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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.5.19。雨音🦁さん⇨ふぉろわさん☔️先生で書いた話。

    私だけを見つめる「北の空の高い位置がおおぐま座。東の空に見えるのが、うしかい座だ」
    「………なるほどな?」
     夜空を指す村雨の細い指先を追いかけて、星を見つめる。オレの家のルーフバルコニーは、周りに高い建物が無いこともあって、星がよく見える。
     けど、な……村雨が言う『おおぐま座』とか『うしかい座』つーのが、どうもピンと来ねー。
    「……おおぐま座?」
    「ああ。あれだ」
     示す方角を変えた指先を、視線で追う。
     ついでに、少し膝を折り曲げて身を屈める。頬に頬を近付けて、六cm低い位置にある目線に高さを合わせた。
    「……何をしている?」
    「ん? この方がオメーと同じものが見えるかと思って」
     顔を向けて笑って見せれば、同じ高さにある紅い目が、眼鏡の奥でゆっくりと瞬いた。
     コイツ、意外と睫毛長いんだよな……いつもより顔が近いから、陰までよく見える。
    「で? どれがおおぐま座だ?」
    「あれだ」
     空に視線を戻して問い掛ければ、ツツっと指が夜空をなぞる。
     本当に指細ぇし色白いな……
    「あー……」
     せっかくだし、と、真剣に空を睨みつけてみる。けど、なー。いくら見ても……
    「全っっ然、くまに見えねぇ」
    「私にも見えんが」
     は??
    「オメーも見えねぇのかよ!」
    「星座とは、そういうものだ」
     そういうもの……ねぇ?
     オレの不満を感じとったのか、村雨は唇に指先を当てて、しばらく何かを考える様子を見せた。
    「では……」
     すっと。その指先が、またさっきと同じ方向を指す。
    「ドゥーペ、メラク、ファクダ、メグルス、アリオト、ミザール、アルカイド」
    「??」
     呪文か??
    「北斗七星だ」
     あ。
     なるほどな。
    「それなら、分かるかもしんねー」
     村雨の指が示す方向の空をじっと見る。北斗七星。確か、柄杓の形をしてるんだよな。
    「……あ」
     声を上げれば、ちら、と、村雨がこちらを見る。確かに、オレにも見えた。七つの星。
    「わかったようだな」
    「ん。あれが北斗七星か」
    「おおぐま座の腰から尻尾に当たる」
    「いや、それはよくわかんねー」
     クマに見えてねーんだから、尻尾にももちろん見えるワケがねぇ。
    「あとは、そうだな……」
     つ……と、指先が夜空を疾る。
    「北斗七星の端の二つの距離を五倍に伸ばす」
    「ん? お、おう」
    「そこにあるのが……北極星」
     いつも北にある、ていうアレだな。
    「こぐま座のアルファ星。二等星だ」
    「二等星?」
    「目に見える星を明るさ順に一~六に分ける。順に一等星二等星……と呼ぶ」
    「……へぇ」
     なんか、理科の授業みてぇになってきたな。コイツ、『先生』だしな。教師じゃねーけど。
     でも、村雨の声で色々と説明されるの、好きなんだよな。
    「つまり、一等星はすっげぇ明るいんだな」
    「………その理解で構わない」
     まてよ。なんだ、今の間は。
    「一等星は二一個ある。例えばおおいぬ座のシリウス、さそり座のアンタレス……」
     聞いたことある名前が続く。
     ちら、と視線をやれば、夜空と夜景を背負って星を見上げる横顔が、とても綺麗だった。
     オレの……オレだけの、恋人の顔。
     オレだけの、村雨礼二。
    「今見えるのは、そうだな……乙女座の、スピカ」
     また違う方向を、村雨の指が指し示す。けれど、オレはその方向を追わなかった。
     こちらに顔を向け、不思議そうに首を傾げる顔に、顔を近付ける。
    「……獅子神……?」
     さっと、眼鏡を奪い取る。もちろん、取り扱いは丁寧に。
     反射的に目を閉じるのに……その瞼に、口付けた。
    「!?」
     至近距離で見つめれば、目が開く。パチパチと何度も瞬きをするのが可愛くて。
     すぐ近くにある、暗赤色の目が、とても綺麗だと想う。
     オレが知る限り、世界で一番綺麗な、紅い色。
    「オレの、一等星」
     そう言って、笑ってやれば。しばらくの間の後、ふいっと顔を背けられた。
    「……マヌケが」
     そう呟く恋人の表情は、見えないけれど……どんな顔をしているのか、オレには分かるような気がしていた。


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