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    ゆうや

    @asbiusagi

    ぶるろ垢
    馬狼、國神右派の総受けそう愛され大好き人間

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    ゆうや

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    【いさばろ】

    ばろ誕小説未来捏造
    同棲済み






    目が覚める前の、脳だけが覚醒している時間、身体は脳の覚醒についてこれず光を遮断する瞼は閉じ切って気持ちに反してびくともしない。
    思うように動かない身体に内心で舌打ちをして仕方なく身体から力を抜けば、視覚が閉ざされているせいか聴覚が敏感に外の音を拾ってくるのが聞こえてくる。
    ざーっと雨が降る音がして時々強く屋根を打つ音が部屋に響く。
    ああ、雨が降ってんのか…思えば少しだけ湿気を感じる気がする。
    折角の休みなのに、とは別に思わない。
    走る予定だった日課を室内のストレッチに変更すればいい話だ。
    そういえば昨日寝る前まで煩かった男はどうしているのか。

    惰眠を貪る身体に抵抗するよう力を入れて横へ寝返りを打てばベッドが軽く沈みきしっと音が立つ。

    「馬狼?」

    直ぐに呼ばれた名前に、起きてたのかと思いながらゆっくりと瞼を押し上げれば、枕を抱えて携帯を持った状態で俺を見ている潔と目が合う。

    「おはよう」

    ぱっちりと開いた潔の目がスッと細まったかと思えば朝に浴びるには眩しい笑顔が向けられて、掠れた声で小さく返せば潔は満足そうに枕へと顔を預ける。
    にやにやと嬉しそうに笑う潔の表情に眉を寄せれば潔の手がそっと伸びてきて目元を指の腹で擦られる。

    「人の顔見て笑ってんじゃねぇ…」
    「うん、ごめん、馬狼より先に起きることなんて殆どないからさ」

    肌を撫でた指で髪の毛を掬われ指先で遊び始めた潔に小さく息を吐けば、変わらず嬉しそうに笑いながら名前を呼ばれる。

    「ンだよ」
    「誕生日おめでとう」

    まるで潔の方が誕生日なんじゃないかと思うほどに浮かれた様子にああと小さく答えればより一層にやけ面をしてずいっと距離を縮めてくる。

    「勿論、俺が1番だよな」
    「ったく…ガキかよ」

    昨日の夜からそこに焦点を当てる恋人に呆れながら、尻尾を振ってるかのような男に手を伸ばして雑に髪の毛を掻き混ぜてやる。
    誕生日なんて兄妹がいれば一年に何回も迎えるイベントで、特別なものなんてケーキを食べるくらいだ。
    あれが欲しいこれが欲しいなんざ言える訳もなくて特段日常と変わらない。
    一人っ子で年下の恋人は随分と甘やかされて愛されて育ったんだろう。
    確かに、子供の頃は、家族の中で唯一妹たちよりも優先される日だった気がする。
    それが擽ったくて嬉しかった。
    潔からの祝福の言葉は親や妹たちから言われるおめでとうとはまた違った擽ったさを感じる。

    「なぁ、今日どうする?雨だし、屋内でなんか面白そうなところでも行くか?」
    「?…良いだろ、ここで」

    潔の言葉に持っていた携帯に合点がいってわざわざ出かける必要もないだろうと思って言えば、潔の表情が少し不満げに変わる。
    ころころと表情を変える男を見ながら上体を起こして纏わりつく髪の毛を一度後ろへと撫で付ける。

    「えー、折角誕生日なんだしどっか行こうぜ」
    「行かねぇ」
    「何でだよ、家にいるより良いだろ?」
    「家のが良い」

    いつもより粘ってくる潔に若干苛つきを感じ始める。
    誕生日だからといって特別何かしたいわけじゃない。
    いつものルーティンをこなして、ただ歳を一つ取るだけの日だ。

    「なぁ、馬狼、こことか面白そうだろ?」
    「チッ、だから、行かねえって言ってんだろ」
    「俺はお前のこと祝いたいんだけど?」

    ずいっと携帯の画面を押し付けられて目に入ってくる情報は潔よりも俺が好きそうな内容で、祝いたいと言ってる潔がきっと時間を掛けて調べたんだろう事が分かる。

    「ンなの却下だ、いつも通りでいいだろ」
    「っ、おい!馬狼!」

    ふいっと顔を逸らして潔を振り切るようにベッドから抜け出そうとすれば、慌てた声で名前を呼ばれて腕を掴まれる。
    掴まれた瞬間に振り返って潔の胸倉を掴み上げ距離を縮めれば、しつこい唇へと噛みついてやる。

    「ッ!」
    「は…ッ、俺が良いっつってんだから良いんだよ」

    呆けた表情を浮かべる潔の胸倉から手を離してベッドから降りれば今度は顔を赤くして怒ったように名前を呼ばれる。
    いい気味だと鼻で笑ってベタつく身体を洗おうと浴室へと足を向ける。



    さっぱりとした足でリビングへと向かえば美味そうな匂いがしてぐぅっと腹がなる。
    それを摩って宥めながらキッチンを覗き見れば潔が鼻歌を歌いながら料理をしているところで、そっと手元を覗き見るように後ろに立てば、驚いたのかびくりと肩を跳ねさせる潔が勢いよく振り向いてくる。

    「おい、ちゃんと手元見ろ、危ねぇだろ」
    「ッ〜!おま、、お前のせいだよ」

    眉を寄せて不満そうに見上げてくる潔を見下ろしながらフライパンの中身に目を向ければ目玉焼きが2つ広がっていて、一つは目玉が潰れているのが見える。

    「これは俺が食うから」

    俺の視線がフライパンに向いたのに気付いたのか、割れた目玉焼きを突きながら恥ずかしそうに呟く潔の伏せられた瞼を上から見ながら心臓がきゅっと締め付けられるような感覚にため息を吐いて耐える。
    少しだけ背中を丸めて肩へと顎を乗せれば小さく肩を跳ねさせた後に不満そうな声が聞こえてくる。

    「なんだよ、嫌なら食うなよ」
    「嫌なわけねぇだろ…ちゃんと美味そうだ」
    「ちゃんとって失礼だな」

    また少し不満気な声にふっと鼻で笑い身体を離す。
    最近まで開催されていたリーグ戦も終わって、練習や試合でなかなか取れなかった2人だけの時間を久し振りに感じる。

    「お前が外出たくないって言うから…。俺、ありきたりなもんしか作れないんだけど」
    「言ったろ…それで良いんだよ、主役の言うことくらい聞け」
    「…分かったよ」
    「皿は?」
    「後ろの白いやつ」
    「ん」

    まだ根に持ってるのか、それとも盛大に祝えないことを悲しく思ってるのか、トーンの下がる潔の声色にどう言えば伝わるのか分からず出来る限り柔らかく言ってやる。
    サッカーIQと同時にピッチを見渡す優れた眼があるせいか、それとも生まれつき周囲に敏感に生きてきたせいか、少し気にし過ぎるきらいがある。
    お前と一緒にいるだけで良い。
    寧ろそっちの方が特別な気がして俺は好きだと、素直に口にできればと思う。
    上下する喉元から素直に気持ちを言葉に乗せて発する事はいつになっても出来ない。


    朝食を食べた後、歯磨きを終わらせて潔が食器を洗う音を聞きながらゆったりと柔軟を始め、窓の外へと目を向ける。

    「まだ降ってる?」
    「あぁ、止まねぇだろ」
    「んー」

    水の止まる音を聞いて潔の方へと目を向ければ何かを企んでいるような表情を浮かべて近寄ってくる。

    「馬狼、まだ食事制限してる?」
    「あー、まぁ、多少はな」
    「なら良いよな…!ジャーン!映画観ようぜ」

    後ろに何か隠していたかと思えば満面の笑みを浮かべ炭酸飲料とスナック菓子を見せびらかしながらソファにどかりと座り込む。
    潔なりに考えたのだろう雨の日の過ごし方に反対する気もなくて残りのストレッチの時間を簡単に見積もる。
     
    「……後5分待て」
    「ん」

    ストレッチ全てが終わるまで潔を待たせようかと思ったのは一瞬で、折角2人でゆっくり過ごせる日にそれは無粋だと思い直して今やっているストレッチの反対側だけを終わらせようと体勢を変える。

    筋肉が弛んだのを感じながら立ち上がって潔の座っているソファに近寄れば、隣をポンポンと叩く仕草を見せる潔に従ってゆっくりと腰を下ろす。

    「待たせた」
    「んーん、別に全部やったって良かったけど、俺に構ってくれるんだろ?」

    ストレッチを早めに切り上げたことに気付かれている事も、まるで俺が潔のことを考えて行動したのだと当たり前のように言って、嬉しそうに微かに悪戯気に、笑いかけてくる潔に思わず言葉が詰まる。

    「ッ…、待たされてんのに、嬉しそうにすんな…」
    「待つのが楽しい事だってあるだろ?例えば、俺はお前が風呂入ったり歯磨いたりしてるのを待ってる時間、結構好きなんだよ」
    「ンだそれ」
    「だって、綺麗になった馬狼に触れるの特別な感じするだろ?」

    潔は時々よく分からないことを言う。
    くっと眉を顰めた俺の顔を見た潔が吹き出すように笑う。

    「分かんねぇって顔してる」
    「分んねぇよ」

    何が面白いのか肩を揺らして笑う潔に顔を顰めて見せれば、俺に理解を求めているわけでもないのか話を切り上げられ、映画の選択へと話しが進む。
    結局久し振りにトトロが見たいだとか言う潔のチョイスでジブリ作品を片っ端から観ていき、ぐずぐずとよく泣く顔をぼんやりと横から眺める。

    青い監獄にいた頃は泣いている姿をあまり見なかった。どちらかといえば食ってかかってくるように見られることが多くて、こんなにも泣き虫だとは思わなかった。
    一度会ったことのある潔の両親を思えば、随分と愛されて甘やかされて育ったんだろうなと想像できた。
    泣ける環境にいたことを羨ましいとは思わない。
    ただ、隠す事なく、恥じる事なく泣いている潔の泣き顔を見ると、ああ、こいつらしいな。と思える。
    俺には出来ない事だ。

    映画を見終えてずずっと鼻を啜る潔にティッシュを渡せば目元を赤く染めた潔が泣きの混じった声でありがとうと言ってくる。
    それからジブリの次は何が良い?なんてまだ観るつもりの潔がチャンネルを握り締めてテレビを操作し、おすすめの映画欄をチェックしていく。
    たまには観ないものも見てみたいとラブロマンスをチョイスした潔を意外に感じながら、黙ってソファに背中を預ければ、直ぐに他人の作りものの恋愛がテレビの画面に流れ始める。

    こうなるだろうなとは思っていて、画面の中で流れるキスシーンをぼんやりと眺めながら隣から聞こえてくる寝息に内心でため息を吐く。
    泣きすぎなんだよ…ガキが…
    気持ち良さそうに身体をソファに預けて眠る潔を起こさないように興味もない映画の再生を止めてテレビを消し出しっぱなしのスナック菓子の袋とジュースを片付ければ脱力した潔の体をソファから引き離す。
    腕の中に感じる重みを落とさないように寝室へと足を向ければ、呑気に寝息を立てる体をベッドへとそっと寝かせる。

    目元が赤みを帯びていて、一度キッチンに戻って濡れたタオルを持って戻れば、体勢も変わらず気持ちよさそうな潔の目元へとゆっくり置いてやり、振動で起こさないようにベッドへ横になる。
    偶には昼寝したって良いか、と潔の寝息を聞きながら目を閉じる。





    ふっと意識が浮上する感覚があって目を開けば目の前が真っ暗で一気に目が覚める。
    やっば、と焦って体を起こせば目の前が明るくなって、目を覆っていたタオルがぼとりと落ちる。
    ひらけた視界はまだ明るくて、今何時なのか、何をしていたのか一瞬分からなくて、身体が固まる。

    「ん」
    「ッ、、、」

    落ちたタオルから状況を読み取ろうと寝起きの頭を働かせようとしたところで、隣から聞こえてきた低い声にびくりと肩が跳ねて、横を見れば馬狼が寝ていて息を呑む。
    モゾリと身動ぐ恋人を起こしていないかドキドキして、動きの止まった馬狼の顔を覗き込めば、枕に顔を半分埋めて横を向いて眠る顔が見えてホッと息を吐く。
    恋愛映画を見ていたところから記憶がないから、きっと寝落ちた俺をベッドまで運んでくれたんだろうな。
    昼寝する馬狼が珍しくて、顔にかかる髪の毛をそっと払う。

    窓の外からはまだ、雨が振っている音が聞こえてくる。
    朝よりかは勢いがおさまったように感じるその音に、今日、外出して祝うプランを潰されてしまったと思えば憎くも感じて、逆に家でゆっくりできていることに感謝も感じる。
    そんななんとも憎らしい雨音を聞きながら、馬狼はこんな誕生日で喜んでくれるのか不安だった。
    誕生日と言ったら、普段行くことのできない場所に行って美味しいものを食べて、欲しい物を買ってもらって、ケーキを食べる。
    揺れる蝋燭の光を早く消したいとウズウズしていた子供の頃、両親が歌ってくれたハッピバースデーがすごく嬉しくてワクワクして一年に一回訪ずれる特別な日が来るのが待ち遠しかった。
    馬狼もきっとそうなんだろうと思ってた。けど馬狼には馬狼の価値観があって、馬狼は俺とは違う誕生日の楽しみ方があるらしかった。
    いつもより多いボディタッチにドギマギして、特別感のない朝ごはんを美味しそうに食べてくれる姿に胸が締め付けられた。
    いつものルーティンを少し早めに切り上げた時なんて、思わず抱き付きたくなるくらい嬉しかった。
    俺との時間を大切にしてくれているんだと思うと擽ったくて、なんだかいつもより柔らかな雰囲気の馬狼を映画を見ながらチラチラと盗み見た。

    スースーと微かに聞こえる寝息を聞きながら馬狼に触りたくなって、夕方にかかる時間もあって起こす意味合いも兼ねて、馬狼の目元を指で撫でる。そこから頬へと指を滑らせて、柔らかくて厚い唇をなぞる。

    「ばろー」

    唇の柔らかさを確かめるようにフニフニと押しながら小さく名前を呼べば、瞼がふるふると震えはじめてゆっくりと紅い瞳が現れる。
    重そうに持ち上がった瞼が数回瞬きをして、ゆるっと視線が向けられる。

    「…目は」
    「ん?ああ、大丈夫、タオルありがとな」

    少し掠れた声と馬狼の視線が俺の顔に向けられて、大きい節だった指が伸びてくる。
    それを受け入れれば、馬狼の指が俺の目元を撫でて、頬を擦り、唇を撫でたかと思えば手が離れていく。
    俺と同じ経路を辿った馬狼の指に思わず笑ってしまって、馬狼が怪訝な表情を浮かべるのが見える。
    好きだなと思った瞬間、口から言葉が溢れていて馬狼が驚いたように固まるから、顔を寄せて柔らかな唇にちゅっとリップ音を落とす。
    舌を入れると怒られそうで、何度か唇を啄んで顔を離す。

    「っ、おま、、」
    「馬狼、好き」
    「っー、ンなこと知ってんだよ!」

    いきなりのキスに驚いていたのか顔を真っ赤にして固まっていた馬狼が食ってかかって来るように言うから嬉しくて、口が緩む。
    知ってくれてるんだなと、言いそうになってすんでのところで止まる。
    きっとこのまま口に出せば馬狼の拳が飛んでくるし、羞恥心で頑なになるのが想像できる。
    照れ隠しなのか、赤くなった顔を見られたくないのか枕を投げて来た馬狼が可愛くて、邪魔な枕を取っ払って、ベッドから降りようとする馬狼に声を掛ける。

    「な、馬狼、ケーキ買いに行こうぜ」

    俺の提案にいいとも悪いとも言葉が返ってこなくて無言の馬狼から小さく舌打ちが聞こえてきたかと思えば、さっさと準備しろと呟いた恋人に嬉々として着いていく。




    傘が雨を弾く音を聞きながら近くのケーキ屋さんまでの道のりを2人して歩く。
    なぜか家にあった傘が一本しかなくて嫌がる馬狼をなんとか言いくるめて、いわゆる相合傘で外に出た。
    近場だからと言ってもやっぱり濡れてしまうのは仕方なくて、帰ったら風呂だなぁなんて思いながら、隣を歩く馬狼を見上げる。

    「馬狼の好きなケーキって何?」
    「あ?」
    「いや、想像できなくてさ、教えてよ」

    外に出るからとわざわざ髪の毛を立てた馬狼が俺の質問になんだと言わんばかりに見下ろしてきて少し考えるようなそぶりを見せる。

    「…果物がいっぱい乗ってるやつだな」
    「え、なんで?意外だな?」
    「…喧嘩になんねぇ」
    「喧嘩?」
    「お前は知らねぇだろうが、いちごの争奪戦なんてのはブルーロックの比じゃねぇんだよ、舐めてんのか」

    ショートケーキとかシンプルなケーキの方が好きそうだと思っていれば、意外な種類のケーキと意外な理由に思わず笑ってしまう。前にあったことがある。馬狼の2人の妹。
    2人ともすごく良くしてくれて、馬狼に似て綺麗な顔をしていた。きっと馬狼は妹たちに苺を譲ってたんだろうなと思うと微笑ましくて、声を低くして凄んでくる馬狼に舐めてねえよと言いながら、兄妹のいる生活を羨ましく感じる。

    「苺がいっぱい乗ってるやつあるといいな」
    「…別に」

    店が見えてきた頃には雨が止みはじめていて、傘を畳んで可愛い外観の店内に足を踏み入れる。
    甘い匂いとショーウインドに並ぶ色とりどりのケーキに目が奪われてどれも美味しそうで決めかねてしまう。

    「馬狼、いちごのケーキあったぞ」
    「それでいい」

    一番目当てのケーキを見つけて馬狼を呼べば、恥かしいのか落ち着かないように店内を見て回っていた馬狼があっさりと言うから店員に苺のケーキとモンブランを注文して、プリンの前で足を止めた馬狼に気づいてプリンも2つ注文する。

    「っおい、プリンはいい」
    「なんで?食べたいんだろ?いいじゃん、今日は特別だろ?」

    俺の注文の声に慌てたように眉を寄せた馬狼に笑って言ってやれば、食べたいのは図星なのかきゅっと唇を結ぶのが見えて心臓がきゅんきゅんと締め付けられる。
    今まで甘えてこなかった恋人をこれでもかと甘やかすのが楽しくて、白い箱に詰められる甘いスイーツを黙って見つめる馬狼を見ながら、店員に支払いを済ませる。
    白い箱を大事そうに持った馬狼の代わりに傘を持って外へ出れば、雨は止んでいて、2人並んで水たまりを避けながら家に帰る。

    帰宅後直ぐに馬狼の手によって冷蔵庫へと入れられた白い箱は食後までお預けで、これまた嫌がる馬狼を言いくるめて2人で風呂に入る。

    特別なことをしてなくてもすごく特別な日で、俺の中の誕生日が少しだけ新しい意味を持つようになる。

    風呂で温まって、2人並んでキッチンでご飯を作って食べる。デザートに買ってきたケーキを食べて、歯を磨いて布団に入る。
    あっという間に過ぎてしまう時間の中で、いつもより近くに恋人を感じて幸せだと思う。
    だからこそ、最後に特別をあげたくて、ずっとポケットに忍ばせていた小さな箱を手の中で転がす。




    「…なぁ、馬狼」
    「あ?」
    「来年も再来年もこれから先ずっと、誕生日にちょっとだけ特別なことして、こうやってお前の隣に居たい。馬狼、愛してる、受け取ってほしい」

    カラカラな口からなんとか言葉を押し出して震えてしまわないように抑えながら伝えれば小さな箱を馬狼へと渡せば、中身を見た馬狼の目が少しだけ見開かれ、あろうことがそのまま箱を押し返してくる。

    「え…、」
    「潔、なってねぇなお前」

    断られたのかとひゅっと息を呑んだ俺に、馬狼の目が細められて、左手が差し出される。
    その意図を汲んでしまえば、嬉しさで心臓が高鳴って思わず吐きそうになる。
    ああ、俺、全然かっこよくない。

    悪戯げに目を細めて余裕そうに笑う馬狼の手を震える手で掴んで、悩んで選んだリングを指へと通した。




    end.
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