戯れ 朝の支度は煩わしい。新政府が立ち上がってからというもの、ただでさえ目まぐるしい職務の始まりに、桂小五郎もとい木戸孝允は今日も翻弄されていた。顔を洗って寝間着を脱ぐ。ここまでは宜しい。
しかし、幼少期から慣れ親しんだ旧時代を置いてしまうと、途端に心もとなくなる。シャツ、靴下止めに靴下、ズボン、ズボン吊り、ベスト、ああ全くどうしてこんなにも身に着けるものが多いのだろう。小道具まで揃えると煩わしさは頂点に達する。
「おはよう。どうだ、順調か」
「おはよう。わかるだろう?恥ずかしながらこの体たらくだ」
するりと入り込んだ声に自室の戸口を見れば、苦楽を共にした隠し刀が顔を覗かせていた。昨晩まで同じ褥に入って暴れまわったというのに、方や前途多難、方や完璧に身なりを整えているとはどういうことだろう。思えば情人は、奇兵隊の影響を受けて出会って早々に洋装に切り替えていた。おまけに手先がひどく器用で、小五郎はしばしば髪結いなども手伝ってもらったものである。
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