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    リョ三 お題「生クリーム」
    ファミレスで駄弁っている付き合ってないリョ三の話

    #リョ三
    lyoto-3

    ファミレス事変「俺さ、最近おかしいのかもしんねえ」

     はあ、と答えて、宮城はパンケーキを頬張った。
    トッピングの生クリームが、口に入れた途端に雪のように溶ける。ふわふわの食感の生地は、食べ慣れているはずなのにいつもよりも数倍美味しい。嬉しいけど、何でだろう。やっぱ人の金で食う飯だからだろうな。うん。

    「ボーッとすること増えたし」
    「練習中はやめてくださいよ」
    「うっせ、必死に頑張ってるだろうが。今日の練習見てなかったんか」
    「そすね、必死にやってましたね。ゼエゼエハアハアゲェゲェして。マジで早く体力つけてください」
    「〜生意気!先輩で年上だぞ俺は」
    「こないだ復帰したばっかのくせに」
    「むぐ」

     ムグて。
     変な擬音を口に出して押し黙った三井は、フォークを弄っている。目の前のチョコケーキは一向に減っていない。
    あ、よく見れば端の方が少しだけ削れてる。ちょっとは食べたみたいだ。赤いラズベリーソースが照明に照らされてキラキラと光って、美味しそう。俺も食べたい。

    「今朝なんてよぉ、考え事してたら犬のうんこ踏んじまって」
    「うわ。今食ってんスけど」
    「あとなんかこー、まぶし〜ってなること多いし」
    「ええ?世界が輝いて見えるとか?」
    「そうそれ。体育館居るとよくなる。あそこ眩しくねーのに、キラキラしてるっつーか」
    「、ぶっは、すげえクサいセリフ!それ青春病でしょ」
    「?テメエが言ったんじゃねーか。お前こそんだよ青春病って」
    「バスケできて毎日楽しすぎるってことでしょ、ようは」
    「おお、なるほど」

     三井のフォークがやっとショートケーキに切れ込みを入れた。器用に一片を切り取って、口元へと運ばれる。あぐ、と、柔らかそうな咥内へ吸い込まれていく。モグモグと必要以上に噛んで、喉仏が上下。
     この人、いつも大口開けるよな。デザートフォークに乗る程度の大きさなのに、ハンバーガーを食べるときと同じ口の開け方をしている。
    そういえばこないだ買食いした棒アイスのときだって、先端だけ舐めればいいのにわざわざ根本からベロリと舐め上げていた。そんなことしたら溶けるのが早くなるのは分かりきったことだろうに。案の定ドロドロに溶けて、手がベタベタになったとギャーギャー騒いでた。バカだ。そうして一通り騒いだ後、三井サンはベタベタになった手を──

    「──おい、年上の先輩の話ちゃんと聞け」
    「あでっ」

     はたかれた。

    「そんでよ、急に痛くなるところがあって」
    「病院行け」
    「おい。タメ口」
    「病院行けください」
    「胸なんだけど」
    「、」
    「胸が締め付けられるっつーか、きゅうってなる」
    「そっすか」
    「キラキラしてドキドキしてそいつのことで頭ン中いっぱいになってるんだよ」
    「そすか」

     宮城はパンケーキを頬張った。口に詰め込んだ。美味しいからとちまちま食べていたけれど、一気にガッと。
    三井サンのチョコレートケーキ、ちょっと食べたかったけどもう知らん。さっさと帰ろう。『話があんだけど』とか珍しく真面目くさった顔で言うから、ついてきたらこれだ。くだらない。
     乱雑に噛んで、流すように飲み込んでしまおう。と、思った時。

     がし、と手を掴まれる。え、と固まる間に、三井サンの顔が近づいて。唇。から少し外れて、口の端。
    ぺろ、と。舐められた。


    「!?!?!?」


     言葉にならない悲鳴を上げる。三井サンは素知らぬ顔。唇を親指で拭って、あ、クリームがついてる。舐め取ってくれたらしい。犬かよ。

    「ちなみに『そいつ』ってお前のことなんだが」
    「そ、」
    「今のも無意識にやってたな」
    「む、」

     まあ唇じゃねーしいいだろ、と悪びれない。ケロッとしている。俺のほうがおかしいみたいだ。

    「あ、アヤちゃん……」
    「おい他の女の名前出すなよ」
    「あ!?アヤちゃんは女神様だろーが!!!!」
    「ばっかうるせえ」

     ダアンと台バンをかませば、ファミレス中の視線が集結する。三井サンが常識人ぶって、すんません、と会釈した。元不良のくせに。今に至るまでデリカシーゼロの発言しかしてないくせに。
     帰ろう帰ろう早く帰ろう。こんなやつと一緒にいたら襲われる。席を立とうとする。だが。
    す、と差し出されたのは、ラズベリーソースが掛かったチョコレートケーキ。テラテラと光って、ものすごく美味しそうな。食いかけの。

    「……ナンスカ」
    「やるよ。食いたかったんだろ」
    「……」
    「遠慮することねーぜ!なんたって俺は三井、先輩でそして年上だからな!わははは!!」

     頭痛が痛い。
    ヨロヨロとよろめいて、仕方なくフォークを手に取った。満足げな対面がムカつく。ぶん殴りてえ。

    「お前も最近おかしいよな」

     ぶん殴ろうか。苛つきをあらわに睨みつけても、全然効いてない。鈍感の盾の防御力が凄まじい。

    「そりゃまあ、恋してるカラ」
    「お?俺に?」
    「アヤちゃん!!」
    「、うはは、知ってた」

     能天気な笑みだ。これで少しでも寂しげというものがあったのなら、……あったのならなんだ?
     三井はストローに口をつけて、ごくごくと飲んだ。満杯だったのが、一気に半分くらい減る。たまらなく美味しそうな飲みっぷりだ。CM出演できるんじゃないか。顔だけはいいんだし。あ、傷はあるケド。その上差し歯。どっちも俺がやった。へへ。
     カラン、とストローが氷にぶつかる。ケーキを口に詰めてる俺を見て2つほど瞬きをした後、息を吸い込んで吐いてから、口を開いた。

    「でもよお、お前ってアヤコの話全然しねえよな。女神とか言うだけで、具体的にどうしたいとか聞いたことねーし」
    「ア?」

     アヤちゃんのこと、何で三井サンに話さなきゃならないんだ。俺はまだ覚えてるぞ、『俺も好みだ』って言い放ちやがったこと。ライバル増やしてたまるか。

    「それに俺が手ェつけたもん異常なくらい欲しがるし」
    「い、」

     異常って。別に、他の人のもん羨ましがったりするのは、人間だったら普通の感情だろう。隣の芝生は青いもんだ。いつだって。

    「休憩中だって、アヤコのとこいけばいいのにわざわざ俺の隣来てピーチクパーチクうるせーし」
    「ゔ!?」

     うるせえだと!?アンタが死にそーなくらい青い顔して座り込んでるから、気にかけてやってんでしょーが!つかなんだよピーチクパーチクて。小鳥か俺は。

    「こないだ、ふつーにアイス食ってただけなのに、エロいとか言ってくるし……」
    「ェ……」

     エロかったんだもん……。

    「……今日だってお前、アヤコに映画誘われてたろ。友達がいけなくなったって、おこぼれみたいな理由だったけど。それ蹴って俺のとこ来るとかさ。しかも俺のほうが後に誘ったのに」
    「お、」

     俺はただ、アンタが妙に真面目な顔してたから。『宮城に話があんだけど』って。宮城って。ご指名ですよ。
    まっすぐ目ェ見て言われちゃ、そんなん。そんなんずるいじゃん。

    「残念だったな、宮城。今日ホイホイついてこなかったら、俺ちゃんと墓場まで持ってくつもりだったんだぜ?あ、そんな顔すんなよ絶望顔。俺だって傷付くっての。まー、これに懲りたらもう勘違いさせるような行動すんなよ。わかったか?」
    「かっ!」

     勘違い、させるつもりなんて。……微塵も、なかった……か??

    …………あれ。もしかして、俺、三井サンのことが、


    「だってほら、俺、お前のことがス──」

    ──キだから。

     続く言葉は、放たれなかった。何故か。俺が塞いでいるからだ。あ、もちろん手で。キスで黙らせるとかはしない。俺は三井サンじゃないので。
     三井サンは塞がれた口に目を丸くした後、しかしすぐにくしゃりと歪めた。もご、と唸られたので、ゆっくりと外す。潤んだ目が、睨むように見上げてくる。上目遣い。

    「な、んだよ、告るのもだめなのかよ……」
    「ダメでしょそりゃ」
    「、あーそ!悪かったな、キモいことばっか言って、」
    「だって!!」

     立ち上がろうとする三井を抑えつけて、押し止める。だって。だってだってだって。だってだ。

    「──夜景は?」
    「……は??」
    「高級フレンチにびっしり決めたスーツは!?花束は!?俺まだ手も繋げてないし、記念日でもないし、思い出の場所でもないし、ここファミレスだよ!?!?」
    「え、え。それプロポーズのやつじゃ、」
    「うるせー!!俺はそれが夢だったの!!ずっと!中学の時から!アンタに告白するときは、男らしく決めたとこでやって、そこで初めてちゅーするの!!俺から!!三井サンからじゃなくて、俺から!!!!」
    「わ、かったから、一回黙れもう!みんな見てっから……!」

     力ずくで座らせられ、ん、とミルクティーを差し出される。ドリンクバーは付けていたし自分のもまだ残っていたけれど、素直に飲んだ。美味しい。
     三井サンはパタパタと手で顔を扇いで、熱を冷ましている。でもすぐにブスッとした顔になって、ブサイク。

    「……つかなんだよテメエ。黙って聞いてりゃ散々に言ってくれやがって。俺の渾身の告白をよぉ」
    「渾身のって、これが?」
    「そーだよ。……一応、今日記念日だし、ここ思い出の場所なんだけど」
    「え」

     あわてて記憶を掘り返す。ぐるぐると海馬の海を漂っていると、なんだよ、と三井サン。

    「今日わかってきたんじゃなかったのか」
    「えっっと……」

     まずい。これはまずい。というか今までの俺の行動、三井サンのこととやかく言えないくらいにまずかった。想いを自覚したのはわずか数十秒前。その上告白されて『アヤちゃんに恋してる』だとか。いや、アヤちゃんの事好きなのは確かなんだけど。
     思わず身を縮こまらせると、三井サンはぶは、と笑った。もしかしたら案外怒ってなかったのかも。それどころか、ちょっと嬉しそうに見える。

    「お前、なんでもない日だと思ってたのにアヤコより俺のこと優先してくれたんか」
    「あ、ホントだ……」
    「うはは、無自覚かよ。……ここはお前と初めてデートした場所で、今日は俺の誕生日だぜ」
    「え!?」

     がた、と立ち上がる。またか、みたいな視線があたりから向けられている気がして、すぐに座る。
     そういえば確かに、復帰後間もない三井サンを初めて誘った場所がこのファミレスだった気がする。『ええ?お前そんな甘ったるいもん食うのかよ、女子みてえ』と顔をしかめられて。え、あの時からデートだって認識してたってこと?つか誕生日って。俺そんなの知らなかったんだけど。あ、今日やけに年上を強調してたのってそういうことだったの?

    「あー、お誕生日、おめでとうゴザイマス」
    「あんがと。そんじゃあ、7月31日までに考えておけよ」
    「え、何を」
    「俺のこと。その様子じゃちょっとは意識し始めてくれたんだろ?その日にフるか告るかしろい」
    「ちょ、ちょっとまってよ。記念日って別に誕生日以外でももっとあるでしょ。2ヶ月は先だよ?それ」
    「俺、記念日はできるだけぎゅっとしたい派だから。誕生日以外認めねえ」
    「なにそれ……」
    「お前のガキみてえな理想の告白像も俺からすりゃ意味わかんねーよ」

     初めて行ったファミレスは記念場所に入れるのに。変なこだわりだ。でもそういうところも──って、考えている場合じゃない。このままじゃ7月、いやもはや8月までお預けだ。せっかく両思いなのに。
     どうにかしてもっと近い日にちを提案しないと、と悩ませていたら、三井がニタリと笑う。テーブルに肘を乗っけて、頬杖をつく。からかうような表情は、昨日まではなかった二歳の差を感じさせた。

    「それとも、今告白するか?」
    「え」
    「誕生日プレゼント、くれねぇ?」
    「──」

     ここは綺麗な夜景の見える高級レストランじゃないし、花束もなければスーツもない。想いはずっと前から、それこそ中学の頃から水面下でくすぶっていたのに、それを自覚したのは今さっき。無自覚故に傷付ける言葉だって吐いた。情けない。全然かっこよくない。理想とはかけ離れている。
    でも。二ヶ月も何もしないなんて無理……!!
     宮城は顔を上げて、三井を見つめる。緊張しすぎて睨みの域だ。バクバクと脈動する心臓。左手首を掴んで、一呼吸。口を開く。

    「──好きです。付き合ってください」

     そこで、初めて。三井は顔を赤くした。ふんにゃりと、見たこと無いカオ。


    「俺も!!」
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