まだこの気持ちを分類したくない(お題:お世話・雪解け/グルアオ)くしゅんと、可愛らしい音によって意識が覚醒する。
閉じていた目を開ければ、隣で眠っているアオイの姿が目に入った。
なんでこの子が寝ているんだ?と一瞬考えたけれど、直ぐにさっきまで彼女とピクニックをしていたことを思い出す。
今日は午前中ジムリーダー会議に参加して、午後から彼女とテーブルシティ郊外で落ち合うと一緒にサンドイッチを食べながら、仲良く遊ぶポケモン達を二人で眺めていた。
この日の予定のため前日は夜遅くまで仕事をしていたから軽くあくびをしていると、それを見た彼女がビニールシートを敷き始め 横になろうと誘ってきたんだった。
初めは軽く断ったけれど、シートの上に腰掛けた彼女を見てそれじゃあと隣に座った。
そこからポツポツとアオイと話をしていたはずだけれど、どこかのタイミングでお互い寝てしまっていたようだった。
上半身だけを起こし やけに静かな周りを見渡すと、ぼくとアオイのポケモン達も眠っていた。
正確に言うと、ぼくのツンベアーとチルタリス以外は。
あの二匹は何かあった時のために、周りを見張ってくれているようだった。
後でおやつをあげようと考えていれば、また隣から小さなくしゃみが聞こえた。
アオイは眠ったまま小さく丸まり、少し震えている。
暖かいとは言え、半袖半ズボンの制服姿で風が吹く野外で寝ているから、体が冷えたのかもしれない。
風邪を引かせないためにも、自分が着ていたパーカーを脱いで彼女にそっと被せた。
それでもちょっと足りないかもと考えたぼくは、手を上げてチルタリスを呼ぶとふわふわの羽をアオイの体の上にのせるよう指示をした。
…まあ、これで少しは温かくなるんじゃない。
それでも震えているようなら、ちゃんと起こそうと思う。
シート越しに地べたで寝そべっていた体は少し固くなっていて、ほぐすためにも軽く伸びをした。
爽やかな風が吹いて、ぼくの髪が揺れる。
どこかから飛んできた葉っぱがアオイの頭についたから、起こさないようそっと除ける。
そこからこの子の顔を眺めていると、普段とは印象が違うように感じた。
服装も、サイドにある三つ編みヘアーも普段と何も変わらないのに。
でも、何かが違う。
むむと考えていると、ああいつもの茶色の瞳と豊かな表情が閉じられているからだと理解する。
会った時は神妙な顔をしていたかと思えば、大声で騒ぎ立て、そしてサンドイッチを作りつつ愛情を込めるためと言いながら真剣な顔で変なモーションを加えていた。
それを指摘した時なんて、顔を赤らめながら照れていた。
ころころと目まぐるしく変わる彼女の表情は見ていて楽しいし、次はどんな顔を見せてくれるのかちょっとわくわくしていた。
普段のアオイを見ていたら、手持ちのアルクジラをよく思い出す。
あの一匹も手持ちの中では随一 表情豊かで非常に人懐っこい。
楽しい時はニコニコと笑い、好きなおやつを食べ尽くしてしまうとしょんぼりして、ぼくが少しでも歩けば短い足でよたよたと一生懸命ついてくるあのポケモンを。
実際にナッペ山ジムでポケモンバトルをした後、アオイはぼくの前に来ては勝負の感想を興奮気味に話しかけてくることがよくあった。
それが甘えて擦り寄ってくるぼくのアルクジラの姿とそっくりで。
…そんな可愛い姿をもっと見たくて、ぼくはわざとバトルが終わった後もその場から動かずに彼女が駆け寄ってくるのを待っている。
昨日だってなんとなく今日午後から会えるかもと話をすれば、心底嬉しそうにピクニックに誘ってきた。
普段ならさっさと帰ってゆっくり休みたいと思うのに、なぜかアオイからの誘いは断れなかった。
今日以外でも、彼女が何かしたいと言えば精一杯叶えてあげたいと思ってしまう。
…なんでこの子だけには、こうやって世話を焼きたくなるんだろう。
答えを知りたいような、まだ知りたくないような。
とにかく今の関係性がぼくにとっては心地良い。
だから、明確な答えを出さずにしばらくこのままでいたい。
もっとあんたのいろんな表情を見せてよーー
そんなサムい言葉を心の中で呟くと、アオイの柔らかい髪の毛に触れた。
たった一つの動作で、こんなにも心が温かくなる。
ねえ ぼくにどんな技を使ったのか、教えて。
終わり