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    mumi888mmm

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    10巻のおまけ漫画を読んでからしていた妄想。

    年上らしさを見せたい村雨さんの話(ししさめ前提で黎明+真経津さん)「オイ、どうするんだよコレ」
     叶のトレードマークとも言えるパーカーを着て律儀にフードまでかぶっている獅子神が、手にしたケーキを見ながら村雨に問う。販売されているものと遜色ない出来のそのケーキにおける主役と言っても良いであろう苺はたった二個しかのっておらず、何とも寂しい光景だ。
     何事においても計画が頓挫するというのはままあることだが、その理由や原因が明確であるのならば今後のためにも話をしておかなければならない。ここで今後のことを考える甘さと優しさがある男であるがためにそれを見抜かれて苺を豪快に食べられてしまったのだとは、獅子神は分かっていないのである。
     問われた村雨は、一体何を愚かなことを聞いているのだこのマヌケ、と言葉にせずとも伝わってくるような露骨な表情を浮かべた。獅子神が一瞬眉を寄せるも、ひとまずそれをテーブルに置く。そのまま椅子に座ろうとして、しかし自分が食べるササミを持ってくるために再びキッチンへ向かった。
    「どうするも何も、彼らが食べるだろう」
     ハンバーガーを食べる手を止めて真経津と叶を見た村雨が、獅子神に当然のように言った。
    「え? いいの?」
    「オレ達の分なのか?」
     途端に目を輝かせる真経津と叶。村雨が一つ頷く。
    「当然だ。そのために二つ残しておいた」
    「ありがとう、村雨さん!」
    「じゃあもらうな、レイジ君!」
    「ああ」
     そのやり取りはさながら優しい兄と純粋に喜ぶ弟達、といった様子である。二人は今まで食べていたものを置いて、早速苺だけを口に放り込んだ。ケーキを食す際に苺をはじめと最後のどちらに食べるかというのはしばしば話題にあがりがちだが、まさかそのどちらでもなく、他のものを食べている合間とは。それにしても成人した大人が苺一つでこんなに喜ぶものなのか、それとも単に友人からもらったということへの嬉しさなのか。大体叶は「食べちゃダメだぞ」と最初に念を押していたというのに、実際食べたことについては何も思わないのだろうか。まあ友人に甘い性格なのか、などと獅子神は少々戸惑いつつササミを盛った皿を持って戻ってきたのだが、村雨の何故か満足げ且つ得意気な表情に気付くと呆れた顔をした。
    「いや、オメーが食ったからこうなったのに何ちょっと良いことした、みたいな顔してんだよ」
    「私は寛容な年上だからな」
    「本当に寛容な年上は自分でそんなこと言わねえし、ケーキにのせるための苺を腹いっぱい食ったりもしねえだろ」
     獅子神が村雨のそばの椅子に座る。
     ふんだんに使用するつもりだった苺は、大半がとうに村雨の腹の中。良いものを選んだのだ、さぞ美味かっただろう。獅子神が目を離した短時間で食べていたのだから、全く油断も隙もない。
     必要最低限の栄養が摂れればいい、食事をする時間など無駄だ、と言い放っても不思議ではないような見た目をしていながら村雨はよく食べる。二十九歳とは思えぬほどに。華奢ではないとはいえ比較的細い体のどこに入っているのか、獅子神はそれをいつも不思議に思っていた。
    「まさか知らないのか? 終わり良ければ全て良し、と言うだろう」
    「これを良い結果として処理出来るのがさすがだよ」
    「二人のあの顔を見てもそんなことが言えるのか?」
     さすが村雨礼二、と皮肉を向けたところでそんなことで動じる男ではない。獅子神は示された先を見ると、二人とも再びドーナツやお菓子を手に取っていた。苺でさっぱりしたからまた甘いものがいいよね、そうだな、と実に楽しそうだ。
    「……まあオメーらが楽しいならいいんだが」
     村雨の言う通り、二人は苺が一つずつしかなかったことへの不満など少しも抱いていないらしい。本人達が良いと言うのに言い募るのも妙な話であるため、獅子神はそれ以上は何も言わず、ササミを口に運んだ。
    「しかしよくそれで足りるな、あなた」
    「お前はよくそんなに入るよな」
     確かにはたから見れば、獅子神の方が食べるように映るだろう。そうではないことを知るのは、きっと今この場にいる人間だけだ。獅子神は斜め下を向いて一瞬黙り込んだあと、そばにあった小皿に数切れのササミを置いて村雨に差し出した。村雨から特に食べたいという意思を感じた訳ではなく、何となくそうしただけだ。そして飲み物を出されたかのような自然さでそれを食べた村雨を見て、餌付けしてる気分になった、とは後の獅子神が語ったことである。
     それから賑やかな時間は過ぎていき、やがてテーブルの上の菓子が綺麗に無くなり、獅子神は空になった皿を片付けるために立ち上がった。
    「楽しかったね、獅子神さん」
    「ああ」
    「ケイイチ君のケーキが一番だったな」
    「そりゃどうも」
     真経津と叶が積み重ねた皿を獅子神に渡してから、今度は二人はソファに座り込んだ。獅子神は彼らを友人であると同時に客人としても捉えていたので、後片付けを手伝わせるという発想が無い。
     初めて獅子神の手料理を食べた際に皆手伝おうとしたが、獅子神が片手をひらひらと振ってリビングへ追い返したのだ。それを知っていて、村雨はあえて獅子神のそばへ行った。もちろん苺を食べた謝罪に向かったのではなく、単なる雑談だ。獅子神もそれは理解しており、一体何を言い出すのだろうかと様子を見る。平素は扱わないであろう食器を丁寧に置く村雨の姿がどこか愉快に映り、獅子神の唇は自然と弧を描いた。調理器具を持たぬ男だ、少なくとも大人になってからこうして食器を片付けるという経験はほとんどしていないだろう。
    「私はあなた達より年上だ」
     そこに至るまでの過程を全て飛ばして、それだけをまず口にする村雨。慣れた獅子神は特に細かく問うようなことはしない。これが仕事関係の話であるのならともかく、あくまで世間話だ。何より、この独特の噛み合わぬ会話に文句を言うくらいならば恋人になどなっていない。
    「そうは思えねえ時もよくあるけどな」
    「それはあなたに責任がある」
    「世話を焼きたくなるような性格のお前にも責任があるんじゃねえの」
     会話を重ねる内に、村雨の言いたいことは形を得てきた。つまるところ村雨としては、今日は何かしら年上らしいところを見せたかったらしい。自身が弟という立場であるからか、思えば村雨には時々そういった様子が見られた。獅子神に対してそのような態度をあまり見せないのは恋人であるが故だ。何も村雨が恋人に甘えたいタイプだというそんな話ではなく、獅子神が年齢など関係なくとにかく恋人を甘やかしたいタイプであり、年上らしく振る舞う隙を村雨に与えないという、ただそれだけの話である。
     その認識が不満だ、という感情が分かりやすく顔に書かれている村雨の背中を押してキッチンを出る。真経津が振り返り、つられるように叶も獅子神達を見た。
     配信、もとい獅子神が作ったケーキや持ち込んだお菓子を食べるパーティーは終了したが、このあと三人が獅子神の家に泊まっていくことは目に見えている。何故ならもう完全にリラックスしているからだ。さあ用事も済んだから帰ろう、という雰囲気は一切ない。むしろのびのびとしながら、次は何をしよう、と考えていることが伝わってくる。
    「獅子神、夜は肉料理を希望する」
    「今散々食ったのにもう次の飯の話かよ、お前」
    「オレはケイイチ君の作ったものなら何でも食べるからな」
    「ボクも!」
    「はいはい」
     何でも、と言った数秒後にやっぱりあれが食べたいこれが食べたいと飛んでくる希望。村雨は今夜の食卓に肉が並ぶことを疑いもしていない澄ました顔で、どこが年上なんだよ、と獅子神は茶化したくなったがその言葉を飲み込む。と、そこで獅子神は思いついた。年上らしさを見せたいのだろう、それなら食べたいと言ったものを書き取る役を担ってもらえばいい、と。そして獅子神は、お前らせめて順番に言えよ、と声をかけてから村雨に目配せする。さあ、ここでまとめ役を買って出て年下二人からの感謝を集めろ、とばかりに。
     村雨は口を開いた。
    「夜は肉料理を希望する」
     普段と何ら変わらぬ、聞き間違えることなど有り得ない正しい発声で再度発された要望。獅子神が目を瞬かせる。訪れる一瞬の沈黙。
    「何でそうなるんだよ!」
     伝わらなかったのか、はたまた伝わったが余計なお世話だという意思表示なのか。余計なお世話とまでは思っておらずとも、村雨のことだ。獅子神の思考を読み取れないはずがないのだから、食欲が勝ったと見るべきだろう。とにもかくにも、獅子神の年上を立てる努力は徒労に帰す。二人と揃って同じことを繰り返す村雨への全力の指摘は、真経津と叶の笑い声と混ざって広い室内に賑やかに響いたのだった。
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