もう何度もキスしている仲なのに、「そっちからキスしてよ」と言われて固まる黒死牟 明日は早いから今夜は駄目です。黒死牟がそう言っているにも関わらず、無惨は黒死牟のパジャマを脱がせようと、しつこく絡んでくる。
「駄目ですって」
「一回だけだから」
そんな可愛い表情で迫られたら「仕方ないですね、一回だけですよ」と言いたくなる黒死牟だが、一回で済まないことは解っているし、一回で終わらせたくないし、でも明日は本当に朝から忙しくて……と頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、手の力が抜け、ついつい無惨のリードを許してしまう。
手首を掴まれ抵抗出来ない状態にされ唇を奪われた。足の間に割り入るように膝を捩じ込まれ、窒息しそうなくらい長いキスに頭がぼんやりしてきた。
唇が離れた瞬間、息継ぎをするように乱れた呼吸を整える。膝でぐりぐりと股間を刺激されているせいで、切ない声が黒死牟から漏れると、無惨は嬉しそうに笑って再び唇を奪う。今度は僅かに開いた口に舌を押し入れ、尖らせた舌先でくすぐるように黒死牟の舌を刺激してくる。混ざり合う唾液が黒死牟の口の端から垂れ、正になし崩しになりそうだったが、珍しく黒死牟が拒絶の意思を示した。
「本当にダメです……」
ハァハァと荒い呼吸で艶やかな頬を赤く染め、唾液で濡れた唇を拭いながらパジャマの襟元を押さえる。もう据え膳にしか見えない無惨は不服そうに頬を膨らませた。
「なら、おやすみのキスをしよう」
「何ですか、それ」
「おやすみのキスをしたら、今夜はもう何もしない」
「本当ですか?」
最初から、この流れで何度も騙され、おやすみどころか朝までコースになっている。信用できない黒死牟は広いベッドの上で無惨の一定の距離を開けている。
「本当だが、私からキスをするとキスだけで終わらなくなりそうだから……お前から私にキスをしてくれないか?」
「は?」
黒死牟は固まった。それは氷のよう、いや、岩のように。
そういえば、何度もキスをしているが自分から無惨にキスをしたことはない。無惨は完全にその気になり、目を閉じて唇を尖らせ、その瞬間を待っている。
長い睫毛が白い頬に影を作り、形の良いM字の唇を尖らせているので男の大好物である「アヒル口」のようになっていて、めちゃくちゃ可愛いのだ。
本当に顔面だけはめちゃくちゃ良いので、思わず見惚れながらも、黒死牟の硬直は未だ解けていない。
「早くしろ」
器用に片目だけ開けて様子を見てきた無惨に小さな声で急かされ、黒死牟は恐る恐る無惨の肩に手を置き、ゆっくりと唇を近付けた瞬間、唇が触れ合う直前で再び硬直し数秒考えた後、ベッドの上で土下座した。
「……自分から、このような美しいお顔にくちづけるなど、ハードルが高すぎます……一回だけ、手合わせの程、宜しくお願い致します」
「よろしい」
にやりと笑い、無惨は勢い良く黒死牟をベッドに押し倒した。
勿論、一回だけで終わるはずもなく、翌日二人は大きな欠伸を何度もしながら疲れた表情で仕事をすることになった。