彼女が喜ぶから【前編】
森の中。空気が少し違う。
「なんか桓騎がいるような…」
「ほぉ、俺の気配を読むとはな。リン」
「あ、桓騎。いたの?何の用?」
「まぁ、ちょっとな。近くまで来たから寄ったまでだ。手を出せ」
そう言われてリンは両手の甲をそのままつき出した。
「そっちじゃねえ。手のひらだ」
やさしく握られてひっくり返された手のひらにはズシリとした重さのある石。
あやうく落としそうになるのをあわてて手に力を入れる。
「魔除けだ。持っとけ」
「えー桓騎が手に入れるものって呪いかかってそう…」
「正規の入手ルートから手に入れたやつだから安心しろ」
桓騎の手が離れて出てきたのは…
「これって…かあさまの…」
光玉。
リンの頬に涙が伝う。
「どうして?かあさまがあなたに護衛代として渡した…」
「こうしたほうがお前が喜ぶと思ってな」
ニヤリと不敵な笑いを浮かべた桓騎。
「本来あるべき場所に返しただけだ。礼はいらねえが、どうしてもっていうなら…」
手が伸びてきたのを見ていたリンの身体が勝手に桓騎から遠のく。
「何してる桓騎」
「我呂?」
「おい、こいつに何した」
「ち、ちがうよ我呂。これは嬉し涙だから…」
リンは怒りをあらわにする我呂を慌てて止めにはいる。
「…………チッ俺は忙しい。じゃあな」
「ありがとう桓騎」
リンの言葉に応じるように後ろ手でひらひらと手を振って桓騎は森の奥に消えた。
【後編:我呂視点】書きかけ
桓騎とは古い仲だというのはリンから聞いている。
奴からとても大事にされているのも知っているし、リンもそれほど嫌ってないのも知っている。
ただあいつがリンを泣くほど喜ばせたことが気に食わねえ。それだけだった。
「だーっクソ!」