【リク消化SS】流彩に絡む三井さん 卒業式を週末に控えた火曜日の休み時間。
「おらよ」
「三井先輩って律儀なんですね」
「お前なぁ」
「冗談ですよ。ありがとーございまっす」
「こいつ……」
三井から受け取った小袋を顔の前に掲げて軽口を叩くのはマネージャーの彩子だ。
先月のバレンタインデーに彩子と晴子から部員へ配られたチョコのお返しである。
三年はすでに引退済みだというのに、わずか三人しかいないからとわざわざ用意して、上級生の教室まで持ってきた下級生二人の気持ちが嬉しかった。
「晴子ちゃんにはもう渡したんですか?」
「おう。向こうが赤木に用があってよ。俺も木暮に用があって六組にいたからついでに渡した」
「二人は同じクラスですもんね」
「あいつらも後で何か持ってくるんじゃねーか?」
「楽しみにしとこ」
ところで、と三井はクラスを見渡す。
見つかったら面倒だと身構えていた宮城の姿が見当たらない。その代わり、視線を廊下へ移すと珍しい人物がいた。
「流川」
「うす」
三井と同時に気づいた彩子が声をかけると、流川は軽く頭を下げた。
「お前もお返しか?」
「先輩もすか」
「そうよ。でもあんたは部活があるんだから放課後でも良かったのに。ありがとね」
「彩子、お前両手に花だな」
「三井先輩、そういうところですよ」
「あぁ?」
彩子は呆れているが三井の容姿が良いのは事実だ。そして彩子自身も華やかなので、二人が並ぶと絵になった。
その証拠に周りの二年生、特に女子生徒がチラチラとこちらを見ている──そんなことを流川は思って、らしくねぇかも、と眉間に皺を寄せた。
「ほら流川も呆れてますよ」
「前から思ってたけど、俺は先輩だからな」
「分かってますって」
「うす」
「……」
遅れてバスケ部に入部した三井が、二人が同じ富ヶ丘中の出身だと知ったのはかなり後のことだ。
対人関係が中高で途切れた三井からすると、赤木と木暮、彩子と流川が少しだけ眩しい。
「お前ら仲良いよな」
交友関係も広そうで人好きのする彩子はともかく、少なくとも流川が一番フランクに接しているのは彩子だろうと、三井は思う。
思い出したくもないが、バスケ部を襲撃して喧嘩を買った流川を止めに入ったのは他でもない彩子だった。
ほんの少し昔を振り返ってしんみりしかけた三井だったが、意外にも彩子は頷いてみせた。
「そりゃあ、こんなんでも中学から見てる可愛い後輩ですから!」
そう言って流川の背中を叩く彩子は全くいつも通りで、流川がムッとしながらも反論しない姿だって見慣れたそれだった。
流川としてはいつまでも子供扱いされるのが嫌なのだろう。高一の男なんてそんなものだ。三井は無愛想な後輩をいじらしく感じた。
それからほどなくして隣のクラスから宮城が帰ってきたので、二三言葉を交わし、三井と流川は各階に戻ることにした。
階段で上下に分かれる直前、三井は流川を呼んだ。
「そういや赤木の妹には、渡したのか?」
「お返しすか? 放課後渡すけど」
それが何かと言いたげな流川に、三井は「へぇ」とだけ返した。
「チャイム鳴るんで」
「おう」
──久々に部活に顔を出すか。自分だけだときっと新部長が鬱陶しがるだろうから、赤木と木暮も誘って。
暖かい春の日差しに誘われて、寝てばかりの後輩よろしく三井は欠伸をしながら教室へ戻った。
終