貴方にも見せたい その日、街には珍しく雪が降った。
深夜中降り続け、翌朝の積雪を予想させた雪は、やはり稀に無い銀世界を築き上げた。
「おー積もったな」
村雨と並んで歩きながら、獅子神は声に出した。
吐く息が白い。
見渡せば、慣れぬ凍る路面におっかなびっくり、ゆっくりと歩く人々の姿が目に入る。
そういや、村雨は大丈夫か……?
ふと心配になり、隣に目をやる。
「おい、むらさ……」
「っ!?」
声を掛けるのと、凍った路面に足を取られた村雨が、姿勢を崩すのは同時だった。
「あ、おい」
咄嗟に腕を掴む。
そのまま彼が姿勢を持ち直したことを確認し、一息。
「ダイジョーブか?」
「………ああ」
すまん、ありがとう、と。思いの外素直な言葉は小さく返ってきた。
掴んでいた腕を離せば、足元を睨みつけるように慎重に歩を進めている。
ギャンブルの時に賭場で相手を睨みつけるような。或いは手術台の上で手元を注視する時のような(後半は獅子神の想像でしかないが)その目付きに、思わず、フハッと小さく笑いが漏れた。
なにか? と不機嫌に睨みつけてくるのに、悪ぃ、と笑う。
「村雨センセイも、凍った雪の相手は慣れてねーんだな」
別にバカにしたわけじゃねーよ、と。その真意は彼にも伝わったようで。
足元を真剣に睨みつけたまま、横目でチラ、と、獅子神を見てくる目に怒りは無かった。
「そういうあなたは、随分危なげがないな」
鍛えているからか? と、続いた問いに、一瞬の沈黙。
ほんの少しの躊躇いの後、それもあるけどな、と続けた。
「オレの生まれたトコは、もっと凄い雪だったからさ」
「そうなのか」
「ああ。だから、こんな雪は大したことねーな」
子どもの頃育ってきた街の白さを、村雨に聞かせた。
冬が来るたび、真っ白に染まる街。
春になるまで、いつまでも何処までも終わらないその光景。
「なるほど。それは……」
見てみたいものだな。
細やかに続けられた言葉に。
「じゃぁ、行こうぜ。今度」
自然と。
本当に自然と、そう応えた自分がいた。
「あ」
そして。応えた自分に、獅子神は驚く。
あの、決して楽しかったとは言えない子ども時代を過ごした街に、行こうだなんて。
今まで、一度たりとも思ったことも考えたこともなかったのに。
むしろ、二度と近づきたくない場所ですらあるはずなのに。
「……」
村雨もそれを察したのか、こちらを見る横目に、気遣うような色を乗せてきた。
その、あまりに人間らしい眼差しと、見つめ合うこと数秒。
「ああ」
頷き。
自然と、隣を歩く男の腕を取った。
おい、という抗議は聞き流し。
「お前に、あの、雪が積もった真っ白な世界を見て欲しいんだよ」
おっかなびっくり歩く医者の腕を引き、先に立って歩く。
振り返って、戸惑いを見せるその顔に笑った。
「オレが、お前に見せてーんだ」