『Agnès』 皆が集った事務所は少し騒がしかった。
スイーツを片手にアーロンとやり合うヴァン。それをあわあわしながら止めようとするフェリ。いつもの事だからか関わる事なく、最近の流行について語るジュディスとリゼット。XEROSとFIOに笑いかけるカトル。飲み物を手に静かに落ち着いた笑みを浮かべるベルガルド。
全員が集まれば些か狭く感じる所内、アニエスは少し離れた場所でその様子を眺めていた。
この騒がしさが好きだと彼女は思った。モンマルトの二階が今ではとても愛おしかった。
だんだんと人が増え、そこに絆が生まれ、少しずつ変わっていく居心地の良いこの場所がかけがえのないものだと今ならはっきりと言える。
──変わる事は悪い事じゃない。だって、こんなにも過ごしてきた時間が愛しいから。
今は身を隠している凛としたまなざしも、前を向く強さも、歩み出せる勇気も。この部屋の誰もが眩しさに目を細める程の変化を自分自身が手にしている。その事に気づかずに少女は頬を緩ませる。
穏やかな時間は束の間かもしれない。
今はその考えをどこかにおいやってアニエスは穏やかなまなざしで皆を見つめ、ほろりと優しい笑みを部屋の片隅で咲かせた。