無自覚な帝幻(下ネタ)勢いよくふすまが開いた時、てっきりゴミを見るような目で見られんじゃねえかと思った。借りたばっかの五万を秒で溶かして泣きついた時とか、怪しいバイトに引っかかっちまった時とかに幻太郎がする――つまり割と見慣れたいつもの顔で「はい出禁♡」つって追い出されるもんだと思ってたから、俺は戸が開いた段階で素早く逃げ出す態勢に入った。つっても、さすがにこの状態じゃ逃げるに逃げらんねえ。のっぴきならない、つうのはまさにこういうことを言うんだろっていうお手本みてーな状況で、俺は実際、ちんぽ片手に涙目になるしかなかった。
でも幻太郎のリアクションは俺の予想の斜め上だった。普通、泊めてやったダチが布団の上でシコってたら何か一言二言くらいの文句は言うだろ?なにやってんだとかきたねーからやめろとか自分ちでやれとか。まあ俺に家はねえから、自分ちでって言われても困んだけどさ。
しらけ切った目とか罵詈雑言は飛んでこなかったが、ほっとしてる場合でもなかった。ちんぽ丸出しの俺を見下ろす幻太郎の目がみるみるうちにキラキッラ光り出して「おや……?おや?おやおやおや?」つってにじり寄ってきた時、俺は軽蔑されて追い出されるのよりもヤバい展開になってきたのを悟った。
そーだよ、幻太郎ってこういうやつじゃん。俺おまえのそういうとこ、まじで嫌だわ。めちゃくちゃおもしろそうなおもちゃみつけたって顔に思わずゾッとして、俺は半ケツのまま必死で後ずさる。
「ちがっ、ちげーんだよこれは!ちげえの、そういうんじゃなくてよ!あーほら!着替え!しようと思ってよ、ちょうど脱いでただけっつうか」
言いながら、何とかパンツを引っ張り上げて履こうとするが、中途半端に反り上がったちんぽが邪魔して全然履けねえ。んだよ、空気読めよバカチンポが。つっても、まあ無理な話なのは当然なんだよな。
そもそもの話、こんなことになっちまったのは、最近野宿ばっかでほとんど抜いてなくて、さっき目ぇ覚めた瞬間からもうバッキバキで、こんなんじゃションベンもできねーじゃん、めんどくさくて気ィすすまねえけどパッパと抜いちまうかーってシコりはじめたからだし、すぐ大人しくなるような状態では全然ない。
俺が起きた時、隣に敷いてあったはずの幻太郎の布団はとっくに片してあったから、いつもみたいに書斎にこもって仕事でもしてんだろ、ならすぐにはこねえよな、と思ったが、それはとんだ見当違いだったってこった。
慌てに慌てる俺をよそに、幻太郎はまだおやおやほうほう言いながら俺の股間のあたりをまじまじ見てやがる。おい、なにしてんだよ、なにするつもりだよ、あんまし俺をからかうなっての、おまえほんとわりークセだぜそれ。俺はどぎまぎしながらしどろもどろに言う。パンツはまだ履けねえ。しょうがないから手で隠すも、収まるわけもなく先っぽが飛び出した。
「……帝統、あなたって」
「いやっ、だからよ、これは」
単なる朝勃ち、セーリゲンショウ、おまえだって男なら分かんだろ?のべつまくなしに並べても、全っ然聞いちゃいねえ。幻太郎は動じる様子もなくごくフツーの調子で「あなたって、自慰とかするんですね?」とか言い出した。
「てっきり五歳児か小五だと思ってたんで、急に若い性欲を見せられて驚いてしまいましたよ。へえ、そうですか、まああなたも一般的な成人男子、それなりにやることやってても不思議ではないですよねえ、へえ、それにしても立派なイチモツをお持ちで……これで方々でブイブイ言わせてるってわけですか、ふふ、くっくっくっ……」
「だあっ、あのなあ、誤解だっての!おまえんちの布団の上で抜こうとしたのは悪かったけどよ、ちげーんだよ、これはほんとたまたまでさ。つうか、セーヨクとかブイブイとか、おまえは俺を何だと思ってんだよ、ンなことキョーミねえよ、だからこんなことになっちまってんだっての」
あ、やべ。なんか余計なことまでいっちまったな。思った瞬間、案の定幻太郎の目が光り「おや、それはいったいどういうことで?」って食いついてきやがった。こいつまじで、俺をイジんのが三度の飯より好きなんじゃねえか?特大の餌を与えちまって時すでに遅し、俺は情けなくうろたえるしかない。
「なあ、とりあえずパンツ履かしてくんねえかな」
「ダメです」
「えっ、なんで!?」
「だって履いたらあなた逃げるでしょう?」
「ううっ、俺がいったい何したって言うんだよぉ」
「おや、人の布団でナニしておいて逃げられると思ってるんですか?」
「ぐうっ」
幻太郎はノリノリで取り調べを始めた。俺は両手でちんぽを隠してうなだれる。幻太郎んちで抜こうとしたのはこれが初犯、いつもはそこらへんの便所で適当に済ますが、それだって溜まりに溜まってどうしようもなくなった時くらいで、もちろんブイブイ(ブイブイってなんだよ)言わせたこともない。
「だってめんどくせーじゃん、一人で抜くのだってダルくなるし汚れるしよ、滅多にやんねーよ。まあ、俺の場合はさ、おまえに言ったらドン引きすっかもしんねーけど、賭場で全ツッパする時とかすげーギリッギリの勝負してる時にこう、アドレナリンびしゃびしゃーって時に一緒にちょっとこう、出ちまったりとか……な、まあ、そういうのもあるしよ」
「へえ、噂には聞きますけど、あるんですねそんなことも。あなたくらいのギャンブラー狂にもなると」
ドン引きどころか興味津々、メモでも取り出すんじゃねえかって勢いで幻太郎は食いつき、俺はその隙にこっそりパンツのゴムを掴み、ケツを持ち上げ、なんとか丸出しを脱した。でも、幻太郎の追及はまだ終わんねーらしい。
「で、今日のおかずはなんだったんです?」
「は?」
「なんか動画でも見てたんですか?」
「え、あ、おいちょっと待て待て」
言っている間に、布団の横にあった俺のスマホを幻太郎がひったくった。でも液晶を見てすぐに返してきた。そりゃあそうだ、昨日まで野宿してたから充電なんかもう残っちゃない。つうか、見ねーよエロ動画なんか。
潔白を証明できたのもつかの間、「じゃあいったい何で抜いたんですか?」と当然の疑問を向けられ、俺は青くなった。いや、焦ることなんかねえよ。スマホと違って頭んなかは見られねーし。
「ね、ねえよ、おかずなんか。生理現象っつったろ?擦ったら出んだって」
「ええ~?本当ですかあ?そんなわけないでしょ~」
「じゃあおまえは何で抜いてんだよ」
「おや、知りたいです?ええとね、小生のお気に入りは……」
「やめろやめろ!別に知りたかねーっての!」
「じゃあ教えなーい♡」
「俺も教えなーい!」
「真似するんじゃない、貴方は罪人ですからね、白状する義務があるんですよ」
「はあ?何の罪だよ」
「そりゃあ公然わいせつ罪に……ふっふ……き、決まってるでしょうが、ふふふっ」
おい、人のちんぽ思い出しながら笑ってんじゃねえよ。しばらくすると幻太郎は揶揄い飽きたのか「とにかく布団での自慰は禁止、ちゃんとそこらへんファブって手洗いしてからこっちきてくださいね」つって出ていった。閉じた襖を5秒眺めてから、俺は勢いよく布団の中に潜り込んだ。
こっええ!こええよ!!!なんなんだよあいつ!!!冷や汗かいてびしょびしょになった体に布団が貼りついてくる。その気持ち悪さよりも何よりも、うるさく脈打つ心臓のほうがずっとヤバい。気づかれたか?いや、あいつは絶対気付いてない。当の俺だって、ほとんど無自覚だったんだから。
襖が開く直前、瞑った瞼の裏にいたのはあいつだった。昨日の晩、隣の布団の上に無防備に転がってる幻太郎の背中からケツのあたりの、触ったらつめたそうなカーブとか、夜の部屋んなかでくっきりみえる白い首の裏とか、規則的に聞こえる小さな息を、どうしてちんぽ握り締めながら反芻したのか、んなこと俺にもわかんねーし、いくら問い詰められたって説明できねえわ。
俺は布団の中でしばらく転げまわった。パンツの中に押し込んだモンはとっくに縮みあがっている。居間の方からは幻太郎のめちゃくちゃ機嫌良さそうな鼻歌が聞こえてきて、俺はもう、盛大に舌打ちするしかなかった。チキショウが!