ぽつぽつ。そう聞こえた気がして片手を伸ばしてみると冷たい雨が降り始めていることに気が付いた。久しぶりにミスタとの外出だってのにツイてないな。
「ミスタ、これは相当降るぞ、家まで走るか?」
「げっ、天気雨かよめっちゃ晴れてんのに。まあ濡れて困るもんもないし歩いて帰ろうよ」
おそらく二人揃ってずぶ濡れになると思うが、ミスタが良いなら良いか、そう思って他愛ない話を互いにしながら歩いた。
「そういえば日本ではこの天気のことを狐の嫁入りと呼ぶんだ」
「狐の嫁入り?狐が結婚したら雨が降んの?」
「そういう訳ではないと思うがことわざの一種だろうな」
少しミスタが悩んであっ、と声を上げた。
「そういやさ、猿の誕生日とも言うよね」
「確かにな。そう言われてみれば変な感じだな」
「だね、どっちもオレらと縁がある」
「なら今日は狐と猿の結婚記念日にしようか」
軽いジョークを言ってみればミスタは軽快に笑った。
「オマエ鬼なのに猿でいいの?」
「それで言ったらお前も狐じゃないだろう。それに鬼と人の結婚だと冥婚になるぞ」
「鬼と人の冥婚記念日ってコト?」
「最早原型を留めていないな」
雨に降られて濡れ鼠になりつつ二人で笑いあう。家に着いた頃には服が搾れるくらいになって、玄関でミスタはへっくしょん、と大きなくしゃみをした。
「大丈夫か?大分体も冷えただろう早くシャワーを浴びた方がいい」
「ん、そうする」
2,30分して彼がバスルームから真っ白なタオルを首に掛けつつ出てきた。
「出たよ~ヴォックスも入ったら?」
「ああ、ただその前にまたちゃんと髪を拭いてないだろう。拭いてあげるからおいで」
そう言って呼ぶと彼は素直にこちらへ歩いてきてソファを背もたれにして足元に座った。タオルを手に取り水気を丁寧にふき取っていると彼はだんだん眠くなってしまったようで少し寝ては起きてを繰り返していた。
そろそろ乾いたかと思い声を掛けようとすると急にふふ、と笑い出した。なにか面白がることをしただろうか心当たりが全く無いものだから不思議に思っているとタオルを自分の頭にかけて此方を向いた。
「ねえこれこうするとさ、真っ白でウエディングベールみたいじゃない?」
眠くて頭があまり回っていないであろう目の前のあまりにも可愛い恋人の発言に天を仰いだ。こんなに可愛い生き物がいて本当にいいんだろうか。
「う゛ぉっくす~?どーしたの?」
強い衝撃で黙ったことに疑問を持ったのか眠たさに満たされた声で話しかけてきた。
「なんでもないよ、もう眠たいならベットまで連れて行こうか?」
こくりと頷いた彼を抱き上げてベットへ運んだ。ミスタは抱いている間に完全に夢の中へ行ってしまった。そういえばタオルが頭に掛かったままだった。タオルを回収しようとめくると幸せそうなに眠っている顔が見えて、その愛くるしさに耐えられず柔い唇に優しくキスをした。なんだか本当に誓いのキスのようで小恥ずかしくなりその場をすぐに離れようとする。その時、彼の手が服の裾を掴んでいることに気が付いた。嗚呼、この子は、本当にどこまで私を喜ばせたら気が済むんだ。シャワーなんて後にして、暫くはこの愛おしい恋人の傍に居ようか。