エスパータイプに憧れて(お題:横顔/グルアオ)『もしもし?まだ起きてる?』
いつからか始まった奇跡みたいな時間。
最初は信じられなくて、夢でも見ているんじゃないかと思っていたけれど、回数を重ねる内に片想いしている相手から、寝る前の少しの間に電話をすることが日常になった。
あえて耳元にスマホロトムを近づけて、話してみる。
だってその方が側にいてくれているかのような、錯覚ができるから。
普段は、物理的に距離を取られてしまうから、この時だけはそう感じさせてほしい。
どきどきする胸を抑えながら、すぐに終わってしまわないよう 今日学校で起こったことを一緒懸命喋る。
大体私ばっかり話してしまうけれど、スピーカーからは迷惑そうな雰囲気は感じないから、大丈夫だと勝手に解釈している。
もっとグルーシャさんとお話ししたい!
けれど、いつも夜の十時を過ぎれば早く寝るよう催促されてしまう。
…子供扱いなんて、されたくないのに。
だけど、八歳も離れていたら難しいのかな。
でも食い下がっても無駄なのはわかっているから、渋々おやすみの挨拶をしようとした時だった。
『そう言えば、来週リーグに行く用事があるんだった。
午前中には終わるから、もしかしたら午後にテーブルシティで会えるかもね』
え、何がなんでも会いたい
多少無理してでも会う
「なら、午後から一緒にピクニックしませんか?
この前お母さんから美味しいレシピを教わったんです!」
どうしても彼に会いたかったから、思い切ってお誘いしてみた。
でも口に出してから、本当に言ってしまって良かったのか気になってしまう。
…もしかして疲れているから早く帰りたいかも。
ピクニックは苦手だったりしないかな。
ジムリーダーの仕事が立て込んでたりとか。
ぐるぐる回る不安をよそに、グルーシャさんはあっさりいいよって言ってくれた。
叫び出したい衝動を抑えて、待ち合わせ場所と時間を伝える。
それで了解も取れたから、今日はそのまま上機嫌で通話を切った。
当日が待ちきれない!
いっぱい材料も買わないとなー。
だった一人の大好きな人の手にかかれば、私の気持ちはプラスにもマイナスにもなってしまうのだ。
☆☆☆☆
ど緊張している中、待ち合わせ場所に現れたのは、いつものもこもこの上着じゃなくて、動きやすそうなパーカー姿のグルーシャさんだった。
普段の髪型とは違うポニーテールで、キャップも被っている。
単刀直入かつストレートに言ってしまえばもう、かっこいいの言葉しかでない。
似合いすぎてもう、心臓が爆発するんじゃないかってレベルで暴れ回っている。
「ごめん、お待たせ」
もこもこ上着にマフラー姿の時はかわいい雰囲気なのに、着る服でこんなにも印象って変わっちゃうんだ。
かっこいいグルーシャさんを目に焼き付けるかのように見ながら、いろんな感想を述べていると、不意に顔を覗き込まれる。
「…アオイ?」
「ひゃあ!」
急に現れた綺麗な顔に、叫び声をあげる。
あまりの大声に、グルーシャさんもびっくりしていた。
「もしかして体調悪い?」
若干心配そうな顔を向けられて、我に返る。
「い、いいえ!めちゃくちゃ元気です!
ちょっとボーっとしてました」
そう慌てて誤魔化せば、それならいいけどと納得してもらえた。
いくらなんでも、あなたに見惚れてましただなんて馬鹿正直に言えないし…。
「そ、そう言えばいつもと格好が違いますね」
「下山すれば暖かいからね。流石にここではあんな厚着しないよ」
ごもっともな返事に、もはや笑うしかない。
ああ、ダメだー。
電話ならちゃんと話せるのに、実物を見たら変なことを言ってしまう。
これ以上お馬鹿なことを言ってしまわないためにも、ピクニックの準備をしますねと断りを入れてからセッティングを始めた。
「ぼくも手伝う」
二人で準備を進めていると、爽やかな風が吹いてきた。
天候は気持ちがいいほど快晴で、絶好のピクニック日和だった。
…昨日まで必死に祈った甲斐があったなー。
草むらにイスを置けば準備完了!
「今ならサンドイッチ作るので、ゆっくりしてくださいねー」
「いや、ぼくも手伝うよ。
ポケモンも多いし、大変でしょ」
優しい言葉を言ってくれたけれど、さっきまで会議だったんだし、ここはお任せくださいと休んでもらうことにしてもらった。
何かあったら言ってねと言葉を残すと、少し離れてグルーシャさんは手持ちポケモンをボールから出した。
私も同じく遊んでおいでと送り出した。
みんな仲良く遊んでいる間、私はサンドイッチ作りに励む。
今回は量が多いからせっせと作っていると、草むらの上で座るグルーシャさんと、彼に甘えるチルタリスの姿が目に映った。
いつものマフラーをしていないから、ダイレクトに彼の表情が見れる。
とっても嬉しそうで、見たことない顔で柔らかく笑いながら相手をしていた。
そんな横顔を見て、ふとあのチルタリスになりたいと心の底から思った。
彼のポケモンだったら、私にもあんな顔を向けてくれるのかな。
いいなー。
パンにのせる具材に向けて伸ばしていた手を止める。
両手を胸の前まで持ってくると、わきわきと指を動かしながら念じた。
…あの横顔が、私の方に向けますように。
さあさあ、私に。
さながら さいみんじゅつを放つスリーパーのように。
なんかこう、都合よく目覚めよ!
私のサイコパワー!!
優しい笑顔を横からじゃなくて、正面から見たいんです。
さあさあ…!
「…あんた、さっきから何してんの」
呆れた声にふと我に返る。
精一杯の念を送っていた相手は、怪訝な顔でこっちを見ていた。
欲しかった表情とちがーう…じゃなくて!
「ななな、なんでもないです!
あの、家庭科の先生が料理には愛情が必要と言ってたので…」
好きな人に見られた恥ずかしさやらなんやらで、必死に言い訳をした。
私、側から見たらとってもおかしい子じゃない!?
「ふふ、何それ。おっかしー」
慌てる私をよそに、グルーシャさんは堪えきれないとばかりに笑い始めた。
それは初めてナッペ山ジムに挑戦し勝利した後、またおいでと言われたときの顔に似ていた。
思わぬ収穫に、顔が熱くなる。
…こんな真似事で笑ってくれるなら、真剣にスリーパーに弟子入りをしようかな。
そんな馬鹿なことを考えながら、私はサンドイッチ作りを再開した。
終わり
お題:横顔
タイトル:エスパータイプに憧れて
グルーシャが用事があってテーブルシティ近くまでくることを知り、思い切ってピクニックに誘う。断られるかと思ったが、了承してもらえて、喜ぶ。
当日、サンドイッチを作っている中、グルーシャが手持ちポケモン達を洗いながら楽しそうにしているのを見て心底羨ましいと感じる。こっちを見ないか念を送っていると、急に振り向かれて驚く。何しているのか聞かれるが、なんとか誤魔化す。グルーシャも耳を赤ていたが、気づかない。
☆☆☆☆
『もしもし?まだ起きてる?』
いつからか始まった奇跡みたいな時間。
最初は信じられなくて、夢でも見ているんじゃないかと思っていたけれど、回数を重ねる内に片想いしている相手から、寝る前の少しの間に電話をすることが日常になった。
あえて耳元にスマホロトムを近づけて、話してみる。
だってその方が側にいてくれているかのように錯覚ができるから。
普段は、物理的に距離を取られてしまうし、この時だけはそう感じさせてほしい。
どきどきする胸を抑えながら、すぐに終わってしまわないよう 今日学校で起こったことを一緒懸命喋る。
大体私ばっかり話してしまうけれど、スピーカーからは迷惑そうな雰囲気は感じないから、大丈夫だと勝手に解釈している。
もっとグルーシャさんとお話ししたい!
けれど、いつも夜の十時を過ぎれば早く寝るよう催促されてしまう。
…子供扱いなんて、されたくないのに。
八歳も離れていたら難しいのかな。
でも食い下がっても無駄なのはわかっているから、渋々おやすみの挨拶をしようとした時だった。
『そう言えば、来週リーグに行く用事があるんだった。
午前中には終わるから、もしかしたら午後にテーブルシティで会えるかもね』
え、何がなんでも会いたい
多少無理してでも会う
「なら、午後から一緒にピクニックしませんか?
この前お母さんから美味しいレシピを教わったんです!」
どうしても彼に会いたかったから、思い切ってお誘いしてみた。
でも口に出してから、本当に言ってしまって良かったのか気になってしまう。
…もしかして疲れているから早く帰りたいかも。
ピクニックは苦手だったりしないかな。
ジムリーダーの仕事が立て込んでたりとか。
ぐるぐる回る不安をよそに、グルーシャさんはあっさりいいよって言ってくれた。
叫び出したい衝動を抑えて、待ち合わせ場所と時間を伝える。
それで了解も取れたから、今日はそのまま上機嫌で通話を切った。
当日が待ちきれない!
いっぱい材料も買わないとなー。
さっきまであった不安なんてなんのその。
るんるん気分でベッドの上で大きく背伸びをする。
だった一人の大好きな人の手にかかれば、私の気持ちはプラスにもマイナスにもなってしまうのだ。
☆☆☆☆
ど緊張している中、待ち合わせ場所に現れたのは、いつものもこもこの上着じゃなくて、動きやすそうなパーカー姿のグルーシャさんだった。
普段の髪型とは違うポニーテールで、キャップも被っている。
単刀直入かつストレートに言ってしまえばもう、かっこいいの言葉しかでない。
似合いすぎてもう、心臓が爆発するんじゃないかってレベルで暴れ回っている。
「ごめん、お待たせ」
もこもこ上着にマフラー姿の時はかわいい雰囲気なのに、着る服でこんなにも印象って変わっちゃうんだ。
かっこいいグルーシャさんを目に焼き付けるかのように見ながら、いろんな感想を述べていると、不意に顔を覗き込まれる。
「…アオイ?」
「ひゃあ!」
急に現れた綺麗な顔に、叫び声をあげる。
あまりの大声に、グルーシャさんもびっくりしていた。
「もしかして体調悪い?」
若干心配そうな顔を向けられて、我に返る。
「い、いいえ!めちゃくちゃ元気です!
ちょっとボーっとしてました」
そう慌てて誤魔化せば、それならいいけどと納得してもらえた。
いくらなんでも、あなたに見惚れてましただなんて馬鹿正直に言えないし…。
「そ、そう言えばいつもと格好が違いますね」
「下山すれば暖かいからね。流石にここではあんな厚着しないよ」
ごもっともな返事に、もはや笑うしかない。
ああ、ダメだー。
電話ならちゃんと話せるのに、実物を見たら変なことを言ってしまう。
これ以上お馬鹿なことを言ってしまわないためにも、ピクニックの準備をしますねと断りを入れてからセッティングを始めた。
「ぼくも手伝う」
二人で準備を進めていると、爽やかな風が吹いてきた。
天候は気持ちがいいほど快晴で、絶好のピクニック日和だった。
…昨日まで必死に祈った甲斐があったなー。
草むらにイスを置けば準備完了!
「今ならサンドイッチ作るので、ゆっくりしてくださいねー」
「いや、ぼくも手伝うよ。
ポケモンも多いし、大変でしょ」
優しい言葉を言ってくれたけれど、さっきまで会議だったんだし、ここはお任せくださいと休んでもらうことにしてもらった。
何かあったら言ってねと言葉を残すと、少し離れてグルーシャさんは手持ちポケモンをボールから出した。
私も同じく遊んでおいでと送り出した。
みんな仲良く遊んでいる間、私はサンドイッチ作りに励む。
今回は量が多いからせっせと作っていると、草むらの上で座るグルーシャさんと、彼に甘えるチルタリスの姿が目に映った。
いつものマフラーをしていないから、ダイレクトに彼の表情が見れる。
とっても嬉しそうで、見たことない顔で柔らかく笑いながら相手をしていた。
そんな横顔を見て、ふとあのチルタリスになりたいと心の底から思った。
彼のポケモンだったら、私にもあんな顔を向けてくれるのかな。
いいなー。
パンにのせる具材に向けて伸ばしていた手を止める。
両手を胸の前まで持ってくると、わきわきと指を動かしながら念じた。
…あの横顔が、私の方に向けますように。
さあさあ、私に。
さながら さいみんじゅつを放つスリーパーのように。
なんかこう、都合よく目覚めよ!
私のサイコパワー!!
優しい笑顔を横からじゃなくて、正面から見たいんです。
さあさあ…!
「…あんた、さっきから何してんの」
呆れた声にふと我に返る。
精一杯の念を送っていた相手は、怪訝な顔でこっちを見ていた。
欲しかった表情とちがーう…じゃなくて!
「ななな、なんでもないです!
あの、家庭科の先生が料理には愛情が必要と言ってたので…」
好きな人に見られた恥ずかしさやらなんやらで、必死に言い訳をした。
私、側から見たらとってもおかしい子じゃない!?
「ふふ、何それ。おっかしー」
慌てる私をよそに、グルーシャさんは堪えきれないとばかりに笑い始めた。
それは初めてナッペ山ジムに挑戦し勝利した後、またおいでと言われたときの顔に似ていた。
思わぬ収穫に、顔が熱くなる。
…こんなに笑ってくれるなら、真剣にスリーパーに弟子入りをしようかな。
そんな馬鹿なことを考えながら、私はサンドイッチ作りを再開した。
終わり