デッカい(神速)「助けてくれ、だなんて言うからよぉ」
ゼェハァと息が上がっている朱雀は、一気に飲み干して空になったグラスを片手にジトッとこちらにメンチを切ってくる。若干キレているような気もするが、これは俺が100パーセント悪かったと思うので黙ったまま叱られた。
「俺事務所からここまで走ってきたんだぜ!?」
「……すまん。悪かった」
「お前に何かあったのかと……っはぁあ……」
言い訳をさせてくれるなら、一つだけ言わせてほしい。単純にスマホの充電が切れそうだった。
言葉足らずになった自覚はあったが、本当にギリギリ送ることができたこちらの現在地で調べればある程度察しがつくと思ったし、元々会う予定がほんの少し早まっただけだから返信も不要だと思った。まあいいか……と正直、甘えたのは確かだ。
「返事もねぇし、電池切れるし……もー」
「お前もか……。ん?待て、じゃあどうやってここまでたどり着いたんだ」
「ちょっと見れた地図と勘」
だからあんなにバタバタしながら辺りを見回していたのか。窓際の席だったからお互い見つけられたが、奥の方だったらスルーして会えなかったかもしれない。その話を聞くと、ここまで来れただけで奇跡的な気もしてくる。
「……助けてくれとは送ったが、なんだと思ったんだ」
「喧嘩でも売られたのかと思ったんだよ!一人で処理できねぇだとかなんとか言うから、どんだけ大勢相手にしてんのかと……!!」
「ああ……なるほど……」
「それがまさか」
ズラッとテーブルに並んだ皿、皿、皿。地道に減らしたおかげでやっと残りは一皿になったが、ものすごいボリュームのカツサンドが手をつけられないままそこに鎮座している。向かいに座る朱雀は、はぁあ……と何度目かわからないため息を吐いてその皿を自分の前に引き寄せた。
「食い切れねぇから来いってことだなんて」
「……完全に言葉が足らなかった」
これについても言い訳をさせてほしい。直前まで番長さんと打ち合わせをしていて、昼飯にしようと注文をした時までは二人揃っていた。そこから何があったのか詳細は知らないが、番長さんは電話で呼び出されて申し訳なさそうに一声かけて店を出ていったのだ。代金を先に支払って。
とはいえ、喫茶店の軽食なら二人分くらいまあどうにか食えるだろうと思ってた。が、出てきたのはメニューよりもよっぽどデカいサンドイッチに、思っていたよりも1.3倍は一つ一つが大きいチキンナゲット。あとこのカツサンドだ。やたらコーヒーもデカい。なんか全部がデカい。
「頼みすぎるなんて珍しいな」
「メニューより実物が大きいなんて思わねぇだろう」
見てみろ、と朱雀に渡すと、目の前のカツサンドとメニューのカツサンドを二、三度見比べて驚いている。逆ならよく聞く話だが、こういうパターンも存在するのか、と一つ勉強になった。おかげで腹いっぱいだ。
「そこまで食欲ないんだよな」
「珍しい」
「誰のせいだと思ってんだ……」
「あ?俺か?小さい子供じゃないんだから、連絡つかなくなったくらいで必死こいて探さなくてもよかったろ。食欲旺盛なお前がそんな風になるくらいまで心配してくれる必要はねぇよ」
「そりゃ玄武なら大丈夫だとは思ったけどよぉ。お前、助けてって言うことそんなにないじゃねぇか。だからビックリしたんだ」
ムッとした顔で言い切ると、朱雀はカツサンドに齧り付いた。その瞬間、険しい顔もコロッと変わり、口の中に頬張りながらこれ美味い!とキラキラした目で訴えかけてくる。少し呆れながら笑い返したが、複雑な心境だった。
「っ、んめぇ!!」
「良かったな」
悪いことをしてしまった、心配をかけないようにしないと。そう思う心が、9割。残りの1割は申し訳なさそうに、罪悪感に苛まれながらも主張している。俺に何かあったとしても、助けを求めてしまえば、こうやって朱雀は探してくれるんだろう。そう、嬉しく思ってしまった。
「助けてって言うなって言ってんじゃねぇぞ?むしろもっと頼れ、こういうしょーもないミスでもいいからよ」
「しょうもない……。結構悩んだんだがな」
「俺が心配してた最悪のに比べればかわいいもんだろ!?合言葉決めようぜ、本当にヤバい時に伝わるやつ!」
「……。前から思ってたが、お前結構心配性な一面もあるよな」
「あ?初めて言われたぜ。でも、玄武だからかもしれねぇなー。お前、自分のことすぐオサガリにするからよ」
「……おざなり、か」
「だからこれからも、困ったら悩んでないで言ってくれよ。俺にできることはするから」
ニッと笑って朱雀は言う。口の端についたソースを指で拭ってやってそのまま舐めると、言ってた通り美味かった。
本当にデッカくて優しい、すげぇ男だ。
「お前には敵わねぇな」
「あ、あのな玄武。さっきメニュー見た時見つけた……このソフトクリーム乗っかったこれも気になるんだがよ……!」
「……。食欲無いのはどこいったんだ。どうせコレもデカいぞ」
「半分こしよーぜ!」