安眠「寒い」
「布団でも増やすか」
「ううん、重くなるやだ」
「だが寒さを感じると寝付けないだろう」
「そうだけど、」
「なら湯たんぽでも用意するか、兄弟に頼んでくる」
「ま、待って!……その、一緒に寝るとかじゃ、駄目?」
「……俺とか?」
「他に、誰がいるの」
「それはそうだが」
別に、何があったわけではないけれど、少し人肌が恋しいというか、何となく胸の辺りがすうと冷えるような気がしてしまったのだ。
ここのところ早朝の寒さが辛いのは本当だし、布団が温まるまでも時間がかかるせいで上手く寝付けないのも本当だけれど、それはそれとしてなんだか、今日はどうしても離れ難かった。
突飛なことを言っている自覚がしっかりあるから気まずくて国広の顔が見れない。
暫くお互いに無言で、変なこと言ってごめんとすぐに謝れば良かったのにそのタイミングすら逃してどうしようと視線を彷徨わせていると、そっと頭の辺りに手を置かれた。
「布団敷くぞ」
「え、」
「もう遅い、眠るんだろう」
「っ、うん」
「狭くても文句は言うなよ」
「言わないよ」
二人で布団を敷いて、部屋の電気を消す。
枕は一つしかないからどうしようかと思ったけれど、国広に取られた。
先に横になった国広の隣に寝そべれば、頭の下に腕を差し込まれる。
「ほら、寝るぞ」
「国広の腕かたい…私のまくら……」
「文句は言わないんだろう?」
「う、」
寝やすい体勢を見付けようと思ったのに、それよりも先に私に腕枕をしているのとは反対の腕で抱える様に抱き込まれ、すっぽりと腕の中に閉じ込められてしまった。
一人で寝る分には余裕のあるサイズの布団でも、二人で使うにはやはり少しばかり狭くてはみ出してしまわないようにするには引っ付く必要があるのは分かるけれど、ちょっと苦しい。
「あんた体冷たすぎないか」
「そうかな」
「これでは眠るのも辛いだろ」
「うーん、まあ、寝付くまでには時間かかるけど、」
「ほら、足」
「ひゃっ、な、なに?」
足先に、何かが触れて、それから挟まれた。
くすぐったくて身を捩るけれど、それすら許さないとばかりにぴったりと触れていないところが無い程に抱きしめられてしまう。
こんな状態でどう寝ろと、なんて思っていたのに触れ合った部分からじわじわと体温を分け与えられていると、だんだんと瞼が重くなってきてしまって己の単純さを恨んだ。
腕枕は硬いし、国広自身も柔らかくないし力が強くて苦しいけど、あたたかくて、耳元で聞こえる鼓動が心地良くて。
「……眠れそうか」
「ん、」
「なら、寝てしまえ」
「はあい」
「お休み、良い夢を」
いつも私が皆に言っている言葉を取られてしまった。
文句を言ってやろうとも思ったけど、もう目は開けてられないし、言葉も上手く紡げそうになかったから、胸元に額を摺り寄せてそれを言葉の代わりにする。
一定のリズムで背を叩かれる感覚に身を任せれば、すとんと私の意識は落ちていった。