目標達成は難しい待ち合わせ場所を間違えたのだろうか。
ルカと空港で待ち合わせる約束をしたものの、一向に見つからない。
それに、『到着したんだけど、ルカ空港にもういる?』と送ったきり、スマホはうんともすんとも言わない。そして見渡す限りの人、人、人。
そう思うと初めて待ち合わせした時はお互い声だけが頼りだったはずなのに、すんなり会えたのは奇跡だったんじゃないかと思う。
手元には大きなキャリーケースがあるし、あまりうろうろと彷徨うのも迷惑な気がする。
こんなに人がいるなら見知ったブロンドの男がいてもいいじゃないか。
仕方なく近くのベンチに腰を掛け、ルカにもう一度メッセージを送ろうとスマホに目を落とすと、後ろから大きな衝撃が来た。
「うわっ」
「アイキー!!久しぶり!」
勢いよくバックハグしてきたのは振り返るまでもなく、ルカである。
ハグとともにぐりぐりと頭をこすりつけるから首元がすごく擽ったい。
「久しぶりルカ、そして熱烈なお出迎えありがとう。僕からもハグを返したいんだけど、前にまわってきてもらうことはできるかな?」
「POOOG!もちろんさ!でもちょっと待ってね」
そういうとルカは一度離れ、床に置いていたらしい袋から飲み物を僕に手渡してくれた。
「はい、どーぞ。長旅は疲れただろうなって持って飲み物買おうとしたらさ、意外と売店がなくて。探してるうちに待ち合わせ場所から遠ざかっちゃったのは誤算だった」
「あぁ、だからルカのこと全然見つけられなかったのか。僕が場所間違えちゃったのかと思って少し心配しちゃったよ。でも飲み物ありがとね」
「やっぱり俺のこと探してたよね、ごめん」
別にすごく待ったっていうわけでもないし、大丈夫だよ、と伝えたくて大きく腕を広げるとルカがもう一度、今度は正面からハグをしてくれた。
今度は僕も抱きしめ返せるのがうれしくて、ゆっくり腕を回し、広い背中をトントンと優しく叩く。
そしたらやっぱりルカは頭をぐりぐりと左右に振る。それがくすぐったいからか、久しぶりにルカとハグができているから嬉しくてなのか、わからないけどつい笑みがこぼれる。
でもいつまでも空港にいては仕方がないので、少し名残惜しいけど背中にまわした手をおろし、立ち上がった。
「はぁ、久しぶりになんか、こう、心の中がすごく満たされた感じがする」
「僕もだよ。ここから一週間寝ても覚めてもルカが横にいると思うと幸せでとんで行っちゃいそう」
そう僕がいうとルカは透き通る紫色の瞳を見開き、にこりと笑ったかと思うと、じゃあこうしとこう、と僕の手を握ってくれた。
今回の旅の目的はルカの自国巡り、そして今日の目標は移動疲れを取るために早くルカの家へ行き寝ることのため、星空が見守る中、ルカの自宅へと向かう。
目標達成のためにてきぱきと寝支度を整え、大きなベッドの中に二人で寝転がる。
「おやすみ、ルカ」
「うん。おやすみ。なんかいつも電話越しで聞くアイクのおやすみは少し寂しそうだなって思ってたけど、今日はなんだかご機嫌だね?」
「そりゃそうだよ。だってルカが隣にいるじゃん?」
「うん?どういうこと?」
んふふ、内緒だよ。と空港でのお返しにルカの胸元に頭を埋めるとぎゅっと抱きしめてくれた。本当にルカとのハグは落ち着くし、旅疲れとかもふっとんじゃう。
人間、ハグをするとストレス解消になるなんて言うけどこれは本当なんだろうなって身をもって実感する。
「ねぇ、アイキー?」
「なぁに、るか」
温かい体温に包まれうとうとと飛びかけていた意識が少し現実に引き戻される。
開き切らない瞳を向けると額に優しいキスと、今日は寝かしてあげるけどさっきの意味教えてくれるまで明日は寝かさないから、と耳元へ僕の腰への余命宣告が落とされた。
彷徨いかけた意識が一気に上げられ、思わず「え?」と問い返しても当の本人はもうきれいな瞳を閉ざしてしまっている。
電話での『おやすみ』はお別れの合図だけど、隣にいれば『また明日』って意味になるじゃない?と、明日僕がルカに白状すれば僕の腰は無事でいられる?
でもこれを伝えるのはちょっと、いやだいぶ恥ずかしい。
あとルカの行動力は時々想像のはるか上を行くから、じゃあずっと会えるようにすればいいじゃん、ってすぐに一緒にいられるように準備を進められる可能性もある。
ルカとずっと一緒にいられたら、とはもちろん思うしそれが叶えられたらすごく嬉しい。
でも、僕にはまだその行動をとれるまでの心の準備も、物理的な諸々の準備もできていない。
でもあの感じは多分見逃してくれないよね……。いや、言っても僕の腰が無事である保証って、もしかしてなない?
……言うべきか、言わないべきか。
脳内の天秤がゆらゆらと揺れるうちに睡魔に誘惑され、答えは出ぬまま朝日を拝むことになった。