あなただけ見つめるーS「獅子神」
「……ん?」
呼びかけた私の目の前にあるのは、生クリームといちごを乗せたパンケーキ。
獅子神が一枚一枚丁寧に焼いた物に、私がトッピングを施した。
イチゴと生クリーム。ケーキの定番と言えばやはりこれだ。
時間にすればほんの数秒。見つめ合う獅子神が、私の意図に考えを巡らせているのが分かる。
そうだな、紅茶ではない。あなたが用意したティーポットには、まだ充分に残っている。ついでに言えば、温めたミルクも足りている。
敢えて考えたことは言葉にせずに。フォークとナイフを手に取り、改めてパンケーキに目を下ろせば、それを追いかける獅子神の視線を感じる。
俗に『キツネ色』と称される色に焼き上げられたパンケーキにナイフを刺し入れれば、ふんわりとした感触が指先に伝わる。
なるほど。
幼い頃に読んだ、ホットケーキを焼くしろくまの親子の絵本を思い出すな。
皿の上を全て食べ終えたら次は、シンプルにバターとメイプルシロップにしても良いかもしれない。
ス……っとナイフを滑らせて、一口大に切り分ける。いや、これでは小さいか? 私の口ではこれが一口だか……どうも、私は口が小さいらしい(と、獅子神に言われることが折にふれてある)。
……まぁ、構わんか。小は大を兼ねるだろう、この場合は。
ちょうどそう結論付けたタイミングで、すぐ近くに気配を感じる。同じく何らかの結論を出したらしきマシなマヌケが、こちらを見下ろしていた。
切り分けた一切れに、生クリームとイチゴを乗せる。奇跡的なバランスを以てして持ち上げられたそれは……ちょうど、タイミング良く開かれた獅子神の口の中へとおさまった。
「………うまい」
「私がトッピングしたのだから当然だろう」
「パンケーキを焼いたのもそのトッピングを準備したのもオレなんですがね」
よく味わい飲み込む様を眺め、目を細める。『合格だ』。私がそう思ったことは、さずに伝わったのだろう。
どこか困ったように、眉を下げて笑ってみせた。
「礼二くんずるい! 敬一くん! オレのも味見して!」
「獅子神さん、ボクのも食べて~!」
「獅子神くん、愛されし人の子は神からの恩恵を受けられる」
「お前らオレが食事制限してるの知ってるだろ!?」
三者三様。彼ららしくデコレーションされたパンケーキの皿を持つ三人が、騒がしく獅子神を取り囲む。
それに言い返す恋人を三秒ほど見つめてから、パンケーキに視線を戻した。
今度は、私の為に切り分け私の口へ。
甘さを堪能しつつ味わいながら……私の『視線』の半分は、獅子神を見ている。おそらく、それは彼自身も気が付いているだろう。
ああ。そうだな、目を逸らしたことについては……私はそこまで心が狭いわけではないので、怒りはしない。
ただ……後からその何十倍でも、私だけを見つめさせれば良いだけなのだから。