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    sasagi6767

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    sasagi6767

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    ヘビの命のブラックドクターと大型種ヘビ。気持ちはブラヘビ。ヘビは擬人化じゃなくてヘビのままです。ヘビの命ED後からムカデ裁判直前まで、みたいな。大型ヘビが可愛くってもう…!

    #ヘビの命
    snakeLife

    ブラックドクターと大型種ヘビのはなし1.

     目の前で、旅館が爆発した。

     
    「大型ヘビ、何やってるの!」
    「早く逃げようよ!こっちにまで火の粉が着ちゃうよ!」

     旅館の従業員さんや、ゴーグルの男の子が数歩前を走りながら僕を振り返った。僕は大型種で動きも遅いから、一層心配してくれてるんだろう。でも。

    「うん。僕は遅いから、ゆっくり行くよ。みんな先に行ってて」

     のろのろと進みながらそう言うと、二人とも困った顔をして。…それでも、旅館のおかみさんや一緒にいる小さなヘビを抱えながら、『気を付けてね!』と駆けて行く。さて、僕も急がないと。そう思いながらも、歩む尾が止まった。

     ちょっと考えて、振り返って、旅館へと戻る。ごうごうと燃え盛っている旅館は、柱すら崩れ落ちているのが赤い炎の中見て取れた。それから。

    「死んでるの?」

     旅館の入り口の前で、たった一人。倒れてる姿に、声を掛けてみる。ちょうど、旅館の爆発が直撃する位置にいたんだろう。無能…じゃなかった、無敗の刑事さんに、お前が一番最後尾だ!って言われてたからなあ。

    「ねえ、救世主X」

     そう呼んで、口でちょいちょいと倒れてる頭に触れてみる。ブラックドクターと悩んだけど、きっとこのひとはこっちの呼び方のほうが好きなんだろう。みんなから散々、くそダサい厨二のネーミングって言われてたけど。

     飛んでくる火の粉がちょっとだけ熱い。でも、僕はレアの大型種だから、他のヘビよりもちょっとだけ丈夫だ。レアヘビってことで、このひとからは色々犯人扱いもされたけど、それもまあいいや。こうして助かったんだし。
       
    「…うぅ」

     数度、口で彼の頭をつつくと、彼の口からうめき声が漏れた。その身体が身動ぎして、ゆっくりと顔を上げる。…その眼は、掛けてた眼鏡が割れたのか、血で染まっていた。

    「あ、生きてた」
    「…うるさい。ヘビ如きが、俺に話しかけるな」

     僕の言葉に、その手が僕を追い払うように揺れる。けど、全然見当違いの方向だ。血に染まってることと言い、眼が見えてないんだろうか。うーん、と、頭を横に傾げる。まあ、いいか。

     彼のぼろぼろになったコートを口にくわえて、ぐい、と引いた。救世主Xが戸惑ったように辺りを見回す。僕はここだよ。

    「…なんのつもりだ」
    「だって、ここにいたら死んじゃうでしょ」

     問いかけられて、彼のコートから口を離して、そう答えた。ていうか、なんでこのひとが生きてるのかもわかんないんだけど。あれかな、このひとやヘビ探偵が推理パートで言ってた、相殺システム、ってやつかな。一体、それが今何に反応したのかはやっぱりわかんないけど。

    「離せ。ヘビなんぞに助けられてまで、生きていたくない」
    「もう離してるよ」
    「うるさい!揚げ足を取るな!」
    「揚げ足を取るのはそっちの専売特許じゃない」

     あの旅館で起きた事件では、どれだけ揚げ足を取られたか。ヘビに足はないのに。ていうかこのひとは、都合が悪くなると直ぐに怒るなあ。目の前で、血に染まって見えてないらしい眼を、それでも僕に向けながら。歯噛みしている彼を、何ともなしに見遣る。

    「でも、たくさんのひとを助けるんでしょ。だったら生きてたほうがいいじゃない」

     ヘビの命は空気より軽い、とこのひとは言った。でも、それは、…今までヘビボールを集める為に殺してきたヘビたちの、命の重さを、誤魔化すためだとも。
     ヘビの中でも希少なレアヘビ、その中でも稀にしか持つことのないヘビボール。それを7つ集めたら、エネルギーによって願いが叶う、とかなんとか。そんな、在り得るわけがない希望にしがみついてまで、このひとは不老不死になりたかったんだ。不老不死になって、…救える命を増やしたかったんだ。それは、きっと嘘じゃないんだろう。

     僕の言葉に、救世主Xがぐ、と言葉を詰まらせた。まったくもう、とばかりに、彼のコートの襟をもう一度、咥えて引っ張る。大型種と言ってもヘビだから、人間よりはやっぱり小さい。でも力はあるから、このひと一人くらいなら僕でも咥えて引き摺っていける。速度は遅いけど。

     ずるずると、ゆっくり彼を引き摺って行く僕に。…彼はもう、嫌がらなかった。



    *******************************


    「おい」
    「ふむ?」
    「一回止まれ。コートから口を離せ。…これからどうするんだ」

    「どうするって、家に帰るよ」
    「ふん。そうか」

    「救世主Xも一緒に来るでしょ?」

    「…はあ!?」
    「だって、行くところないでしょ。刑事さんの助手もクビだろうし」
    「……誰がヘビ如きと」

    「でも来るでしょ?」
    「………くそ」

    「じゃあ、行こうよ、救世主X」
    「…その呼び方は止めろ。それは、俺の真の名だ」
    「…しんのな?」
    「そうだ。普段は、ブラックドクターと呼べ」
    「…厨二…」
    「あぁ?」

    「ううん、わかったよ。これからよろしくね、ドクター」
    「…ふん」


    ++++++

    2.

     旅館の爆発から、半年が経った。


     部屋の時計を見て、それから部屋の隅を見た。隅と言うか、部屋の4分の一は占めているドクターの大きなデスク。今日も、そこでドクターは、パソコンに向かってなにかしている。最近はヘッドセットマイクまでつけて、誰かと会話してるようだ。

    「ドクター、もう寝ようよ」

     元々、大型ヘビの僕一匹暮らしだったこの家は、そんなに広くない。所謂1LDK、リビングダイニングキッチンと寝室、その二部屋。だから、このリビングにドクターのデスクもある。狭いと言えば狭いんだけど、僕はキッチンさえ広くて、ごはんをたくさん作って食べられればそれでいいし。ドクターも、仕事の出来る机さえあれば、他はそんなに気にならないみたいだ。
     まあ引っ越ししてもいいんだけどね。僕もバイトしてるし、ドクターも僕に生活費だとか言ってお金を渡してくれるし。…あれ、だったらドクターはもう僕の家から出て行けるのでは?そんなことに気づいて、頭を傾げて。でも、まあいいか、とその思考を隅に追いやった。このドクターなら、出て行きたいなら出て行くって言うだろう。それを言わないってことは、まだ、彼もここにいるつもりなんだろう。うん。

     僕のような大型ヘビは、ヘビ種のなかでもあんまり深く考えたり、悩んだりしない方だと言われてる。だから冤罪を掛けられやすいんだけど。でも、今もそう言うことにして、ドクターに向き直った。

    「ドクター」
    「先に寝ていろ。俺はまだやることがある」

     デスクに向かったまんま、ドクターが振り返ることもなく僕に言う。まったくもう。ため息をついて、にょろにょろと、尾を使ってゆっくりと彼の元へ進んだ。こういうときヘビは便利だと思う。音もなく、相手に近づけるから。

     そのまま、大きく口を開いて、ドクターの襟首を咥えて、引いた。大きく彼の身体が傾いで、ぐるん、と勢いよく首がこっちを振り返る。あー怒ってる怒ってる。

    「何をするこのくそヘビ!」
    「駄目だよ。ドクター放っといたら、徹夜するでしょ」

     怒鳴られるのも、もう慣れたものだ。ていうか、旅館で逢った時から、都合が悪くなると空気が変わって怒鳴ってばっかだったし。ヘビ探偵とそうやって推理バトルするのを見てたから、最初からあんまり怖くない。それよりも、何日も徹夜して眼の下に隈を作りながら不気味に笑うドクターのほうが、何倍も怖い。『ドクター』なんだし、少しは自分の身体も気遣ったほうがいいよ。

    「ほら、寝よう?僕が手伝えることがあるならやるから、明日にしようよ」

     そう言って、もう一度襟首を口で咥えて、尚も引いた。ドクターが舌打ちをして、それでも眼鏡に手を掛ける。よし、勝った。

    「ヘビ如きに手伝えることなどない」
    「わかったよー」

     デスクに眼鏡を置いて立ち上がりながら、そう言ってくるドクターに、思わず目が笑ってしまう。ヘビ如き、って言い方は今でも変えないけど。それがドクターなりの気の使い方と言うか、優しさだと言うことに、気づいてきていた。

    「それにしても、怪我、すっかり治ったねえ」
    「俺を誰だと思ってる?あんな怪我くらい、怪我のうちに入らん」

     二人で寝室まで向かいながら、隣を歩くドクターを見上げて、そんな会話を交わす。…あんなすごい怪我だったのに、今では後遺症どころか、本当にあんな大怪我をしていたのかすら分からない。すごい医者だ、って自分で言ってたけど、それは本当だったようだ。思考はサイコパスだけど。
     そういえば、旅館が爆発した後。本物の天然温泉が出たとか言うのをニュースで見た。もしかして、ドクターも少しはそれに浸かっていたんだろうか。だから、死も相殺されたし、怪我の治りも早かったのかな。でも、それでも彼が、自分で自分を治療して、怪我を直したのは変わらない。

    「ドクターは、ほんとにすごいお医者さんだね」

     ドクターを見上げたまま、素直にそう言うと。面食らったような顔をして、それから苦々しく顔を歪めた。あ、照れてる。

    「…ヘビなんぞに言われても嬉しくない」
    「素直じゃないなあ」

     そんなことを言いながら、並んで歩いたまま寝室に辿り着いた。今だってそうだ、ドクターが一人で歩くなら、こんな寝室になんて数秒で着くのに。速度の遅い僕に合わせて、ゆっくり歩く。ほら、やっぱり優しい。

     でもそれを言ったら、ミスリードした時の推理パート並みの揚げ足論破が返ってくるので、それはこころのなかに仕舞っておく。あの逆転の連続は、寝る前にはつらい。あと僕じゃ、あそこまで逆転できないし。やっぱりあれはヘビ探偵じゃないと。そういえば、彼は元気かなあ。他のみんなも。

     それを口に出そうかと思ったけど。ドクターがベッドに平行に横になったのを見て、やっぱり口を閉じた。ていうか、なんで人間はみんな、ベッドに縦じゃなくて横に寝転がるんだろう?縦に寝るように設計されてるんじゃないんだろうか。ヘビはベッドに丸くなるから、別に関係ないんだけど。

     そんなことを考えながら、ドクターの隣に丸くなった。そうすると、ドクターが習慣のように、僕に寄り掛かる。…枕にするにはヘビ皮は硬いと思うんだけど。あと変温だから冷たいとも思うんだけど。まあ、ドクターがいいなら、いいか。

    「電気消すよー」
    「ああ」

     僕に寄り掛かったドクターが、眼を閉じるのを見て、リモコンで電気を消す。辺りが真っ暗になったのをなんとなく確認してから、僕も頭をベッドに置いた。

    「おやすみ、ドクター」
    「…ああ」

     
     こうして。ドクターと僕の、なんでもない一日は今日も終わる。おやすみなさい、また明日。


    +++++


    3.


     あの事件から。ブラックドクターが僕の家に来てから、一年が経った。


    「ドクター、ごはんができたよ」

     テーブルに、ドクターのごはんとぼくのごはんを並べながら。今日も、パソコンの前に座ってなにやらやってるドクターに声を掛ける。

    「ああ」

     僕の声に頷いて、椅子から立って振り向いたドクターの眼は、今はもう普通に見える。一年前のあの旅館の爆発で、眼やら顔やら体中を怪我したドクターは。自分で『大勢の命を救う医者』、と言うだけの医療の腕で、全部の怪我を自分で直した。見えてない筈なのに、自分で眼を治療してた時は、このひとはなんなんだろうと部屋の隅で震えたものだけど。それだけを見ると、このひとは本当に凄いお医者さんなんだなあ。思考は相変わらずサイコパスだけど。

    「…相変わらず、馬鹿みたいな食事の量だな」
    「大型種だからね」

     僕の前に置いたお皿の数を見て、ドクターが心底うんざりした顔をした。確かに、僕のご飯は、ドクターの3倍…4倍くらいはある。でも、僕にとってはこれが普通だから、幾らドクターに顔を顰められても減らせない。おなかすくし。

    「ところでドクターは、最近毎日何やってるの?」
    「ああ」
     
     デスクの前でパソコンでなにかやってるのは前からだけど。僕に渡してくれる生活費が前よりも多くて、誰かとヘッドセットで喋ってる時間も長い。だから、なにか違うお仕事でも始めたのかな、って軽い気持ちで聞いただけなんだけど。
     そんな予想に反して、この問いかけにドクターはただ頷くだけで、僕には何も言わない。それに、思わず頭を横に傾げた。もしかして、なにかまたよからぬことを考えてるのかな。もうヘビボールに意味はないってドクターも分かってるはずなんだけど。まだ、不老不死の夢を諦めてないとか?それとも、他になにかあるのかな。
     そんなことを考えながら、瞬きの必要の無い目で、彼をじっと見つめると。それを真っ向から受け止めながら、何でもなさそうにドクターが口を開いた。

    「そういえば言わなかったか。あの元刑事、今は検事になってるぞ」

     うわ、滅茶苦茶露骨に話逸らしてきた。でも、そうと分かっていても、あっちから切り出してきた話題に思わず驚いて、話に乗ってしまう。いつもこうやって、滅茶苦茶分かりやすく話を逸らすんだからなあ。それにいつも引っかかる僕も僕だけど。

    「えっ!?あの無能、じゃなかった無敗の刑事が!?」
    「ああ、前にあっちから俺に連絡がきた」

     そう言って、口の端を上げて悪そうに笑う。…また、刑事さんだか検事さんだかを操り人形にするつもりだろうか。いや、前から連絡が来てるのなら、もう既に裏で操ってるのかもしれない。まったくもう。

    「また、検事さんの代わりに推理してるの?」

     お皿の上のパスタを一口で飲み込みながら、そう問いかけると。フォークを持ったドクターが、何も言わずにまた口の端を上げた。…してるんだ。
     こういう悪い笑顔をしているドクターは、これ以上僕が何か言っても聞く耳持たない。それか、また論破合戦が始まって、僕が数秒で負けるか、どっちかだ。僕がヘビ探偵みたいに頭の回転が早かったらなあ。

     そんなことを内心で思いつつ、2枚目のパスタを平らげる僕に。今思いついた、とでも言うように、ドクターが僕を見遣る。

    「ああ、言っておくが明日は出かける」
    「へえ、珍しいね。どこ行くの?」
    「裁判所だ」

     …………。さっきの今で、嫌な予感しかしない。元刑事さんが検事さんになって、それを裏で操ってるのがドクターで、明日行くのが裁判所って。

    「…なにするの?」
    「別におかしなことはしないさ。当然のことをするだけだ」

     言葉を選んだつもりでも、やっぱり問いかけは直球になってしまう。そんな僕の言葉に、ドクターはやっぱり何でもなさそうにそう答えて、スプーンとフォークで器用にパスタを巻いていく。その様子はいつも通りで、動揺も何も見えない。うーん。

    「…僕も行こうかな」
    「やめておけ」

     一層のこと、僕もついていけばいいんじゃないか。そう思って、口に出すと。僕の言葉は、一言で一掃される。えー。

    「なんで?」
    「お前のようなヘビ如きが裁判所に行ったら、冤罪で捕まるだけだ」
    「ええ…」

     一体何故。裁判所は裁判するところだから、事件が起こって捕まるようなこともないのに。ていうか僕を冤罪で捕まえたのなんて、今までの人生でドクターだけだよ。そんなの何回もあったらいやだよ。ていうか、まさか裁判所で事件を起こすつもりなんじゃ。いろんな思いが、一瞬で頭の中を巡ったけど。

    「いいから、明日は家から出るな。家に居ろ。テレビも見るなよ」

     フォークで僕を指しながら、そういうドクターの眼は。…この一年で一番、真剣だったから。

    「…わかったよー」

     不承不承、僕も彼の言葉に頷いて。3枚目のパスタを丸のみした。




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