半分こは1/2じゃなくて「お」
冬の日。買い出しに出た帰り道。不意に、隣を歩く獅子神の足が止まった。半歩ほど遅れ、村雨も倣う。
獅子神の家での、いつもの顔ぶれでの集まり。今日は急遽『第3回タコ焼パーティー』が開催されることが決定した。獅子神が片手に提げた袋からは、調理される前のタコのツルリとした頭が覗いている。
その獅子神が何を見て足を止めたのか。彼の視線を追えば(正確に言えば追う前から)判明した。
ふわり、とした甘い匂いが辺りを漂う。「いしやーきいも」と同じ調子で繰り返す、独特な節の、録音された音声が耳に触れる。
ここ数年は、街中で目する機会は減ったように思う。けれど時々こうして冬になれは出逢うことはあった。
「食べるのか」
「は?あ、いや……」
問いかければ、妙に歯切れの悪い言葉が返る。碧い目の上で、所在なさげに寄る這しい眉。
本当に……この男は分りやすい。
「一つください」
「はいよ」
この男が思い出したであろう幼少期も、こうして困る表情も……今のこの場には、あまり相応しいものではない。
だから。
隣からの「村雨?」という疑問符付きの言葉は聞き流し、紙袋に入った芋を受け取る。冷えた手に、じんわりと温かさが沁みる。
戸惑う獅子神の目の前に、両手で持って芋を付き向ける。不思議そうな顔の前で……力を込めて、芋を割る。紫の皮が割れ、間から黄色い実が露わになり、白い湯気が立ち上る。
「タコ焼きの前だから、2人で一つだ」
言いながら片方を突きつけ、もう片方を口へ運ぶ。
甘い。
「………なるほとな。半分か」
「ああ。タコ焼きが食べられなくなっては、意味が無いだろう」
但し、大きい方は私のものだ。
そう続けてやれば……獅子神は、眉を下げて小さく笑う。
「オメーが、食えなくなることなんて無ぇだろ」
続いた言葉には、いささか反論したくなったがやめておく。
芋を食べた彼は『美味いな』と満足そうな表情をしていた。今は、これでいい。