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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    モデルgr氏×ハウスキーパーaoちゃんの現パロ続きです。

    Home Sweet Home 2話/グルアオ2.

    「はあ〜、疲れた〜」
    「はーい、ちょうどお茶入れたからアオイも飲んでー」

    今日の仕事が終わって事務所に戻った後、休憩室に行くとペパー先輩とネモ先輩が先にくつろいでいた。
    彼女から冷たいお茶を受け取ると、椅子に座って大きく伸びをする。

    「お疲れちゃん。で、どうだ?あのお客様のとこは?」
    「んー、基本的にスルーされてるし、まだあの人のお部屋の掃除させてもらえてない…」
    「おーおー、警戒心マックスだな」
    「たまにいるよねー。ハウスキーパーに対して高圧的な人」
    「高圧的って訳じゃないけど…ただ私が存在してないみたいに振る舞われていて、…まだ信用してもらえてないみたい」


    二人は会社先輩だけど年は近いから敬語はしなくていいと言ってくれたので、お言葉に甘えて仕事中以外だと砕けた口調でしゃべったり、こうやって相談にものってもらっている。
    あの日仕事を済ませて社長に今日あったことを報告すれば、社長もまさか家主に話が通じていないとは思ってなかったみたいで、慌てて先方に再度確認の電話をしていた。
    その様子を見ながらじっと待機していると、このまま契約は続行で仕事内容も変更はなしということで落ち着いた。

    まさかの事態に周りからも大変だったねと慰めてもらったけれど、その日の私はとにかくグルーシャ様からの信頼を勝ち取ろうと燃えていた。
    そしてあのファーストコンタクトから一ヶ月近く経った今も、私はあのマンションで一生懸命掃除と料理をこなしている。
    週三日お邪魔しているけれど、実際に彼と顔を合わせるのは一日に数分あるかどうか。


    帰ってきたらお帰りなさいと声をかけたり、部屋から出てきたら挨拶をするけれど、返ってくるのは冷ややかな目線だけ。
    グルーシャ様の自室だけは絶対に入れてもらえないし、様々な料理を作っても次に来た時に複数の空になったタッパーだけがシンクの中に置かれていて、食べた形跡も全くない。
    もしかしたら捨てられたのかなと生ごみ用のゴミ箱を覗いてみたけれどどこにもないから、私の料理が一体どう処理されているのかも検討もつかない。
    フォークもスプーンも使わずに食べたとも思えないし、あれだけの量をたった一日程度で食べ尽くすとも思えなくて…。
    そんな状況だからこそ、本当に私がここで仕事をしてもいいのか不安になる。

    こんな風にとにかく冷たい態度を取られ続けているので、担当当初はやる気に満ちていた私でも流石にちょっとへこんだ。

    人の役に立ちたくて仕事をしているのに、お客様からはそこまで必要とされていない事実。
    いてもいなくてもどうでもいいという、無関心な姿勢。
    二週間前にそんな状況が耐えきれなくなって事務所で泣きながら二人に相談したら、サワロ先輩と担当を入れ替えるかどうかという話まで出たけれど、それはそれで彼に負けた気がして悔しかったからもう少し頑張らせてほしいとお願いした。

    それからはどれだけ辛いと思っても泣かないようにしている。
    芸能界などには気難しい人は多いと先輩達から聞いているし、ここでめげてしまったらどこのお宅でもきっとやっていけない。
    これは仕事だから、どんな人が相手でもきちんと仕事をしなくちゃと毎日自分に言い聞かせている。



    それまでは本当に辛かったけれど、最近一つ良いことに気づいてからちょっと気が楽になったのだ。
    今日も働いたなーと思いながら自宅で歯磨きをしていると、チャットアプリ経由で実家から猫の写真が送られてきた。
    お気に入りの段ボールの中で毛繕いをする一匹の猫、名前はニャオハ 性別はオス。
    中学生の時 学校からの帰り道でカラスに襲われていたのを助けて以降、実家で飼っている。
    葉っぱまみれの状態で家にやってきた、私の可愛い可愛いニャオハ。
    家族みんなメロメロ状態だけど、当のニャオハからの態度は大分素っ気ない。
    基本的にひとりでゆっくりのんびり過ごしていてあまり撫でさせてはもらえないけれど、おやつがほしい時に限って甘えた声で擦り寄ってくれる。
    上手く利用されているだけだと頭の中ではわかっているけれど、それがとっても可愛くて仕方なくて。
    私にとってかけがえのない家族の一員。

    そんなニャオハの可愛い写真を見ながら癒されていると、唐突にニャオハと彼が重なった。

    あのツンツンとした態度。心を許すまで警戒するあの感じ、猫と似てない?
    そうだ、これからはグルーシャ様のことを猫だと思おう。
    彼の冷たさを猫の普段の性格と一緒だと思えば、ストレスだって減るんじゃないかな。
    だって猫なんだもん、塩対応でも仕方ないよね!

    案外良いアイディアかもしれない。
    グルーシャ様は猫、グルーシャ様は猫…と頭の中で考えていると、なんだかロシアンブルーに見えてきたぞ。

    「これならやっていけそう!」

    次の日、派遣先に向かう前のペパー先輩にそのことを伝えたら、可哀想にとジュースを奢ってもらえた。

    「オレも新人ちゃんだった時もそうだったから気持ちはわかるけどよ、ほどほどにしとけよ」

    先輩は微妙な表情を浮かべた後、まあいつかオマエもわかる時がくると呟くとそのまま出かけてしまった。
    若干その反応が腑に落ちなかったけど、相手を猫だと思いこむ作戦の効果は抜群だったみたいで、グルーシャ様から空気みたいに扱われても平気だった。
    うちのニャオハも猫じゃらしで遊ぼうと私がハイテンションで誘っても思いっきり無視されたり、前足を顔に向けられたりと 馴れ合いは完全拒否の姿勢を取られたことが何度もある。
    猫はね、懐いてくれるまで時間がかかる場合もあるからね。
    冷たくされたからって、いちいち傷ついてたら飼い主なんて務まらないよ。
    …あれ、なんだかズレてるし 結構失礼だったりするのかな?
    まあ、とにかくそう思っていることを、相手には絶対伝わらないようにしよう。


    と、こんな感じで、私は心を強く持ちながら日々の仕事に取り組んでいる。
    周りからは空元気じゃないかと心配されているけど、決してそんなのじゃない。
    でも、早く独り立ちして他のお客様の対応もできるようになりたいのと、あの氷のように冷たい彼から必要としてもらいたいから、いろいろ必死だったのは事実だった。

    「あ、サワロ先輩お疲れ様です!新しいニャオハの写真を実家から送ってもらえたので見てもらえますかー」

    温かいお茶を飲みながらこれまでのことを思い出していると、少しお疲れ気味なサワロ先輩が帰って来たので、リフレッシュしてもらおうとスマホを見せる準備をした。




    それからまた一週間が経った頃、朝からグルーシャ様のお宅に訪問をして掃除をしている時だった。
    奥の方からバタバタと忙しない足音が聞こえてきたからなんだろうと耳を傾けていると、ボサボサ頭のグルーシャ様が飛び出してきた。
    いつもは氷像のように体温を感じさせない無表情か仏頂面なのに、今日は珍しくそれは崩していて非常に焦っているようだった。

    「どうかしましたか?」

    あまりの様子に心配して声をかけたけれど、私の方にちらりと視線を向けてはすぐに逸らされる。

    「あの、もし何か困っていることがあれば…」
    「悪いけど、今あんたの相手してる暇はないから」

    久しぶりに声を聞いたかと思えば 出てきたのは拒絶の言葉。
    ピシャリと跳ね返されて一瞬怯むけど、寝起きだから機嫌悪いのかなって思うようにした。
    たまにそんな人いるし。

    とりあえずそのままモップ掛けを再開する傍ら、彼はスマホを取り出してはタップを繰り返す。

    「はぁ…、最悪。タクシー近くにないとか」

    もう一度グルーシャ様を見ると片手で目元部分を押さえながら立っていて、本当にどうしようかと困っているようだった。
    明らかにさっき起きた様子に、時間を気にしながら タクシーが見つからないと呟く声。
    もしかして…。

    「寝坊、しちゃったんですか?」

    キン、と私達の間の温度が瞬時に何度か下がった気がする。
    …ああ、寝坊しちゃったんですね。
    図星で何も言えない彼を見ながら、私は一つの提案を投げかける。

    「送迎もハウスキーパーが対応できる業務のひとつなので、私が目的地まで送りましょうか?」

    この私の言葉に彼は一瞬目を見開き少し考えてから気まずそうな表情を浮かべると、静かに お願い…と返事が返ってきた。

    やった!初めて頼ってもらえた!
    それが嬉しくて、笑顔で了承する。

    「もちろんです!出かける準備ができたら教えてくださいね」

    またふいと視線を逸らされて洗面所のところへと行ってしまったけれど、今は切羽詰まってる様子だし仕方ないよね。
    グルーシャ様の準備が終わるまでキリのいいところまで仕事を進めていると、十五分後くらいに身なりを整えた状態で戻ってきた。

    「行くよ」
    「あれ、朝ご飯は…?」
    「いらない。もう時間ないから早く」

    そんな朝食を抜いて仕事に行くなんて…!
    どれだけ時間がなくても三食きっちり食べる派の私は衝撃を受けつつも、そんなの健康に悪いと思ったから私物を入れている鞄から栄養補給ゼリーを取るとグルーシャ様に差し出した。
    家事って結構肉体労働的なことをする内容のものもあるから、仕事の合間お腹すいた時用に準備していた。
    あと三つくらい持ってきてるし、カロリー的にも食事制限がありそうなモデルさんが食べてもきっと大丈夫なはず。

    「これ、移動中に食べてくださいね!何も食べないと元気出ませんし。
    あ、未開封なので安心してください」

    食べかけじゃないことを強調しても、なかなか手に取ってくれないから無理矢理渡すと車の鍵と自分の鞄を持って駐車場に向かった。

    「初心者マークついてるけど、あんたいつ免許取ったの?」
    「二十歳の時に取りましたけど、本格的に運転し始めたのは半年前からです!」

    大分前に免許自体は取っていたけれど、両親に甘えて就職先が決まるまで運転なんてそこまでしてこなかった。
    だからこそ パモパモホームから内定もらってからは、派遣先へは社有車で移動すると聞いていたからちょくちょく自分で運転するようにしたし、入社後 私の運転スキルを見た社長によって先輩達と一緒に練習もたくさんした。
    お陰様で特に緊張せずに公道を走れるようになったから、心配ご無用です!と胸を張ると 疑わしげな顔で見られる。

    「…やっぱりなんとかしてタクシー捕まえてくる」
    「いやいやいや、時間ないんですよね?出発しましょう!」

    何故か逃げようとするグルーシャ様をなんとか助手席に座らせると目的地の住所を聞き、カーナビに入力した。
    よーっしと気合を入れて駐車場から出るため右折のウィンカーを出そうとした時だった。

    突然光り始めるヘッドライト。

    「あれ?…あ そうか、間違えた」
    「ちょっとこんな時にふざけるのやめてくれない?」
    「そんなことしてませんけど!?」

    隣を見たらシートベルトをつけるだけじゃなくて、アシストグリップを両手で握りしめながら座るグルーシャ様がいて、彼といい練習に付き合ってもらった先輩達といい なんでみんなそんな座り方をするんだろう。
    本当に不思議。




    時間もないからと車をかっ飛ばして目的地のスタジオに向かえば、なんとかギリギリ間に合った。
    そこの駐車場で車を停めたいけれど、まだそれにはかなり時間がかかってしまうから先に降りてもらうよう言う。
    あとは駐車場内でなんとかUターンさせてから帰ろう。
    今は私だけだからいくら時間かかっても大丈夫だし。

    「あの、もし帰りも送迎が必要でしたらこちらに連絡してください」
    「え、いらない」

    ドアを開けて外に出ようとしていたグルーシャ様に、念のため仕事用の連絡先が記載されてる私の名刺を差し出したけど、あっけなく撃沈した。
    …帰りも任せてもらえると思ったんだけどな。

    まだまだ必要とされていないとしょんぼりしていれば、彼がくるりと振り返る。

    「…送ってくれてありがとう。運転は酷かったけど、助かった」

    そう言い残してから車のドアが閉められると、彼は走って建物の中に入っていった。
    投げかけられた言葉が頭の中で響き渡る。

    ありがとう?
    ありがとう。
    ありがとう…!

    今グルーシャ様からありがとうって言ってもらえた!?

    「やったー!!」

    ハンドルから両手を離しながら思いっきり歓喜の声をあげる。
    それから思っていた通り、Uターンには時間がかかったし、到着後マンションの駐車場でバックで入ろうとしたけれどハンドルの切り替えがなってよくわからなくて 隣の宅配業者の車にぶつかりかけたけれど、私の足取りはとても軽くてスキップしたい気分だった。

    だってあんなにも冷たい態度取られていた人から、初めて感謝の言葉を伝えてもらえたんだ。
    それが嬉しくて。

    「やっぱりグルーシャ様は猫ちゃんだー」

    残りの仕事も脅威のスピードで終わらせてしまった。


    続く
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    chikiho_s

    PASTTwitterに上げたバレンタインとホワイトデーの連作。
    プレゼントは死ぬほど貰うけど、自分からあげるなんて無いだろうから悩み悶えていればいい
    ココアの件はフォロワーさんのリクエストで。グランブルマウンテン(砂糖たんまり)でもいいね。可愛いね。

    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19706108
    氷の貴公子とチョコレイト今年もこの日がやってきた。一年の中でも憂鬱な日。バレンタインだ。

    ジムの建物内を埋め尽くす勢いでチョコレートやプレゼントが届く。言うまでもなく全部ぼく宛て。わざわざ雪山の山頂にあるジムまで届けにやってくる人もいる。多分明日は本部に届けられた分がやってくる。正直、意味がわからない。
    この日だけ特別に一階のエントランスに設置されるプレゼントボックスは何度回収しても溢れていて、業務に支障が出るレベル。下手にぼくが表に出ようものならパニックが起きて大惨事になるから、貰ったチョコレートを消費しながら上のフロアにある自室に篭もる。ほとぼりが冷めたらプレゼントの山を仕分けして、日持ちしない物から皆で頂いて、残りは皆で手分けして持ち帰る。それでも裁ききれないからポケモン達に食べさせたり、建物の裏にある箱を冷蔵庫代わりにして保管する。これは雪山の小さな特権。
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