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    gw_morina

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    #ラウグエ
    laugue

    ラウグエSS221017 WINNER グエル・ジェターク

     電脳掲示板の表示に、群衆のどよめきが渦のように響き渡る。
    「すげえ!予選突破できちゃったじゃん!! グエル、プレイしたことも無いって言ってたのに!」
     醒めない興奮にまかせて巨体で押しつぶすようなハグをしてくる友人に(一瞬潰されるかと身構えたけど、VRのプロフィール設定を軽くしてあるのか重さはなかった)、あはは、なんでだろと返す。
     何でなのか。自分はあのゲームについて、よく知っていた。相手の動き、計器の表示にしたがって、頭の中の、いままで使われないまま眠りこけていた部分が目覚めていく。気がついたら対戦相手の操作するロボが膝をついていた。コロシアムの片隅には折れたブレードアンテナが転がっている。
    「決戦トーナメントに優勝したら、一生遊んで暮らせるぞ。俺にも飯をおごれよ」
    「んなうまく行くわけ無いだろ」
     掛け金1ドルで誰でも参加できる。優勝したら高額の賞金だけでなく大企業での就職も約束されている。一体何のための大会なのか、実は政府と共同でJHMが開発している兵器なんじゃないか、そんな陰謀論めいた憶測が飛び交うほどの賞金額だった。俺が参加したのも当然金が目当てだ。全身に広告を身にまとったままの無課金アバターでVR世界に逃げ込むしか娯楽の無いバラック暮らしから抜け出す方法があるならだれだって飛びつきたいはず、だろ?
     でも、予選決勝の試合会場に立った瞬間、そういういろんなインセンティブは頭から消え失せていた。遠くに俺よりも少し背の低い、線の細い男の人のアバターが立っていて、友人が『あれがゲームの開発者で、企業の御曹司なんだって』と教えてくれた。まあ言われなくても分かったと思う。住民の大部分が広告を掲げて歩くこのVR世界において、彼はそういったものを何一つ身にまとっていなかった。ずいぶんと美しい素体だったが、本人をスキャニングしたものなのだろうか?臙脂のスーツが、褐色の肌に良く映えていた。普通だったら同じフロアに立つことすら許されないような地位にある人間。梯子のずっと上の方で俺たちを消費するブルジョア階級。睨み付けてやるつもりだったのに、そうはできなかった。なぜか目が離せなかった。向こうがこちらを見てくる眼差し、その熱さにびっくりしたからかもしれない。一瞬、タトゥーのように体にまとわりつく広告がすべて消えて、ありのままの自分を見つめられているような気がした。

     フィックスリリース──ゲームオリジナルの奇妙な開始の合図──その声が俺を解放する。

     立会人だと言うわりに、彼は試合の勝ち負けには興味がなく、どちらかと言えば俺が勝つことを確信して居るみたいだった。それは俺も一緒。なんでか、あの目で見られていると次に何をすれば良いのか、指が自然と動いて、思ったとおりの場所に攻撃が当たる。VR世界ですら地べたを歩くことしかできない自分が、友人がカスタムしてくれたマゼンダ色の自機と一緒に自分も舞って空を駆けていく。そんな、懐かしい高揚感が胸を貫いた。
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