迷探偵三井「三井サン。好きです。付き合ってクダサイ」
いや、嘘だろふざけてんのか?
棒読みだし、両手はポッケに入れたままだし、目なんてあの頭突きを思い出すほど凶悪で態度悪ぃし、つーかアヤコはどーした、アヤコは。
あまりのツッコミどころの多さに思わずため息が出る。どうせ嘘、とわかっていても、一応告白の場面だ。ため息はまずい、と一瞬思ったが、宮城の視線が一層凶悪になったのを見てすぐに打ち消す。こんな態度なんだ。俺だって真面目にしなくてもいいだろ。
さて、俺は三井、湘北の知性。
考えろ。こんなふざけた告白を、宮城が突然してきた理由はなんだ?
1.普通に好き
俺はかなりのイケメンだから、思わず惚れちまうのもわかる。だが宮城は別だ。あんなことした相手を好きになれるわけがない。よって却下。
2.罰ゲーム
この渋々さからみてかなり有力な説。でも罰ゲームってんなら誰か仲間が見てるところでやるもんじゃねぇの?わざわざ「三井サン今日は残って」なんて朝から3年の教室に来てまで言うことか?いやー、なんかやらかしたかと思ってビビったぜあの時は。
3.復讐
あぁ、そうだ。俺はこいつに許されざることをした。今まで表面上は仲良くしてくれていたけど、まさかマジで仲良くしているわけがない。
きっとチームのために穏やかでない心中を押し隠してきたのだろう。それが爆発した。赤木も木暮も居なくなって、新キャプテンに就任して。多くを抱え込みすぎたのだ。俺だって最近のこいつの視線には気付いていた。殺してやるとでも言いたげな目。
爆発の方向が告白なのは謎だが、おそらくこいつの中ではすげぇ復讐計画が立っているんだろう。例えば……思いつかねぇしどうでもいいな。でも絶対これだ。
ふっ、宮城よ。お前の思惑は全て読み切ったぜ。お前は俺にとにかく復讐がしたくてたまらないらしいな!
「三井サン。なんとか言ってくださいよ」
「おう」
「っ………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………?」
「ッいや『?』じゃねぇよ!こっちは待ってんスけど!?」
「はぁ!?だから返事してやったじゃねぇか!『おう』って」
「えっ……」
一転。宮城はギャンギャン噛み付く猛獣の顔から、虚をつかれた表情になる。
宮城の思惑がどうであれ、三井の返事は最初から決まっていた。というより、一つだけしか残されていなかった。
宮城の気がそれで晴れるのなら、三井はバスケを止める以外のどんなことでも受け入れる。あの日、宮城の隣で頭を下げた時に密かに誓った思いだった。
「付き合ってやる、って言ってんだよ」
「……は……」
言う通りにしたというのに、宮城は一歩後ずさる。
自分から持ちかけたとはいえ、心底嫌いなヤツに実際に承諾されると拒否感が大きいのだろう。
少し面白くなく、ふい、と顔を背ける。
「なんだよ。嫌なら付き合わねぇよ」
「嫌じゃねぇ!なん、つーか、その……マジでOK貰えると思ってなかったんで、驚いて」
あー、やべ。まじ嬉しい、
と。明らかに喜色を滲ませた声が、口元を覆う手の隙間から漏れ聞こえる。
はは、こいつ復讐計画がうまく行きすぎて子犬みてぇに喜んでやがる。
と、思った瞬間。
宮城は子犬の顔を引っ込めて、またあの険しい復讐心丸出しの顔に戻って言った。
「じゃああの……一緒にかえりません?」