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    ・花アヲケーキバース
    ・花守くんがフォークでアヲイくんがケーキ
    ・アヲイくん視点
    ・大学生軸

    #ケーキバース
    cakeBirth
    #二次創作小説
    secondaryCreativeFiction

    変化の最中旭がフォークになってしまった。

    いつも通りに学校へ行って、終わってから待ち合わせをして、一緒に買い物に行って。その帰り。
    余所見をしていたせいか、俺は段差に躓いて膝を擦りむいてしまった。いつもならば旭は大袈裟なくらいに慌てふためいて、急いで応急処置をしようとしてくれるのだけど。
    ──旭は、俺の傷口を穴が開くほど見つめていた。

    ケーキとフォークという第二の性別が、この世には存在している。ケーキは先天性、フォークは後天性。捕食者と被捕食者の関係。といっても聞くのはにわかには信じがたいような噂話ばかりで、真実は闇の中だった。人間が人間を食べるなんて、よほどの異常者でなければあり得ないし、どうせ眉唾物の陰謀論の類いだと思っていた。
    けれど。
    目の前にいる「それ」は、黒目が小さくなり、瞳孔が大きく開かれていて、普段のチャーミングな八重歯や犬歯が下唇を食むほど鋭く伸びていて、歯の隙間や鼻の穴から勢い良く空気を漏らしている。
    こんなの、旭じゃない。
    そう思いたい心が僅かに顔を出したけれど、それよりも長年連れ添ってきた記憶が恐怖心を塗り変えた。そうだ、例えどんな姿になっても旭は旭。俺の、大切な家族。
    すぅ、と息を吸う。

    「────────舐める?」

    ヒュッ、と旭の喉から音が漏れた。
    声が震えていたかもしれない。まだ怖いのだろうか。そんなことない。大丈夫だ、受け入れられる。
    「折角だから綺麗にしてほしいな」
    旭の瞳は獣のようにギラギラと鋭く光っていて、一点だけを注視している。呼吸がどんどん浅く、荒くなっていっている。口の端からは涎がボトボト垂れていた。
    懸命に、焼き切れそうな理性で抑えているのだろう。フォークにはあまり詳しくないけれど、なんとなく察することはできた。
    もしこのまま好きにさせてしまえば、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。俺は別にそうなっても構わないけれど、旭が気にするだろうし、何より犯罪者にさせてしまう。
    それだけは避けなくてはならない。
    だから、まずは衝動を上手くコントロールさせなければ。
    「いいよ。──ほら、舐めて」
    「…ッ、は、ァッ…ハーッ…フッ、フゥーッ…」
    「大丈夫だから」
    ぐっと後頭部を引き寄せる。旭の手が、怪我をしていない方の膝に乗る。まるで熱湯だ。
    涎が傷口に落ちてくる。少し染みる。段々と、震える唇が近付いてくる。あともう少し。

    ────パァンッ!

    旭は自分の頬を平手打ちした。
    一瞬、何が起きたのかわからなかった。
    「あ、旭!?どうしたの!?」
    「はっ、はっ、はーっ………………………………あ」
    「あ?」
    「危なかったあぁ~……!!」
    旭はその場に崩れるように倒れ込んだ。
    「マジで危なかった……!!あとちょっとであおちゃんのこと食べちゃうところでした……!!」
    「旭もしかして、自力で正気に……?」
    がばっと身を起こす。
    「あおちゃん!!」
    「はい!?」
    「なんで自分のこと大事にしないんですか!!あおちゃんのそういうところキライです!!」
    「き、きら……!?」
    ガーンという文字が重たく頭の上にのし掛かるようだった。どうしよう、旭に嫌われてしまった。美味しいものを奢ったら機嫌を直してくれるだろうか。いや、そもそも今旭はフォークになっているから食べ物は味がしな───
    「ああああ~!!」
    「な、なに!?」
    「僕フォークになっちゃいましたぁ~…!!もう美味しいもの食べれない…生きる喜びがないぃ……!!」
    旭が絶望している。ああどうしよう、どうしたら。どうにかして治せないか。
    「だ、大丈夫、俺がなんとかするから」
    「なんとかってどうするんですか!それにもうあおちゃんと一緒にはいられないし…」
    「ど、どうして?俺のこと嫌いだから?なんでもするから許して、旭」
    「そういうことじゃないでしょうが!あおちゃん、ケーキなんですよ!フォークの僕と一緒にいたら危険です!今だってギリギリなのに!っていうか、ああ怪我!応急処置しないと!消毒液と絆創膏…持ってない!薬局いってきます、そこで座って待っててください!」
    一気に捲し立てると、旭は物凄い駆け足で商店街の方に消えていってしまった。追いかけようとしたが、擦り傷が痛むので立ち上がることすら困難だった。……大人しく待っていよう。帰ってきたらちゃんと話をしなければ。


    目が覚めると、そこは寝室だった。
    「あ、起きました?」
    「えっ、なんで…俺寝てた?」
    「もー焦りましたよ、消毒液と絆創膏買って帰ってきたら倒れてるし顔真っ青だし意識ないし。救急車呼ぼうかとすら思いましたよ。ただの貧血でしたけど」
    どうやら旭が家まで運んでくれたらしい。いつの間にか応急処置も済んでいる。
    「ごめんね、旭。色々してもらっちゃって。夕飯は俺が作るから…ってそうだ、作っても食べられないのか。うーん、どうしよう……」
    「そんなこと気にしないでいいですから、安静にしてて。ごはんも適当に胃に詰め込みましたから。……まだお腹すいてるけど」
    旭の口元を見ると、伸びていた犬歯やらはいつも通りのサイズに戻っている。呼吸も正常なリズムだ。一旦は衝動が治まったということだろうか。
    俺は上体を起こすと、旭を手招きしてベッドに腰掛けさせた。
    「旭、お話しよう。これからのことについて」
    「……うん」


    「……つまり、パートナー契約を結んで、定期的に俺を食べれば、他のケーキを襲わずに済むってこと。今回はなんとか我慢できたけど、いつもそう上手くいくはずがないでしょ?だから、供給源を安定させて、旭の衝動性を抑えようって話」
    「……それって、あおちゃんだけを食べるってことですよね」
    「そういうことになるね」
    「あおちゃんに、迷惑かけちゃう」
    「いいんだよ。それがこの契約なんだから」
    俺は精一杯優しい声色で旭を説得した。
    旭を犯罪者にしない、我慢もさせない、おいしい「食事」の楽しみを奪わない。それらを叶えるには、契約するのが一番という結論に至った。
    「ギリギリとはいえ旭は捕食衝動を抑えられるんだから、きっと俺を殺すことにもならないよ。だから、大丈夫」
    旭の目の前で、シャツのボタンを外し、肩を露出させた。
    「ほら、今だってお腹空いてるんでしょう?とりあえず舐めてみたら少しは満たされると思うし、練習にもなると思う。大丈夫、多少痛くしても平気だから」
    「……す」
    「ん?」
    「……そんなの、駄目です」
    絞り出すような、唸るような低音だった。
    「あおちゃん、ただでさえ体弱いのに、膝擦りむいただけで貧血になっちゃうのに、そんなこと、したら、そんな、」
    「旭」
    「あお、ちゃ」
    顔を上げた旭は瞳がギラギラと輝きを放っていて、瞳孔は開いて、あのときのように息を荒くしていた。
    「限界、なんでしょ」
    わかっていた。
    わかりきっていた。旭だってわかってるはず。全部痩せ我慢で、このまま抑え続けることなんて無理だ。
    だって、フォークってそういうものだから。
    本能が訴えている。眉唾なんかじゃない。目の前にいるのは、フォークだと。逃げたい心を隠す今までの温かい記憶、そして、ほんのり漂っている欲。この身を、捧げたい。
    「旭」
    「あおちゃん」
    「お願い。俺と、契約して」
    身を乗り出して、旭の眼前へと肌を晒す。
    旭は困ったように眉尻を下げて、しかし眉根はシワを寄せていて、頬は上気し、熱い息を絶えず歯の隙間から漏らしている。もうひと押しだ。
    「────たべて?」
    旭の瞳孔が、細くなった。
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