Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kusare_meganeki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💴
    POIPOI 43

    kusare_meganeki

    ☆quiet follow

    ナタンポのSS 耳が弱いンポ。悪巧みを見通すナタ。

    ナタンポ 随分と真剣な顔をしている。珍しい光景に、ナターシャは思わずその足を止めた。
     ファイトクラブ付近の道、その一本横に細い道にサンポがいる。その視線は、手元の紙に向けられていた。
    「サンポ、何をしているの」
     そこから声をかけてみる。しかし、反応はない。随分と集中している様だった。
     本来なら、放っておいてさっさと診療所に帰るところだが‪──‬なんとなく、今のサンポは放っておいてはいけない。そんな予感に駆られたナターシャは、足音と気配を殺して彼に近づいた。すぐ右横に立っても、サンポはナターシャには気がつかない。
     彼の手元の紙に目を向けた。ファイトクラブの対戦表だ。‪空白が目立つ、まだ仮組みの段階らしい。
     視線をサンポの横顔に向ける。垂れ目は伏せがちに、考える彼の手は顎に添えられていた。時折、その指が下唇に触れる。考え込む時のサンポの癖だ。
     さて、どう声をかけようか‪──‬考え、目についたのはサンポの右耳だった。特殊な形のピアスが目立つそこは、無防備に晒されている。
     ふと子供じみた悪戯を思い出した。背伸びをすれば、届くだろう。そう考えて、ナターシャはサンポの肩に軽く触れ‪──‬ふぅ、とその右耳に吐息を吹きかけた。
    「ぁ、ひっ!?」
     びくりと身体を震わせ、甲高い声を上げたサンポがその場に崩れ落ちる。混乱に視線を彷徨わせた彼は、やがてナターシャを捉えた。耳から顔まで、真っ赤に染まり顔をぱくぱくとさせている。
    「な、ななナターシャ!?」
    「……ごめんなさい、サンポ。そんなに耳が弱いとは思わなくて」
    「え、あの、僕に何かご用……いや、なんで耳を……」
    「呼び掛けたのに、君が気が付かないから。魔が刺してしまって」
     その説明に納得したかしてないのか、困惑の表情を浮かべるサンポは立ち上がる。その手から、紙がひらりと落ちた。
    「あっ」
     それを拾い上げたのはナターシャだ。サンポに見せるように振り、問いかける。
    「……それで、君は一体何の悪巧みをしていたの?」
    「悪巧みなんてそんなぁ……ただ僕は、皆さんのご期待に応えたくて色々と……」
    「ふぅん?」
    「ああ、その顔は信用していませんね……? うう、悲しいです」
    「その程度、私に通じないわ」
     ナターシャの言葉に、サンポは困ったように笑った。赤面はとっくに引いている。ようやく、元の調子を取り戻した様だった。
    「詳しい話は、診療所で聞きましょうか?」
    「はは……いやぁ、お手柔らかに」



    「そうだ、サンポ。私がちょっかいを出すまで、全然反応しなかったわね」
    「え? ああ……いやまぁ、警戒をしていなかった……いや、貴女だったから警戒をする必要もなかった、と言いますか」
    「要領を得ないわね」
    「はは。ま、ナターシャが僕に何かしらの危害を加えることはないだろうな、と」
     診療所内に入り、裏部屋。扉を閉め、質問を投げかけたナターシャはサンポの解答に僅かに言葉を詰まらせた。
     全幅の信頼まではいかないだろうが、それでも彼の懐に潜りこめている事実を受け止める。
    「そう。……まぁ、この話は置いておきましょう」
    「え、置いとくんですか? もう少し話しましょうよ」
    「いいえ。私が気になっているのは、これのことよ」
     そう言って、ナターシャはサンポに紙を見せる。ファイトクラブの対戦表だ。
    「これと睨めっこして、何をしようとしていたの?」
    「あー……ほら、まぁ。ちょっとした夢の対戦表を、ね?」
    「夢の対戦表?」
     サンポは曖昧に笑っていた。夢と聞いて、ナターシャは思考を回す。最近のファイトクラブの状況を思い出す。ルカの連勝で、盛り上がっているのをルカ自身から聞いていた。
    (夢……。夢の対戦表……本来ならあり得ない……)
     あり得ない‪──‬つまり、この下層部だけでは実現しない。
    「まさかサンポ。君、ジェパード戌衛官とルカをぶつけようとしてるわね?」
    「……えへ」
     思わずため息が出た。確かに、それは夢の対戦表だろう。しかしそれを実現するということは、サンポがジェパードを騙してファイトクラブの土俵に立たせるということだ。まずその時点で……。
    「どうかと思うわ」
    「なんで、良いじゃないですか。夢の対戦表ですしルカも自分と同じ……いや、もしかしたらそれ以上に強い相手と戦えるかもしれないんですよ? それは、彼にとっては光栄なことでしょう。あれだけ強い相手を求めてるんですから!」
    「そう考えるなら、ファイトクラブである必要はないでしょう」
    「え〜……だって、そうしないと稼げないですし……」
    「もう……」
    「でも、ナターシャも見たくないですか? 裂界生物を砕く鋼の拳、下層部を守る鉄の拳の対決!」
    「私、荒々しいことは嫌いなの。知っているでしょう?」
     はっきりと言えば、サンポは困り顔になる。分かっていて言ったのだろう、ナターシャは2度目のため息を吐いた。
    「やめておきなさい。そんなことをして、2人から痛いことをされても治療しないわよ」
    「それは酷いです!」
    「自業自得よ、サンポ。それに、ルカにあまり無茶をさせないで。彼自身、弁えているけど変に焚き付けたら大変よ。それこそ、また大怪我をして帰ってくるかもしれないし……」
    「僕のことは治療しないのに、ルカさんのことは気にかけるんですね」
    「それはそうよ。君と彼は違うもの」
     ナターシャの言葉に、サンポは何も言わなかった。一瞬、彼から感じる気配が変わる。
    「……拗ねた?」
    「拗ねてませんよ。そんなことで拗ねるわけないですよ子供じゃないですし」
    「あらそう?」
    「そうです」
    「……サンポ。君、嘘をつく時に矢継ぎ早に言葉を言う癖があるの、気がついているかしら」
     そう言われ、サンポがその口を手で抑えた。その様子にナターシャはにこりと笑う。それを見て、彼はその表情から笑みを消した。嫌そうな顔で、騙しましたねと呟く。
    「騙される方が悪いわ。君もそう思うでしょ?」
    「……まぁ」
    「でも、私は君にしかできない仕事を任せているのよ」
    「信頼はしてないけど?」
    「違う。信用はしてない。だけど、信頼はしているわ‪──‬心優しい、下層部の商人さん」
     そう言って柔らかく笑うナターシャに、サンポはため息を吐いて頭を掻いた。その手が顔を覆い、それが外れた時にはいつも通りの表情のサンポがいた。
    「あっははぁ、そう言っていただけて光栄ですよ。ナターシャ」
    「ふふ。……そうだわ、耳掃除してあげましょうか?」
    「今の会話の流れの何処でその発想が?」
    「いえ、呼び掛けても気が付かないのなら、耳垢が溜まっているかもしれないから。耳鼻科も専門よ」
     棚から耳かきとピンセットを取り出して、ナターシャが笑う。その表情に、サンポがその言葉が本気だと悟った。
     いやまさか、そんなことを彼女にやらせるわけには。というか、されたところで自分が耐えられるかどうか。耳が弱いのを知っていて、言ってるのだろう。タチが悪いなんてレベルじゃない。
    「え、いや……あはは……遠慮しておきます」
     曖昧に笑って、サンポはナターシャの横をすり抜けて裏部屋から逃げ出した。その背中を見送って、ナターシャは息を吐く。
    「まぁ……悪巧みはやめたでしょう。あの様子なら、別の方向で考えそうだけど……」
     ファイトクラブで戌衛官とルカを戦わせるのなんて、シルバーメインがなんて言うか。しかし、それも一旦は阻止したのだ。これでいいだろう。
     それはそれとして、サンポが耳が弱いのは初めて知った。これは今後、彼を抑制する上で有用な手札になるかもしれない。
     あの時聞いたサンポの甲高い声を思い出したナターシャは、1人で笑っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😊💕🌋🇱🇴🇻🇪💞👏🙏☺☺❤❤❤👏👏👏👏👍🙏🙏☺💞💞👏👏☺💖☺👏👏👏👏💯💯😭😭👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works