暁人の表情はくるくるとよく変わる。
そういえばそんなタイプの人間、周りにいなかったな。
凛子は常に切れ気味だし、絵梨花がオレに向ける視線には思春期独特の冷ややかさが含まれている。エドとデイルは言わずもがな。
自分の妻や息子に至ってはすでに記憶の片隅から抜け落ちている。
「どうかした?」
忙しそうに動かしていた手を止め、ちょっといたずらっぽくこちらを見つめてきた暁人と目が合った。
咄嗟に返すべき言葉を探す。
「…いや、何事もないならいいんだ」
視線を逸らした先の時計を見て慌てる。しまった、今日は凛子と待ち合わせだ。遅れたら何を言われるかわからない。「ちゃんと戸締まりしておけよ」それだけ言うと待ち合わせ場所へ向かう地図を頭の中に描き玄関を飛び出す。
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