部下が犬になりまして さて。社会的地位の高い人間が犬になるという奇病の原因は未だ究明されず、またチワワになるのではないかと無惨は戦々恐々だったが、今回ばかりは長が犬化した為に、かなりの不具合が多方面で生じた為、何とか再発防止しようという動きもあり、以来、無惨は犬になっていない。
無惨の気持ちとは正反対に、めちゃくちゃ可愛いチワワだったので非常に残念に思っている黒死牟。似たチワワを飼うことも考えたが、家を留守にしていることが多く、何日も帰れないこともあるのでペットは飼えないと諦めたのだ。もっといっぱい写真に撮っておけば良かったと、スマホの画面を見ては切ない溜息を吐く日々である。
確かに無惨は顔が良いが、あのチワワの面影は全くない。あの大きな潤んだ瞳、丸い額、大きな耳。可愛かったなぁ……と思わずスマホの画面を撫でる。威勢良くキャンキャン吠える気の強さは犬でも人間でも大差ないが、可愛さは雲泥の差である。いくら顔が良くてもチワワのような愛らしさは人間のオッサンにはないのだ。
そんな黒死牟の態度がものすごく不愉快な無惨は人差し指で黒死牟の額を弾いた。
「私だって残念だ。お前が犬になったら、どんな犬種になるのか見たかったのに」
「私がですか?」
自分が犬になるなど想像できない。無惨はじっと考えながら黒死牟の髪をわしゃわしゃと撫で始めた。
「やはり大型犬か……シェパードかな?」
「言われると思いました。それかドーベルマンとかでしょ?」
「うん」
使役犬だよなぁ……と黒死牟は苦笑いしていたが、無惨に頭を撫でられていると、何だかちょっと犬になってみたい気もしてきた。そして、自分が犬になった時のことを想像してみる。
例えば、無惨に害をなす者に噛みついてみたり、威嚇して吠えたり、無惨の傍らに控えて睨みを利かせたり……と考えた時、黒死牟はふと気付いた。そして、その答えは無惨が口にした。
「お前は犬になっても、今と変わらないだろうな。私の忠実なしもべだからな」
「えぇ……」
無惨の手を引き寄せ、手の甲にそっとキスをした。
「忠犬としての役目は敵を排除することだけではありませんよ。添い寝もしますし、愛玩動物としても立派にその役目を果たしてみせます」
「そうだな、私が犬になっていた間、お前のことを可愛がってやれなかったからな。今日は一晩中可愛がってやろう」
黒死牟は長い髪を大型犬の尻尾のように嬉しそうに揺らして、無惨と共に寝室へ入っていった。