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    糸遊文

    テキトーに息してます。

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    糸遊文

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    実は『心象の箱庭』が生まれる前から在った、箱庭と黒猫。

    #一次創作
    Original Creation
    #短篇
    shortStory
    #心象の箱庭
    boxGardenOfMentalImages

    廻る歯車の箱庭カチッ……カチッ……カチッ。

     巨大な二つの歯車が噛み合いながら、ゆっくりと回りながら巡る。歯車が止まること無く廻るから、この奇妙な世界も廻る。ゆっくり、時間を掛けて。

     ――べしゃり。

     灰色の空に半透明な0と1が、迷子になったパズルピースの様に浮かんでいる。小さな黒い塊が、宙から落っこちてきた。背中にゼンマイをくっつけたリスが、小さな螺旋を投げ棄てて飛び退く。もぞもぞ、赤茶の煉瓦の上で小さく身動ぐ黒い塊。
    ぴょこんっ、小さな三角の耳が二つ。不機嫌そうにゆらゆら揺れる逆立った尻尾。アーモンドに似た大きな眼が、忙しなく動く。どうやら、宙から落っこちてきたのは黒い猫らしい。黒猫は丁寧に顔や耳を洗い、辺りを一瞥して澄まし顔で歩き始めた。黒猫が向かう先には、小さくペンギンの様なものが見える。
     黒猫は興味深げにキョロキョロと見渡しながら、赤茶の煉瓦の上を進んで行く。等間隔に並んだガス灯が仄かにオレンジ色に輝き、何処からか灯油とスモッグの匂いが流れてくる。
    「ヴゥーッ」
     突然、濁った音が響く。黒猫は立ち止まり、耳をそばたてる。うねる配管とブリキの板で出来た奇妙な建物の陰に、真ん丸の月が二つ。何かかが潜み、黒猫を威嚇しているようだ。黒猫は躯を低くし、ゆっくりと近づいていく。陰に潜んでいたのは。背中にゼンマイを背負った猫だった。躯は燻んだ真鍮、尖り耳はブリキと真鍮の継ぎ接ぎ。レモンクォーツが填め込まれた眼は、黒猫から視線を離さず輝いている。

    びたんっびたんっ。

     数十本のコードが束になった尻尾が、煉瓦路を鞭のよう叩く。その度に、先っぽの電源プラグがぷらり、揺れて今にも外れそうだ。黒猫の眼は、ぷらぷら揺れる電源プラグに釘付けだった。背後から忍び寄る影に気が付かないで居る。
    「おや?珍しいお客さんだね?」
     柔らかな声と共に黒猫が宙に浮く。煤汚れた匂いと温かな温度が、黒猫を包む。もぞもぞと躯を身動ぎ、顔を見上げる黒猫。声の主は、白衣を纏った眼鏡の青年だった。
    「にゃぁ」
     爪を立てながら降ろせと抗議をするも、彼には全く届いて無い模様。彼は黒猫を片手に抱き、ゼンマイの猫を宥めている。彼に喉を撫でてもらって満足したのか、のっそりと物陰へと溶けていった。
    「さてと。君にはゼンマイが無いし、モータ音もしない」
     黒猫のお腹をそっと撫で上げながら、不思議そうに青年は呟く。擽ったそうに、彼の手から逃れようと藻掻く黒猫。
    「此処の子じゃないし……迷子かな?」
    「なぁー」
     甘えた声を出し、尻尾を彼の腕に巻き付けて彼の問いに返事する。
    「すみませーん!」
     遠くから呼びかける大きな声。
    「はーい、すぐ行きます!」
     彼も大きな声で返す。黒猫は驚いて飛び退る。尻尾がブラシのように逆立っている。彼は少し驚いていたようだが、クスッと小さく笑った。
    「驚かせちゃってごめんね?」
     黒猫はジトッとした眼で彼を見上げる。
    フンッ、小さく鼻息を吐いて黒猫は駆け出した。
     彼の元から去った黒猫は気侭に街を彷徨う。浮かぶ0と1を縫うように飛ぶ、螺旋巻きの鳥達。邪魔そうに黒猫を避けて足早に通り過ぎる人々。黒猫が珍しいのか、奇声を上げて追いかけてくる子供等。
     命からがら逃げ切った先には、ペンギンのモニュメントが鎮座していた。周りには澄み切った水溜まりと、変幻自在に形を変える水柱が遊ぶ。
    黒猫の小さな舌で水を掬ってみると、不思議と冷たく無く美味だった。黒く、つるりとしたペンギンの足元で、一休み。瞼を下ろして、耳を澄ます。

    カチッ……カチッ……カチッ……
    ゴトンッゴトンッ
    ヴヴゥ――ッ
    ぱたん、ぱたたっ、ぱたん。

     様々な音が混じって、賑やかな音楽が響く。心地良い音色の揺り籠に黒猫は微睡み、ゆっくりと意識を手放した。

     おやすみ。
     僕の箱庭、気に入ってくれたかな?

     柔らかな誰かの声を聴いた気がした。
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    糸遊文

    PAST『花瓶と眼』をまるっと書き直そうとしていた跡を発見した。
    花瓶と眼 私はいつも通りに今日一日を終えようとしていた。夕陽が海に沈み、月が淡く照らす夜闇を泳ぐように漂う。歩き慣れたアスファルトの路をお腹が空くような匂いを嗅ぎながら進む。家々から漏れる小さな瞬きを眺めながら、少し寂れた二階建てのアパートの前までやってきた。カンカンカンッと軽快な音を立てながら非常階段を上がり、二階最奥の扉へ。手慣れた様にノブを捻る。小さな軋みを立てながら私を歓迎した。
    「やぁ」
     いつものように狭い玄関に足を踏み入れながら声を掛けるのだが、今日は何やら雰囲気が違う。いつもなら煌々と輝いている電灯は眠っていて、なんとも言えない錆びた鉄のような香りが微かに漂っている。なんの匂いだろうか、首を傾げながら靴を脱ぎ捨て奥へと入る。ゴミ袋や服が乱雑に置いてある小さな部屋。開け放たれた窓から吹き込む風に揺れるカーテンと干しっぱなしの服たち。闇夜を全て暴かんとする満月の光を恐れる様に部屋の隅に身を縮こめる影。私は息を潜め、そっと近付いてみる。影は私に気が付いたのか、勢い良く飛び出し私を押し倒した。ひんやりとした小さな掌が私の首を絞め、石榴の様な紅い瞳が私を射貫く。
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