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    kusare_meganeki

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    kusare_meganeki

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    酔っ払って喧嘩ふっかけちゃったサンポくんSS
    ジェパサン(付き合ってる)とナタ+ンポ要素ある

    この酒場に寄り付くのは、行きどころを失った者。もしくは自分のようなアウトロー気取りだろうと、サンポは思う。上層部に位置していながら、この酒場は寂れている。ここで酒を飲んでいる人間も、人生に対して陰を歩いている者達ばかりだった。中にはシルバーメインの兵士もちらほらといる。無論、兵服ではなく私服を着ているが。
    壁際にバーテンダーとカウンター、丸いテーブル三つも並べれば、狭い室内。誰かが話しているその声は、否が応でも耳に入るものだ。安酒を一口含みながら、カウンターに座ったサンポはその声に耳を傾けている。下層部の浮浪者たちをかき集め、碌でもない計画を立てている〝らしい〟男の言葉に。
    「下層部はバカばっかりだ。知ってるか?使った包帯を洗って、使い回しているらしい。どうにも、生きている人間は大事だから資材は大事にしたいんだとよ」
    「それでも下層部には宝が眠っているって話なんだろ?」
    「そうだ。造物エンジン……あとカンパニーが置いて行ったらしい資材……なんでもある。だから俺は、下層部の馬鹿どもの中でもさらに馬鹿どもを使ってやるんだ。金さえチラつかせれば、なんでも言うことを聞く貧乏人どもをな」
    その男の身なりを見れば、おそらく建造者の一人かその甘い汁を吸う人間だろうことは分かる。来ている服は立派な者だが、その袖口についたカフスは取れかけている。彼が吸っているタバコは、根本ギリギリだ。余すことなく、そのタバコを味わいたいのだろう。随分と、金持ちにしては持ち物を大事にする。また、彼が飲んでいる酒。それが入ったコップはもう氷が溶け切っていた。その表面には、結露の水滴がびっしりとついている。話が弾んで飲み忘れている訳でもない。たった一杯の酒で、この酒場に長く居着くつもりなのだろう。
    (見栄っ張りの貧乏人、ですか)
    それが、サンポの出した結論だった。見た目だけで相手を威嚇し、中身はしょうもない人間。愉悦において、相手にしていてもつまらないものだ。そんな三下の役者が、まさか下層部を馬鹿にしているなど片腹痛い。星核の封印が解け、大守護者が代わり、上層と下層の隔てが無くなってようやく互いの世界を知るきっかけに至った。いまだ、そこまでだ。この十年以上、地上の下で生きるためにもがいていた人の存在を考えることもない、地上の人間の傲慢が滲み出ていると思う。
    その考えを流すように、サンポは酒を一気に飲み干した。そしてカウンターにグラスを置く。優しく置いたつもりだったが、思いの外鈍い音が耳に届いた。バーテンダーが苦い顔をしている。
    「すいません、もう一杯頂けますか?」
    申し訳ないと苦笑いを浮かべつつ、サンポはグラスをバーテンダーに差し出した。
    「どうせシルバーメインの奴らも気が付かない。ここにいる兵士たちがまさか、チクるなんてこともないだろう。な?」
    その男は言うと、グラスを掲げる。口々にもちろんと声が上がり、グラスが天井に向けられた。その中で、サンポだけは反応しない。何せ、シルバーメインでもなんでもないからだ。興味がない風を装い、バーテンダーに差し出された酒を一口煽る。
    「戌衛官は大守護者に尻尾を振ることで必死だしな。なんとかカンパニー相手に頭を下げることしかしてないだろ?禁区の危機もまだ残ってるし……」
    この酒場に集う者達は、逸れだ。自分たちはどこにも属さず、アウトローを気取る役者達。愚者ですらないと思うのは、サンポ自身が愚者だからか‪──‬ともかく、心を平常で抑えて酒を飲む。ふわりと意識が浮いているのは、安酒で酔っ払っているからだ。
    「下層部の……なんだ、地炎?も寄せ集めだろ。どうにでもなる。金に困っているのなら、金を握らせれば黙るだろうしな」
    深呼吸だ。サンポは深く息を吸い、吐く。平常心。
    「戌衛官は上に褒められることに必死だ。本当に下にいる奴らに目線などくれん。ランドゥーがなんだか知らんが、どうせ権力に溺れた唯の……」
    平常‪──‬。
    「井の中の蛙、大海を知らず……ですねぇ。下層部のことも戌衛官のことも、何も知らないくせに大口を叩けるのは才能でしょうか」
    不意に漏れた言葉は、酒場の中に響き渡った。誰もが口をつぐみ、散歩に視線をむけている。あの男は、真顔だ。そして、彼だけが口を開く。
    「今の言葉、誰に言った?」
    「ご自身に向けられていると思っているのなら、貴方の中に何かあるのでは?」
    男の言葉に疑問系で返し、サンポは笑う。平常心と言い聞かせていた己は、飲み干した酒と共にどこかへ流れて行ってしまった。その代わり、湧いて出たのは沸々とした怒りだ。
    下層部がどれだけ苦労し、苦しみながら今日まで生き抜いてきたのかを知らず‪──‬。
    ランドゥーを、ベロブルグを背負うあの姉弟が、どれだけ葛藤と使命の狭間で悩みながら壁となり続けてきたのか‪──‬。
    それを知らない人間が、余程大層な口を叩くものだ。本来ならば冷静とリスクの天秤で、全てを押し殺せるはず‪──‬しかし、今のサンポを支配している感情は。
    「どうやら、狭い世界で生きてきたようで。その経験だけで他者を愚弄するなんて、愚か者と呼ぶのも躊躇われます。本当の愚者に失礼なんでね、あはは!」
    「詐欺商人が偉そうに言うじゃないか」
    「あれ、僕のこと知ってるんですか?うれしいなぁ、サインでもしましょうか」
    「このベロブルグでお前を知らない人間の方が少ないさ。そうだろ、サンポ・コースキ」
    「さぁどうでしょう」
    わざとらしく肩をすくめて、サンポは手を振る。男へ挑発的な視線を向けて、ウィンクの一つをくれてやった。
    「僕は知り合う人は愛しい隣人であり、愛すべき友であると思っていますが……貴方はどうやら違うようだ」
    「俺が誰か知っていて?」
    「知っていますよ。金もないくせに見栄っ張りで、言葉だけが達者の臆病者でしょう?」
    そう言って、散歩は隣に置いてある椅子を蹴り飛ばした。下から上へ、椅子は飛び跳ねて壁を凹ませ床を転がる。
    「その上、救いようのない馬鹿!他者をこき下ろしてご自身をでかく見せることしか出来ない矮小者!ここにいる全員、そうですよねぇ!?」
    高らかに叫ぶサンポの顔面に、液体がかかる。キツく香るアルコールに、男が飲んでいた酒だろうことはすぐに分かった。頬を伝うそれを舌で舐め、サンポは薄く笑う。
    「手袋の代わり……そう取ってよろしいですね?」
    男のみならず、バーテンダー以外の人間全員を敵に回している‪──‬そのことを自覚しながら、サンポは席を立った。残った酒を飲み干し、グラスを床に叩きつける。
    それが、大乱闘開始の合図だった。



    「酒に飲んでも飲まれるな、と言うけれど……正しく、今の君に必要な言葉ね」
    消毒液に浸した脱脂綿が、額の切り傷に触れる。サンポが痛いと声を上げれば、ナターシャは厳しい表情で首を横に振った。
    「我慢しなさい。自業自得よ、サンポ」
    「…………」
    「顔で訴えてきてもダメよ」
    顔には打撲痕、切り傷、擦り傷。身体にも同じような怪我ばかりだ。酒場の大乱闘で負ったものを、ナターシャの診療所で手当てしてもらっている。
    「大体のことは戌衛官から聞いたけれど……どうして怒ったりしたの。君が怒るようなことではないし、君には何も利益のない喧嘩じゃない」
    決して、サンポ自ら赴いた訳ではない。大乱闘の騒ぎを聞きつけ、駆けつけたジェパードを始めとしたシルバーメインに取り押さえられた結果だった。
    「別に…… 僕も人間ですし、酔っていたし、怒ることだってあります。そもそも、僕があの酒場に行ったのだって下層部で……」
    「その話ももちろん聞いたわ。君がそれを未然に防ぐために、動いてくれていたこともね。それについては感謝してる。ありがとう、サンポ。この治療は、その調査のお礼として頂戴」
    「……はい」
    借りを受けたら直ぐに返す‪──‬サンポの性格をしっかりと理解しているナターシャの提案に、頷くしかなかった。
    彼女の言う通り、確かにらしくないことをした。酔っていたとは言え、理性を飛ばし喧嘩をするなど全くメリットにならない。
    それでも、堪えられないほど怒りが湧いたのだ。だが、一体なぜ?
    「ナターシャさん、サンポの治療は終わっただろうか」
    扉のノック音の後、外から声が聞こえてくる。それは、ジェパードのものだ。
    「もう終わるわ、入ってもらって大丈夫」
    ナターシャの言葉の後に、扉が静かに開く。顔を覗かせたジェパードと目が合ったサンポは、笑顔で小さく手を振った。それに対して、彼の表情は苦々しいものだ。
    「少し彼から話を聞きたいのだが……」
    「構わないわ」
    「なんで僕じゃなくてナターシャに聞くんですか?」
    聞く対象はサンポだろうに‪──‬だがジェパードは気にしていないようで、小さく手を振る程度だった。なんの答えにもなっていない。
    「バーテンダーからある程度の話は聞いている。あの場で捕らえた者たちの企みも……サンポ、お前はそれに加担しようとしたのか?」
    「する訳ないでしょ。そんな夢物語にも満たない悪事、僕が参加する理由もありません」
    「なら、何故酒場にいたんだ」
    「それ、現場でも同じ質問してましたよね。僕がいたのは、たまたまですよ。あそこの酒は安酒だから財布にも優しいし、さっさと酔えるし……何かと便利なんです」
    「なら、犯人たちの計画を聞いたのは偶然ということか?」
    「偶然ですよ。まぁ……酒に酔って、ご迷惑をかけた点に関しては謝りますが」
    サンポは足を組み、両腕を組み、全く謝る態度ではない姿勢だ。それを見て、ジェパードは深いため息を吐く。その隣のナターシャもまた、困ったように首を傾げていた。
    「……何か悪事に加担している訳でないならいい。今回の件は暴行罪に当たるが……不思議と、お前が相対していた者全員に目立った怪我はなかった。あったとしても、転んだ際にできたと思われる擦り傷程度だ。それに対し、お前の怪我は……」
    「酷いでしょ〜、見てくださいよ。この怪我!顔まで狙っちゃって……本当、酷いですよね」
    「君のその怪我は、君が喧嘩を売ったからよね?」
    ナターシャの言葉に、サンポは口を閉ざす。正しくその通りだからだ、被害者ぶったとしても全てのきっかけはサンポの怒りから。
    それも、目の前にいる二人のために怒ったのに、どうして逆に説教されそうになっているのだろうか。
    ‪──‬二人のために?
    元々は下層部と、それからランドゥーに対する侮辱に憤っていたはずだったが。
    「話は分かった。本来なら暴行罪で逮捕するべきだが……今回は、免除してやる」
    「え、なんで」
    「バーテンダーが言っていた。喧嘩を吹っ掛けたのはお前ではない、とな」
    ジェパードの言葉に、サンポは目を丸くする。まさか、そんなはずはない。あのバーテンダーは誰よりも間近で、サンポが椅子を蹴り飛ばした様子を見ていたはずだ。
    「相手が酒をお前にかけた。だから、喧嘩に発展したと聞いている」
    「……そう、ですか」
    確かに、その通りとは言い難い。だが、見ようによっては煽ったサンポに対して、向こうが喧嘩を売ったように見える可能性は確かにあった。
    (それでも、無理があるような……)
    疑問の尽きないサンポを置いて、ジェパードの視線はナターシャに向いている。聞こえてくる話も半分に、この状況に置いてかれていた。
    「それでは、僕はこれで。ナターシャさん、何かあれば直ぐにシルバーメインに知らせてくれ」
    「ええ、分かったわ。ありがとう、戌衛官。……ほら、サンポ。いつまで惚けているの、戌衛官が帰られるわ。ちゃんと、君もお礼を言って」
    ナターシャに肩を叩かれ、サンポは慌てて頭を下げる。
    「ご迷惑をおかけしました」
    「構わない。サンポ、お大事にな」
    咎められるどころか、ご自愛の言葉をもらってしまう。いよいよ笑みを維持することが難しくなり、眉を顰めてしまった。それに対し、ジェパードは珍しく微笑んでいる。
    「これで失礼する」
    その言葉だけを残して、ジェパードは診療所を去っていった。残されたのはナターシャとサンポだけだ。
    「……あのバーテンダーさん、今日君と喧嘩した人たちを疎ましく思っていたみたい」
    「え?」
    「彼らが来なくなるキッカケを、君がくれたことへの感謝じゃないかしら」
    ‪──‬なんだ、それは。そんな理由、まるで。
    「人情ね。君の苦手な」
    ナターシャの言葉に、とうとうサンポは舌打ちを漏らした。嫌悪感を露わにして、頭を抱える。
    そうだ、人情だ。つまり、あの酒場で聞いた言葉に怒りを覚えたのも、一重にナターシャやジェパードへ情を持っていた為。簡単に言えば、友人を馬鹿にされたから怒ったのだ。二人のために、する必要もない喧嘩をして、負う必要のない怪我をしてまで。
    「戌衛官も、きっと君に感謝してると思うわ」
    「しなくていいです、そんなの。虫唾が走る」
    「本当に、君は人情を受け取るのが苦手ね。苦手というか……どう受け取っていいか分からない、といった様子だけれど」
    それ以上は聞きたくないと、サンポは首を横に振る。荒々しく席を立つと、包帯の巻かれた手をナターシャに掴まれた。
    「また明日来なさい。額の傷が少し深いから、経過を見ないと」
    「来て欲しいなら、仕事の一つでも振ってください」
    「リベットタウンの孤児院に残してきたもので、いくつか探してきてほしいものがあるの。詳しい話はまとめて明日するわ。……これでどうかしら」
    「……分かりました」
    まさか、その場で仕事を振られるとは思っていなかった。挙句に、明日来るように仕向けられる。やはり、ナターシャには敵わない。
    彼女の手を優しく振り払い、サンポは診療所の出入り口に手をかける。ふと後ろを振り向けば、ナターシャは優しく微笑んでいた。まるで、息子を見るような母親の顔で。
    「また明日。おすみなさい、サンポ」



    「……いい締めだと思ったんですけど、なんで貴方がここにいるんですか」
    「個人的に、君に言いたいことがあったからだが?」
    上層部へ続く螺旋階段‪──‬炉心の前に立っていたのは、ジェパードだった。彼の背後に、扉がある。これから隠れ家へ帰って寝ようと思っていたのに、とんだ邪魔者もいたものだ。
    「僕と貴方で、話すことってあります?」
    「君が、メリットもないのに喧嘩を買うわけがない」
    会話の跳躍だ。問いかけに対して、返ってきたのは答えでもない。強制的に次の話題に移ったことに、サンポは苦々しく顔を歪めた。
    「聞けば、僕や下層部を愚弄していたらしいじゃないか。……君、もしかしてそれで怒って喧嘩を買ったのか?」
    「あまりに自意識過剰ですね。下層部だけって可能性は考えなかったんですか?」
    「戌衛官と言った……バーテンダーからそう聞いている」
    それを聞いて、サンポは下唇を噛み締める。あのバーテンダー、何でもかんでもペラペラと喋りすぎじゃないのか!
    「万人の理解を得るのは難しい。それが誰であれ……共に命を張った部下でさえ、な」
    (……そうか、そういえばシルバーメインの平兵士も何人かいたな)
    その事を思い出し、ジェパードの態度に理解を示した。なんと、この男も少しは傷心しているらしい。
    「僕のために怒ってくれてありがとう、サンポ。言いたいのはこれだけだ」
    「……貴方、誰にお礼言ってるか分かってます?」
    「サンポ・コースキだが」
    指名手配の男にお礼をいう執行者がどこにいる。いや、目の前にいた。鳥肌の立った腕を手で摩り、サンポはジェパードを押し退ける。
    「言いたいことはそれだけですか?」
    「ああ、あともう一つ」
    まだあるのかとジェパードの顔を見る。それと同時、彼の手がサンポの頬に触れた。
    「無理はしないでくれ。愛しい君が怪我をしたと聞いただけで、僕の内心が掻き乱される」
    「………………恋人としての側面を出すのは結構ですが、外でやるなと言ってますよね。誰かに見られたらどうするんですか」
    「誰も見ていない。気配もない」
    「そういう問題じゃないんですよ。僕と貴方の立場を弁えなさい、ジェパード」
    言葉尻強く咎めれば、目の前の恋人はまるで子犬のようにしょげてしまった。その顔を見てしまうと、なぜか強く出られない。
    「ともかく、外では控えてください。明日……は無理だから、明後日。貴方の家に行きますよ」
    「分かった、待っている」
    サンポの言葉を受けて、まるでありもしない尻尾が左右に忙しなく揺れている‪──‬ジェパードの頷きに、そんな幻覚を見た。いよいよもって、末期かもしれない。
    「ほら、貴方はケーブルカーで帰りなさい。僕は炉心を通って行きますから」
    「うん……おやすみ、サンポ」
    「はいはい、おやすみなさい」
    挨拶を交わし、去り行くジェパードの背を見送りながらサンポは深く息を吐く。
    「これだから人情は嫌いなんだ」
    いらないリスクを背負い、金にもならない言葉を貰い‪──‬ジェパードとの恋愛関係だって、結局は彼の押しに負けた結果であり、情の一つだ。
    「……調子が狂う」
    額の傷がずきりと痛む。それはまるで戒めのようであり、サンポにとっては苦々しい記憶となった。
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