運命の人ドラマ「運命の人」
このドラマは二次創作で流行したオメガバースという設定を用いたドラマである。男女の性別の他に、α、β、Ωの性があり、Ωは男女共に子供を成すことができる。という設定である。
ドラマとしては過激な内容に賛否両論はあったが、同性同士や運命の番と出会ってしまったのに他に心で繋がっている相手がいたり、地位やいろいろな設定で織り成すシリーズは大ヒットしていた。
中でもとりわけ話題なのは、シリーズごとにフィーチャーされる役者は異なるものの、視聴者はもちろん出演者にも、相手役が誰であるかは発表されないのだ。出演者は、自分がメインのシリーズ出ない時にエキストラ的な出演をしていたり、メインの役の近場の存在の人が次のシリーズの主役になるなんてこともあり、次のシリーズが発表になるころには、出演者も視聴者も、次は誰がメインで相手役は誰になるのかと考察合戦が始まるのだ。それこそ、SNSではドラマのハッシュタグがトレンド入りするような事態である。
ヒントは与えられていて、役名だけ発表となるのだ。その人に関連した名前が多いため、出演者の中で次になりそうな人を考え、そこから関係性のある人物…はたまた関係ない人物を想像しているのである。
そして、そんな中次のシリーズの主役が発表されたのだ。
「まさかの…俺…?」
ドラマのSNSの更新通知が出て、一応前シリーズのメイン役の同級生役として出ていた高峯翠こと、『翡翠』がメインになる事が発表されたのだ。
高峯演じる翡翠は、見た目も良く人当たりもいいそこら辺にいる好青年だが、見た目のままに第2性はαであった。だが、問題もあって肝心のΩのフェロモンを感じることが出来ない。匂いも分からないという、αとして欠陥品扱いを受けているせいねんであった。前作でも、無理やり発情期を起こさせられて乱暴されかけた友人の恋人のΩを、フェロモンに充てられないからとその場から助け出し、友人に引渡して終わるという役どころであった。
「ええ…俺がメインとか…相手の人誰なんだろ…」
不安を覚えながらSNSの投稿の続きを見ていれば相手役の名前が『青藍(セイラン)』とだけ発表があった。
「え…だれだろ。藍って字が使われてるけど…白鳥くんとか?」
藍良の容姿を思いだせば、明らかにΩのような庇護欲を掻き立てられるような可愛らしい容姿であることは納得できる。
「でも相手がΩの人とは決まってないから…αの可能性もβの可能性もあるし」
そんなこんなグルグル考えていれば、個人的な連絡用の通信アプリには流星隊のみんなや、夢ノ咲での同級生達から主役おめでとう!というお祝いの言葉に溢れていた。
「相手が誰だかわからないの不安だなぁ…」
はぁとため息をつきながら、自室のベッドにポスンと横になる。
青…藍色。その色で思い浮かぶのはただ1人の人で、自分の尊敬する先輩であり大好きな人。
「伏見先輩ならいいのにな…」
結末はどうなるかは分からないけど、ドラマの中だけでも恋人になれるかもしれない。そんなことを考えては現実はそうも行かないんだけどとなり目を閉じる。ドラマの収録は目と鼻の先だった。
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「では撮影はいりまーす!」
「よ、よろしくお願いします!」
ついにドラマの撮影が始まった。最初の出会いまでは相手役を知らされないため、楽屋も徹底的に合わないように手配されている。誰なのか分からないせいもあって、余計に緊張してしまう翠であった。
貰った台本によると、大学の中を歩いているとすごくいい匂いが漂ってきて、その匂いに誘われるように匂いが強くなる方向へ歩いていく。すると、行った先は書庫で、ドアを開けると比にならないくらいのいい匂いが充満しており、目の前にいる人が自分の運命の人だと悟る。というト書である。
「高峯くん準備はいいかい?」
「はい」
「じゃあ始めるぞ!」
カウントダウンが終わる。そして台本通りに廊下を歩いていると、微かに甘い匂いがしてきた。
(香水?ほんとに使うんだ)
演技とはいえ匂いがあるととてもわかりやすい。匂いがどんどん強くなる方向へ足を向ける。
(いい匂い…甘いけど嫌にならない香り…でもこれ、どこかで嗅いだことある香りのような)
「なんでだろ…俺匂い分からないはずなのに…いい匂い…」
不味い、初めてこんなフェロモンの匂いを感じてるんて、もし発生源の人をみたら自制できるか…そんなことを考えながらも歩く足はどんどん早くなる。
(この匂い…しってる、この匂いは)
期待に胸を膨らませながらドアをノックすると中からはいと言う声が聞こえてくる。やっぱりこの声…っ
「あの!!!俺と番になってください!」
「はい?」
勢いよくドアを開けたさきには、藍色の少し癖のある短髪と、メガネを掛けた奥には少し赤みがかった紫の目を持ち、雰囲気が少し妖艶な青年が本を片手にこちらをみて目を見開いて固まっている。
「カットー!!」
とカットの声がかかれば、驚いている相手の所に駆け寄りガバッと抱きつく
「あの…」
「伏見先輩だったんですね」
「そのようで…わたくしもまさかあなたの御相手役として出演とは思っておりませんでした」
そうして翠の肩をおし、翠の顔を見てくる弓弦はいつものように優雅に笑みを浮かべている
「短い間ですが、よろしくお願いいたしますね?高峯さま」
「こちらこそ!よろしくお願いします」
その抱きついた写真と、キラキラした笑顔の翠の写真は番組公式SNSに掲載され、話題になったのであった。