。ただでさえ多忙であろう学業の合間を縫って、D&Dの雑務を手伝ってもらっているというのに。
    「オレのテストだのレポートだの気にしてくれたんだろうけど、イヌピーに体調崩されたらそんなの全部放り出してオマエに付きっきりになるんだからな。そっちの方がイヌピー的にはキツいんじゃねぇの」
    「わかってるならすんなよ」
    「泊まりに来てくれたおかげで未遂になったな」
    「明日は定休日だし、ココもテスト終わったってメールくれたから……」
    「ウチに来てくれて良かったよ、ホント。……それで? 続きがあるんだろ?」
    中身が半分になったプラスチックの瓶を持つ指に力が入った。気付いた九井にペットボトルを取り上げられながら、続きを促される。
    「……昨日は、人影が一晩中枕元に立ってる夢だった。自分で自分を見下ろしてたから夢だってわかった感じだった。店のソファで寝てたのに夢で見たのはベッドに寝てるオレだったし。で、人影が銀髪の男だってことも何となくわかった。髪が長かったから女と思いそうなもんなのに、何でかわかんねーけど、そう思った。……ソイツは身動きひとつしないでオレの顔を覗き込んでた。それだけだ」
    「それだけとは言うけど、毎晩同じ夢見てしかもソイツが近付いてきてたんなら不気味に決まってるって。それで、今日はどうだったんだ? 魘されてたし、やっぱり同じ夢?」
    「……」
    「イヌピー?」
    覗き込まれそうになった顔を肩に埋めることで咄嗟に誤魔化す。だが、そんな小細工は幼馴染相手に通用するはずもなかった。
    「言いづらいなら当ててやろうか。……その人影、オレの顔してたんだろ」
    反射的に伏せていた顔を上げる。
    当たった、と笑った九井は落ち着かせるように乾の肩を抱き寄せてくれた。
    「……すげー似てたけど、ココじゃない。もっと年上だった。銀髪で、花札みたいな刺青を頭の剃り込みにしてるようなヤツ。似ててもあれはココじゃねぇ」
    往生際悪く呟く。
    ……本当は、昨夜の時点で予想はしていた。痩せ細ってはいたけれど、後ろ姿は長年見知った男のそれだったから。
    でも、信じられなかった。信じたくなかった。あんな疲れたような背中が九井の将来の姿だなんて。
    「今日はこのまま泊まっていかねぇ?」と言ってくれた九井の誘いにすぐ頷いたのは、翌日にお互い仕事や大学の講義がないという理由も勿論だったが、九井が側にいればもうあの夢は見ないのではないかという期待からだった。
    願望混じりの予想は見事に外れ、夢に出てきた男は九井の顔をしていたが。
    「……ずっと驚いたみたいに目を見開いてたんだ、ソイツ。ココならオレの顔を見慣れてる。だから夢に出てきたあの男はココじゃない」
    「久々にイヌピーの顔見たんじゃねぇの、そのオレに似てたヤツはさ」
    「どういう意味だ?」
    「オレであってオレじゃないソイツは、二年前に別れたっきりずっとイヌピーに会えなかった『九井一』なんじゃねぇかなって。漫画とか小説とか映画でもよくあるだろ、ドッペルゲンガーとかタイムトラベルとか生霊とか」
    首を傾げて続きを促す。生憎九井のように学がある訳ではないので、並べられた単語はほとんどわからなかった。
    「例えばオレが花垣を抱えて店に行かなかったら。あるいは三天戦争にそもそも出向いてなかったら。イヌピーが花垣に誘われても二代目東卍に参加しなかったら。……イヌピーがオレを追いかけて、『マブだ』って言ってくれなかったら。オレは此処にはいなかった」
    「そう……かもな」
    「死んだ人間が霊になって恨みに思った相手の元に行くのはよくある話だけど、生きてる人間が魂だけになって好きな相手に会いに行ったり、殺したい相手のところに行く話もあるんだぜ。ちょうど大学のレポートの課題がそれだった。『源氏物語』の『葵』っていうんだけど、知ってる?」
    「オレが知ってると思うのかよ……」
    だよなあ、と小さく笑う声が耳元を掠める。柔らかな響きに目を閉じれば、そのまま眠れそうなら寝ちまえよ、と優しく頭を撫でられた。
    「本当はイヌピーに会いたかったくせに、意地張って会わないまま何年も……十年以上経過した『オレ』が、魂だけになってイヌピーに夢でもいいから会いに来た……そう考えたら、ちょっとは怖く無くなって許す気にならねぇ?」
    「……何でオレに会いに来るんだよ……ずっと会ってない同い年のオレに会いに行けばいいじゃねぇか……」
    微睡みながらも突っ込んでやる。
    「言われてみりゃーそうなんだけどさ。やっぱり気まずかったんじゃねぇの。後は……」
    「……あとは……なんだよ……」
    「マブに戻ったオレ達が見たかったんじゃねぇのかな、『オレ』は。イヌピーがオレのこと頼ってくれて、同じベッドで一緒に寝る仲だってことを自分の目で確かめて安心したかったんだろうなって」
    「……よく……わかんねぇ……」
    額に口付けられる感触があった。同じように触れたいのに、もう目が開きそうににない。
    「……わからなくて良いよ。もうそんな夢は見ないだろうからさ。見させねぇし」
    いくら『オレ』相手とはいえ、イヌピーの寝顔見せるなんて、出血大サービスも良いところだよな。オレって実は善人なんじゃねぇのかな。
    頭も意識もふわふわしてきて、九井が何を言っているかわからない。
    眠りに誘うような囁きはどこか楽しげで、つられるように乾も微笑んだ。
    きっと九井の言う通り、もう悪夢を見ることはないだろう。



    「……イヌピー、もう寝ちゃった……?」
    規則正しい寝息に安堵し、薄いタオルケットを掛け直してやる。
    本来、一度寝入ってしまえばちょっとやそっとでは起きない体質だ。この一週間の寝不足もあって、きっと朝まで起きることはないだろう。
    「ごめんな。『オレ』にとっては良い夢でも、イヌピーにとってはちょっと怖い夢だったよな」
    痣を撫でながら囁く。
    「……『オレ』が驚いたのは、ちょっと見ない間にイヌピーが美人になってたってのもあるけど、夢でも生霊になってでもイヌピーの顔が見たかったっていう自分の執着を自覚したからだよ。……バカだよなァ、本当。忘れられるわけねぇってのに。まあ、ちゃんと自覚しただろうし、今頃イヌピーの言う通り会いに行ってると思うから、それで許してやって」

    九井は小さく微笑みながら、乾の首筋と手首に絡まった白とも銀ともつかない長い髪の毛を取り払い、温かい身体を抱き締めて目を閉じた。
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