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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.1.30。前作[初恋]続き

    初乞 初めてのキスは、ひどく、柔らかなものだった。
     ほんの、一瞬。
     細やかに唇が触れたと思った次の瞬間には、微かな温度を残し離れていた。
     この男らしい、と思う。
     想いを伝えられ、それに応えた。
     私も貴方が好きだ。
     それ以外、言葉は要らない筈だった。
     それなのに、である。
     この男はまだどこかで気を遣い……全身で怯えている。
     今ここにある宝物が、決して壊れたりしないように。
    「……ふむ」
     考える暇は少しも無かった。
     一歩、近付く。
     両腕を伸ばし、獅子神のシャツの襟首を掴んだ。
     そのまま、引き寄せ……気が付かれないようにほんの少し踵を浮かせる。
     至近距離で戸惑いに揺れる、青灰色の瞳。
     金の睫毛が瞬くのを見ながら、唇を合わせた。
    「!!」
     びくん、と、震えが襟首を掴んだ手に伝わる。
     舌で唇を叩けば、薄く開く。躊躇なく、その隙間から舌を捩じ込む。
     口の奥で臆病に引っ込んでいたソレを探し出し、絡めとる。
     獅子神の腕が背に回される。ジャケットの背中をギュッと掴まれる感触。
     そう。ずっと、これが欲しかった。
     この、誠実で、ひどく臆病で、けれど努力を惜しまない、世話好きな、人当たりよく振る舞うこの男を、ずっと自分のモノにしたかったのだ。
     だから。この程度では、全然足りない。
    「……マヌケめ♡」
     手と唇を離し、笑う。
     ああ、きっと。
     今の自分は、誰にも見せたことのない顔をしている筈だ。
    「その程度で、私が満足できると想うのか」

     ****

     触れる程度のキスをした。
     自分には、これが精一杯。そんな想いのキスだった。
     けれど次の瞬間には、襟首を掴まれ引き寄せられ、熱い唇を押し付けられていた。
    「!!」
     唇を割られ、隙を突いて侵入した舌に舌を絡め取られた。
     そのまま丹念に口の中を愛撫される。
     震える手で、村雨のジャケットの背を掻き抱く。
     私のものだ、と。言われた気がした。
    「……ッ」
     唇が離れる。
     酸素を求めて喘ぐように息を吸えば、村雨は、今まで見たことのない顔で笑っていた。
     そう……そんな風にも笑えるのかと。誰も想像できないような、柔らかな笑い方。
     その顔で、マヌケ、と囁かれるのだ。
    「その程度で、私が満足できると想うのか」
     続けられた言葉に。体温が、一気に上がった気がした。
     満足? とんでもない。まだ、させていない。してもいない。
     こんな程度で、今までの、ずっと積もり続けていた想いが伝わって堪るものか。
    「……村雨」
     名前を呼ぶ。
     金縁眼鏡の奥の、暗赤色の目をすがるように見つめ返す。
    「………オレ…………」
     熱い吐息と共に、囁く声で続ける。
    「……お前、を…………抱きたいんだ…………」
     オレは、お前のものだけど。
     本当はオレの方が、お前を欲しくて堪らないのに。
     それを、ほんの少しでも想い知ればいい。
     叩きつけるように願いながら、もう一度、腕の中の自分に比べて華奢な身体を抱きしめた。


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