はぁ、本当にどうしたものか。ヴォックスと付き合って以来とても大事にされているし、彼にはなんの不満もない。無いのだが、こんなにたくさんの愛情を貰っている自分は何か返せているだろうか。いつもヴォックスに言葉を、行動を通して沢山それをもらっている。でも僕は呪術師で他人に感情を返す方法なんて呪いしか知らないのだ。僕には勿体無い量の愛を貰ったって僕はなんにも出来ない。一度考え始めればどんどん暗い方へ思考は進んでゆく。何もできない僕なんかより、キラキラして華やかで可愛い女の子の方が彼にはお似合いなんじゃないか、そんなことまで考えてしまう。嗚呼!そうだ。いっそ、いっそ
「ヴォックスが僕のことを嫌いになったらいいのに」
それは口から出して仕舞えば胸のつっかえた感じもスッと消えていった。
「シュウ、誰が、誰を嫌いになるだって?」
「ヴ…ヴォックス、な、んで」
さっきまで誰もいなかったそこには文字通り、鬼が立っていた。これは完全にキレている。
「私の名前を呼んだのは君だろう。それより、なんであんなことを言ったのか聞かせてもらおうか」
口角は上がっているがどう見ても目が笑ってない。光がない。でも優しい彼にこれをそのまま伝えればきっと傷つける、どうやって逃げようか策略を練る。
「シュウ、逃げ道を探したって無駄だよ。私に無理矢理本音言わされるか、観念して自白するか、好きな方を選ぶといい」
どうやらこの問答はヴォックスが一枚上手らしい、でも、これを話したら、本当に嫌われてしまうかもしれない。さっきまで嫌いになって欲しい、なんて思っていたのに本人が目の前にいるとどうしても嫌われたくない、捨てられたくないという醜悪な感情が溢れてしまう。
「なぁ、シュウ俺はお前が何を言おうとも嫌いになることは無い。もしシュウが本当に心から俺のことが嫌で憎いなら別れてもいい。でもな、俺は自分からお前を手放す気は毛頭ない」
彼がここまで言ってくれるなら、僕もちゃんと、自分のこと言わなきゃ。
「あ、えと、僕、ずっと、不安で」
「ヴォックスは、いっぱい僕のことを愛してくれるのに、なんにも僕は、あげられなくて」
「君に嫌われたら諦められるのにな、って」
……言ってしまった。何を言われるのかとビクビクしていると、返ってきた声はさっきまでの怒った声色ではなくなっていた。
「ふむ、シュウ、俺は君から十分に愛されていると思っているよ」
「え?でも僕」
「シュウは伝えることだけが愛だと思うか?」
「そりゃあそうじゃないの?」
「愛は受け取ってくれる人が居て成り立つんだよ。シュウは私の愛を突っぱねたり、無視したことがあるのか?」
「それは…無い、かも」
「そうだろう。俺は君が渡されたそれを大事そうに抱えてくれているのをちゃんと知っているよ」
ヴォックスが僕ことをよく見て、よく知っていて、上手く表現してあげられないこれに気づいてくれていた。そっか僕って人のことを愛せたんだ。そう理解するとポタポタと温かい涙が流れだした。おいで、と彼が開いた両腕に体を寄せれば彼の体温がじんわり伝わってきてとても心地よかった。彼に体を預けて少ししていると眠くなってきてしまった。意識がなくなる直前、ヴォックスが何か僕に話している気がした。
「シュウ、君は自分が思っている以上に愛情深い人なんだよ」