月夜月夜に 長雨もようやく終わり、夏の虫が夜を賑わせる頃。
和泉守兼定は一人、庭の見える部屋で月見酒を決め込んでいた。
「―――― 恋し恋しとなく蝉よりも なかぬ蛍が身を焦がす・・・ってな」
機嫌よく笑いながら、池の周りでぽつぽつと光るさまに目を細める。
「うるさい国広は明日の昼までいねぇし・・・今夜はゆっくり飲めるってもんだぜ。
主に感謝だな!」
そして明日は昼まで寝ていようと、楽しい計画につい、頬が緩んだ。
手酌が少し惜しいが、この時のために隠し持っていた美酒に、月の姿を映す。
「三日月の 水の底照る 春の雨・・・って、もう季節はずれか。
あー・・・夏の句はなんだったかな・・・」
前の主が残した句を思い出そうと、彼は庭へと目を向けた。
19000