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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.1.14。🦁さんの故郷捏造あり。雪の日のししさめ。

    ##雪三部作

    貴方にも見せたい その日、街には珍しく雪が降った。
     深夜中降り続け、翌朝の積雪を予想させた雪は、やはり稀に無い銀世界を築き上げた。
    「おー積もったな」
     村雨と並んで歩きながら、獅子神は声に出した。
     吐く息が白い。
     見渡せば、慣れぬ凍る路面におっかなびっくり、ゆっくりと歩く人々の姿が目に入る。
     そういや、村雨は大丈夫か……?
     ふと心配になり、隣に目をやる。
    「おい、むらさ……」
    「っ!?」
     声を掛けるのと、凍った路面に足を取られた村雨が、姿勢を崩すのは同時だった。
    「あ、おい」
     咄嗟に腕を掴む。
     そのまま彼が姿勢を持ち直したことを確認し、一息。
    「ダイジョーブか?」
    「………ああ」
     すまん、ありがとう、と。思いの外素直な言葉は小さく返ってきた。
     掴んでいた腕を離せば、足元を睨みつけるように慎重に歩を進めている。
     ギャンブルの時に賭場で相手を睨みつけるような。或いは手術台の上で手元を注視する時のような(後半は獅子神の想像でしかないが)その目付きに、思わず、フハッと小さく笑いが漏れた。
     なにか? と不機嫌に睨みつけてくるのに、悪ぃ、と笑う。
    「村雨センセイも、凍った雪の相手は慣れてねーんだな」
     別にバカにしたわけじゃねーよ、と。その真意は彼にも伝わったようで。
     足元を真剣に睨みつけたまま、横目でチラ、と、獅子神を見てくる目に怒りは無かった。
    「そういうあなたは、随分危なげがないな」
     鍛えているからか? と、続いた問いに、一瞬の沈黙。
     ほんの少しの躊躇いの後、それもあるけどな、と続けた。
    「オレの生まれたトコは、もっと凄い雪だったからさ」
    「そうなのか」
    「ああ。だから、こんな雪は大したことねーな」
     子どもの頃育ってきた街の白さを、村雨に聞かせた。
     冬が来るたび、真っ白に染まる街。
     春になるまで、いつまでも何処までも終わらないその光景。
    「なるほど。それは……」
     見てみたいものだな。
     細やかに続けられた言葉に。
    「じゃぁ、行こうぜ。今度」
     自然と。
     本当に自然と、そう応えた自分がいた。
    「あ」
     そして。応えた自分に、獅子神は驚く。
     あの、決して楽しかったとは言えない子ども時代を過ごした街に、行こうだなんて。
     今まで、一度たりとも思ったことも考えたこともなかったのに。
     むしろ、二度と近づきたくない場所ですらあるはずなのに。
    「……」
     村雨もそれを察したのか、こちらを見る横目に、気遣うような色を乗せてきた。
     その、あまりに人間らしい眼差しと、見つめ合うこと数秒。
    「ああ」
     頷き。
     自然と、隣を歩く男の腕を取った。
     おい、という抗議は聞き流し。
    「お前に、あの、雪が積もった真っ白な世界を見て欲しいんだよ」
     おっかなびっくり歩く医者の腕を引き、先に立って歩く。
     振り返って、戸惑いを見せるその顔に笑った。
    「オレが、お前に見せてーんだ」
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