夜。
天上に月が煌々と輝く、音の無い時間。
ゆっくりと、ゆったりと。特別な心臓の音を聴く。
胸に耳を当て、来ては引いていく海のさざめきのような、遥か遠くの星が煌めくような音を。
とくん。
とくん、とくん、とくん。
一定のリズム刻むそれ生きている証。奇跡のようで自分にもある当たり前の音。
とくん、とくん。
この音をずっと聴いていたい。叶うなら、夢の中まで。
「グレッグ、寝て良いよ」
「でも……」
「大丈夫」
柔らかい、暖かい声が耳に馴染んでいく。
呼吸をすれば、私の中にも染み込んでしまった匂いが肺に充満する。煙草の煙とは違う、甘いような、ひどく落ち着く、彼の香りが。
何度目かの呼吸にひたりひたりと夢が迎えに来て、意識の輪郭をぼかしていった。
「おやすみグレッグ、また明日」
大きな手にさらさらと髪を撫でられて心地良さに浸る。
「ろー、じゃ」
「ん?」
「……——」
口から零れた告白は、果たして届いただろうか。
「……私も」
グレッグが好きだよ。
意識を手放す間際、夢に溶けて届いた言葉に小さく笑った。