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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
    司レオがメイン

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    かがり

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    (2025.8.30)
    和風妖怪パロディの続き(の途中)
    ワンドロ前にキリがいいところまで上げたかったので

    #小説
    novel
    #司レオ
    ministerOfJustice,Leo.

    鬼が袖引く(三):司レオ 煌々とした月明かりは、足元に濃く影を作っている。
     都の外れも外れ。加えて、草木も眠る丑三つ時とくれば、聞こえてくるのは時折吹き抜ける風の音だけだった。
     ぽつりと建つ家屋は廃墟と呼んで差し支えない佇まいで、既に屋根は倒壊し、土台の木枠だけが残されていた。そこに腰掛けて足をぶらぶらと揺らしながら、レオは美しい月をぼんやりと眺めている。
     
     秋が過ぎて、季節は冬に差し掛かっていた。夜の冷え込みは徐々に増していて、少し前まであれほど毎夜奏でられていた虫の鳴き声は聞こえない。その代わりと言っては何だけれど、この場にはそぐわない愉快な鼻歌を、抵抗するような心持ちで吹く風に乗せた。
     
     冬は嫌いだ、とレオは首巻を直しながら顔を顰める。生き物の気配が希薄なことが好きではないし、そもそも、身が痺れるような寒さが得意ではなかった。あまり「仕事」が頻発しないといいのだけれど。
     
     こんな風に月明かりが眩い夜は、どうしても自身の仕事には向かない。だからこそ、人気のない場所で好き勝手に口笛や鼻歌を響かせながら、レオはいつかの鬼の再来を待っていた。
     
     不意に。
     カタリ、と廃墟の奥から物音がして、そろりと後ろを振り返る。
     横倒しになった屋根が作った影は、夜目が効くレオの視界を以てしても、黒く塗りつぶされて先が見えない。
     その暗闇からふと音もなく、白い腕が伸びてきた。
     そうしてゆっくりと、招くように揺れる。

    「この前の鬼! だよな!」

     反射的に暗闇に声を掛ける。
     すると、一呼吸ののち、するりと身体全体が姿を現した。そのまま、以前も伴っていた鬼火がゆらりと灯る。
     初めて会った夜以来に見たおかしな鬼は、どこか憮然とした表情をしている。もしかしたら、今の登場は怖がらせる賭けの一環だったのかもしれなかった。

    「……流行りの歌ですか?」
    「今の鼻歌のこと? 知らん! おれが勝手に歌ってるやつだから!」

     突如、歌い出したくなる旋律があっても、それを表出する術は、こうして声に乗せること以外知らない。
     そんな取り留めもない話に、どこか感心したように鬼は小さく頷いている。
     ――ああ、やはりあの夜のことは夢ではなかったのだ。

    「おまえ、なかなか会えないからさぁ、流石に夢とか幻だったらどうしようかなって思ってた!」
    「私も暇ではないのです。傾向や対策を練る必要もありましたし」

     生真面目な顔でそんなことを言う鬼は、やはり変でおもしろいとレオは思う。

    「そういえば、名前聞いてなかったなって思って。おれは月永レオ! おまえは?」

     瞬間、ぴしりと音がするように鬼の動きが固まった。というより実際、廃墟の土台が家鳴りの音を響かせた。
     そうして、心底信じられない、という視線を向けられてしまう。

    「いいですか? 私のような妖に、真名を無条件で明かすことはいただけません。絶対に他所ではやらないでくださいね」

     そんな風に、説教をするようにきつく言い含められた。その剣幕に思わず身を退け反らせるけれど、そんなやり取りはどこか人間臭さも感じる。

    「それから、私の名を明かすことはできません。人に渡ると最悪、名によって縛られて、式にされてしまいますから」

     毅然とした態度からするに、鬼は名を教えるつもりは無いようだった。

    「じゃあお前のこと何て呼べば良いんだ?」

     レオが首を傾げて問えば、何てことないように鬼は答える。

    「私の縄張りは朱桜屋敷と呼ばれている、人が住まなくなった館。それゆえ、私の同胞はらからはそのように名乗ることが多いです」
    「スオ〜?」
    「はい、レオさん」

     その鬼は、言動だけを取れば、妙に丁寧で腰が低い。それなのに語調はどこか傲慢にも感じるから不思議だった。強者の余裕、というやつなのだろうか。

    「そうだ、依頼主のやつに落雁もらったんだけど食べる⁇ 鬼ってそういうの食べるのか?」
    「ええ、食べられますよ」

     甘いものは好きな部類です、とレオの隣に腰を下ろした。


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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。七夕を楽しむ二人と、夏の風物詩たちを詰め込んだお話です。神頼みができない人にも人事を超えた願いがあるのは良いですね。
    >前作:昔の話
    https://poipiku.com/271957/11735878.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    星渡 折からの長雨は梅雨を経て、尚も止まぬようであった。蒸し暑さが冷えて一安心、と思ったが、いよいよ寒いと慌てて質屋に冬布団を取り戻そうと人が押しかけたほどである。さては今年は凶作になりはすまいか、と一部が心配したのも無理からぬことだろう。てるてる坊主をいくつも吊るして、さながら大獄後のようだと背筋が凍るような狂歌が高札に掲げられたのは人心の荒廃を憂えずにはいられない。
     しかし夏至を越え、流石に日が伸びた後はいくらか空も笑顔を見せるようになった。夜が必ず明けるように、悩み苦しみというのはいつしか晴れるものだ。人の心はうつろいやすく、お役御免となったてるてる坊主を片付け、軒先に笹飾りを並べるなどする。揺らめく色とりどりの短冊に目を引かれ、福沢諭吉はついこの前までは同じ場所に菖蒲を飾っていたことを思い出した。つくづく時間が経つ早さは増水時の川の流れとは比べるまでもなく早い。寧ろ、歳を重ねるごとに勢いを増しているかのように感じられる。
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